飲食店経営法人甲の代表者A
飲食店から独立したB(個人事業者・外国人)
店舗契約は、法人甲が契約しB氏に転貸する
上記契約の際に、A氏とB氏、不動産会社2名が同席
不動産会社は契約時、面談で転貸借契約書を公正証書に
するとA氏が約束したと主張。
A氏あてに内容証明郵便が届く
内容は以下の通りです。(原文通り、一部省略、括弧書き省略)
面談の際に、本契約を公正証書にすることについて貴殿と合意致しました。
しかしながらその後、貴殿は本合意を一方的に反故し、本手続きを拒否したため
本契約を締結してから2か月を経過した現在においても手続きが完了しておりません。
つきましては、本合意の通り、直ちに本手続きを進めて頂きますよう宜しくお願いいたします。
なお、引き続き貴殿が本手続きを進めない場合には、今後貴殿からの本契約における許可申請や
要望については、一切応じることはできませんので、予めご認識いただきますよう宜しくお願い致します。
以上
質問
1、社長はそんな話覚えていないと言っています。
公正証書にする必要はありますか?
2、対抗策があれば教えてください。
3、他に気を付けることはありますか?
以上です。
宜しくお願い致します。
(1)ご質問および回答の結論
>1、社長はそんな話覚えていないと言っています。
> 公正証書にする必要はありますか?
今回の事例では、公正証書を作成する法律的な義務はないものと考えられます。
ただし、下記の公正証書のメリット・デメリットや賃貸人(不動産会社)との関係についても考慮して、公正証書の作成を求めている理由次第では作成に応じるという選択肢もご検討された方が良いかと思います。
特に現実の賃貸借契約では、賃貸人の裁量がある事項もありますので、ご注意ください。
(2)回答の理由
ア 公正証書を作成する法的な義務
一般的に、契約書を公正証書で作成しなければならない義務はありませんし、賃貸借(転貸借)契約書を公正証書で作成することもそれほど行なわれていません。
A氏が公正証書にすることを約束していないというのであれば、相手の言い分に従わなければならない根拠はありません(当日どのような話があったかは定かではありませんが、仮に、公正証書の作成に関する約束があったとしても、証拠書面や録音で残していない限り、相手がこれを法的に強制するのは相当困難であると考えます。)。
ですので、基本的には、作成に応じる義務はないと考えます。
イ 公正証書にすることのメリット・デメリット
(ア)公正証書にすることのメリット
転貸借に基づき、B氏が甲に支払う賃料について強制執行が可能になるというメリットがあります。
転貸借契約書を公正証書にし、かつ、「家賃を支払えない場合には直ちに強制執行をされても異議ありません。」という趣旨の記載(強制執行認諾文言)を公正証書にしておけば、賃料が不払いになった場合、裁判を経ることなく、すぐに強制執行(財産の差押え)をすることが可能になります。
これが、公正証書にすることの最大のメリットです。
(イ)公正証書にすることのデメリット
ⅰ 費用
費用は、転貸借契約書の賃料と契約期間によって決まりますが、数万円程度の手数料がかかります。たとえば、賃料が月額50万円、契約期間が2年間とすると、手数料は2万3000円になります。
なお、作成の手数料は契約者で分担することが多いです。
ⅱ 手間
・事前準備
まずは、公正証書の文案の内容を公証役場の公証人(公正証書を作成する方)に電話やファックスで伝えます。場合によっては、公証役場に行って、公証人と直接話をすることが必要になる場合もあります。これらの情報をもとに、公証人が公正証書を作成します。
・作成当日
作成当日、公証役場に行き、こちらと相手方が公証人の作成した公正証書に署名・押印して完成です。
このように、公正証書の作成にはある程度の手間がかかります。
ウ 不動産会社との関係性の考慮
不動産会社は、内容証明まで送ってきており、公正証書にしなければ、今後の許可申請や要望には応じられないとの話をしていますので、このような事実上の不利益はあり得ます。たとえば、B氏以外に転貸したいと思ったとしても、不動産会社の承諾が得られなければ、転貸することはできません(賃貸借契約書で、転貸を認める要件等が定められており、その場合は、賃貸人は必ずOKを出さなくてはならないという規定があれば別ですが、普通は許可制になっているかと思います。)。
不動産会社が、転貸借契約書を公正証書にすることを要求するというのはあまり一般的ではないです。
不動産会社は、内容証明まで送って、公正証書にすることをここまで強く求めてきているのは、今回の事例に関して、何か特殊な理由があるのかもしれません。公正証書にしてほしいという理由を不動産会社に確認して、それが合理的なものであれば、公正証書の作成に応じるというのもあり得る選択肢かもしれません。手間と費用の点を除けば、転貸借契約書を公正証書にしておくことに関して、甲のデメリットはありませんので。
2 ご質問②
>2、対抗策があれば教えてください。
対抗策というよりは、公正証書にしないという選択をされるのであれば、公正証書にする約束はしていないので作成には応じられないという回答をすればよいと考えます。
こちらが作成に応じなければ、相手はこれを強制するのは難しいので、これで話は終わる可能性は高いです。
ただ、上記のとおり、今後の不動産会社との関係性がこじれるおそれもあるので、公正証書にしてほしいと言っている理由次第では、作成に応じるという選択肢もないではありません。その場合には、上記の費用を不動産会社に支払ってもらうように事前に交渉することはありかと思います。
3 ご質問③
>3、他に気を付けることはありますか?
A氏にもう少し事情をご確認いただいた方がよいかもしれません。
特に、今回、不動産会社が転貸借契約書を公正証書にしろと内容証明まで送って強く求める背景に何らかの事情があるのかもしれません。
その辺りも含め、無料相談をご利用いただければ、もう少し適切なアドバイスができるものと思いますので、ご利用をご検討いただければと存じます。
よろしくお願い申し上げます。