顧問先の社長の長男が社長宅の近くに住んでいるのですが、住民票は社長宅
になっています。また、長男は成人していて生計は別になっています。
【質問】
長男はアルバイトをしているようですが、社会保険には入っておらず、国民
年金の請求が住所地である社長宅に届くそうです。また、電話を掛けてきて
支払を請求されるそうです。書面には差押えもあると書かれているそうなんで
すが、成人になっている長男の国民年金を父親である社長が支払わないといけ
ない義務はあるのでしょうか。
よろしくお願いいたします。
>長男はアルバイトをしているようですが、社会保険には入っておらず、国民
>年金の請求が住所地である社長宅に届くそうです。また、電話を掛けてきて
>支払を請求されるそうです。書面には差押えもあると書かれているそうなんで
>すが、成人になっている長男の国民年金を父親である社長が支払わないといけ
>ない義務はあるのでしょうか。
父親と長男が別居し生計も別という状況であれば、父親には「世帯主」としての保険料の支払義務はないと考えられます。
今後の対応としては、請求してきている年金事務所に、長男は引っ越しをして別の住居で生活しており、父親は「世帯主」としての支払義務を負わないということを伝えるべきでしょう。
ただ、年金事務所としては、住民票上の記載に基づき、父親が長男の「世帯主」かどうかを判断すると思われますので、こちらとしては、父親と長男が同一世帯ではないということを証拠に残しておくため、長男の住民票を現在の住居に移された方がよいでしょう。
2 回答の理由
(1)国民年金保険料の支払義務者
国民年金の保険料の支払義務は、被保険者である長男本人(国民年金法88条1項)にあるのは当然ですが、その他に、
「世帯主」はその世帯に属する被保険者の保険料を連帯して納付する義務を負う
とされています(国民年金法88条2項)。
今回、住民票の世帯主が父親になっており、長男がその住民票に記載されているため、
父親に対し、長男の「世帯主」として保険料の支払義務を負うということで、請求がきているものと思われます。
(2)父親が「世帯主」としての支払義務を負うか
上記のとおり、世帯主である父親は、「その世帯に属する被保険者」の保険料について、連帯して支払義務を負います。「世帯」の意味について、国民年金法に明確な定義はありませんが、統計法の委任を受けた「国勢調査令」では、
「世帯」とは、住居及び生計を共にする者の集まり又は独立して住居を維持する単身者のことをいい(国勢調査令2条2項)、そして、「世帯主」とは、世帯(・・・)を主宰する世帯員をいうと定められています(国勢調査令2条6項)。
この「世帯」「世帯主」の意味を前提とすると、父親が「世帯主」として、長男の保険料の支払義務を負うためには、【父親と長男の住居が同一、かつ、生計が同一である
= 同一世帯に属する】ということが必要になります。
現在、長男と父親の住居は別で、生計も別とのことなので、長男は、「世帯主」である父親の「世帯」には属していないといえ、父親は、長男の保険料の支払義務を負わないことになります。つまり、実態としては、長男は父親の「世帯」には属していないが、長男は住民票を移していないことから、形式上は、「世帯」に属しているという形が残ってしまっている状況です。
(3)今後の対応
今後の対応としては、上記の考え方に基づいて、請求してきている年金事務所に対し、長男が引っ越しをして別の住居で生活しており、父親は「世帯主」としての支払義務を負わないということを伝えるべきでしょう。
ただ、年金事務所としては、住民票という形式上の明確な基準があるので、これに基づいて、同一世帯に属しているという主張をしてくる可能性がかなり高いです。こちらとしても、すでに同一世帯ではなくなってることの証拠を作っておく方がよいと存じます。
他に支障がないのであれば、長男の住民票について、移転の届出をしておいた方がよいでしょう。そうすれば、同一世帯ではないということの証拠になり、年金事務所との交渉もスムーズに行く可能性が高くなります。
ただ、住民票移転の届出の際に、現在に近い日を転居日としてしまうと、逆に、最近まで同一世帯であったという証拠になってしまうので、実際の引っ越し日を転居日としておいた方がよいと考えます。なお、転居・転入の届出は、法律上、14日以内に行なわなければならないこととされており、あまりに長い間(目安としては数年間程度)届出を怠っていると、最高5万円以下の過料を支払わなければならないケースもありますので、ご留意ください。地域にもよりますが、まれに過料の支払請求がくるケースはあります。
よろしくお願い申し上げます。