確認したいところはAアパートのA借入金、BアパートのB借入金など複数の
ひもつきな借入金がある場合の取り扱いについて教えてください。
調停なのか裁判なのかでも取扱いや相続税の記載方法は変わってくるのでしょうか。
パターン1
遺言書に債務の記載がある場合の取扱いはどのように考えるのでしょうか。
質問1-1
Aアパートの土地と建物と借入について長男
Bアパートの土地と建物と借入について次男と
記載があれば銀行には有効ではないかもしれなけど相続人間は有効でそのとおりに相
続税の
申告書を作成するのが正しいでしょうか。
つまり債務の記載があれば尊重して相続税の申告書に記載ができるものでしょうか。
質問1-2
仮に遺言書でAの債務については長男が承継すると記載があってBの借入金について
記載がない
遺言書であれば下記質問2の状態になった場合の考え方と申告書の記載をどのように
したら
よいのでしょうか。
A借入金は長男負担で、記載のないB借入金は法定相続分で債務控除するものので
しょうか。
パターン2
遺言書に債務の記載がない場合の取扱いはどのように考えるのでしょうか。
質問2-1
仮にもめなかった場合として負担者がそれぞれAアパートは長男、Bアパートは次男
として
債務もそれぞれひもつきに承継することに合意できれば当然に、Aアパート分の借入
金は長男、
Bアパート分の借入金は次男の債務控除として相続税申告できると理解していますが
合っていますでしょうか。
質問2-2
これが1番難しい問題ですが、
仮にもめている場合の相続税の申告書の記載について、不動産は特定遺贈で各人が相
続するけど
債務の記載がなく、債務の負担者も話し合いができていないと仮定するとA,B借入
金は法定相続分で
記載するのが通例でしょうか。
仮にそうだとすると長女がいたとして不動産を取得しなくても法定相続分の債務を記
載することになって
しまうことになるかと思います。
つまりひもつきの債務控除とするこは可能なのでしょうか。
質問3
先生的に遺言書に債務の記載をするかしないかではどちらがいいと思われていますで
しょうか。
参考URL
総論として、債権者(銀行など)と相続債務の関係を提示した上で、
いただいた質問の順に回答→理由という形で回答させていただきます。
第1 債権者との関係
まず、債権者(銀行など)との関係でいうと、借入債務は可分債権になりますので、法定相続分に従って各相続人が支払う義務を負います。これは、債務者(相続関係者)の意思によって、債権者が不利益を被ることになるからです。例えば、質問1-1の遺言があっても、長男は、Bの債務を法定相続分の割合で、債権者に履行(弁済)する義務を負いますので、ご注意ください。
第2 相続人間の内部関係と債務控除の取扱い
1 (パターン1・質問1-1)について
(1)ご質問および回答の結論
>パターン1
>遺言書に債務の記載がある場合の取扱いはどのように考えるのでしょうか。
>Aアパートの土地と建物と借入について長男
>Bアパートの土地と建物と借入について次男と
>記載があれば銀行には有効ではないかもしれなけど相続人間は有効でそのとおりに相続税の
>申告書を作成するのが正しいでしょうか。
>つまり債務の記載があれば尊重して相続税の申告書に記載ができるものでしょうか。
このケースであれば、実務上、
長男がAアパートを相続する「負担として」その借入債務も相続する
次男がBアパートを相続する「負担として」その借入債務も相続する
という遺言も有効と考えられており、その遺言に従って、相続税の申告も可能と考えられます。
(2)回答の理由
Aアパートの土地と建物について長男が相続し、その負担として、Aアパートに関する借入債務も長男が相続するという遺言は、相続人間の内部負担割合という点においては、実務上、有効と考えられています。
そして、長男は、負担した部分のAアパートに関する借入債務の返済義務を負っていますので、相続税の申告においても、これを考慮することができると考えられます。
つまり、相続税法13条1項の「その者の負担に属する金額」が、この内部負担割合によるということになります。
なお、引用いただいたURLの最高裁判決平成21年3月24日は、1人に対して全財産を相続させるという遺言がなされた事案であり、その1人の相続分を100%とするという「相続分の指定」がなされたということが前提となっていると考えられています。ご質問のケースとは異なっていますので、このまま当てはめることはできません。
そもそも、債務は遺言の対象ではないという考え方があり、特定の債務を特定の人に相続させるということだけを遺言で定めるということは、相続人間の問題でもできないという考え方もあります。現状では、特定の債務を誰かに帰属させる場合には、あくまで財産の相続に付随する形で債務も負担させることができるという限度で有効と考えておくことがベターかと思われます。
2 (パターン1・質問1-2)について
(1)ご質問および回答の結論
>パターン1
>遺言書に債務の記載がある場合の取扱いはどのように考えるのでしょうか。
>仮に遺言書でAの債務については長男が承継すると記載があってBの借入金について
>記載がない遺言書であれば下記質問2の状態になった場合の考え方と申告書の記載をどのようにしたらよいのでしょうか。
>A借入金は長男負担で、記載のないB借入金は法定相続分で債務控除するものので
>しょうか。
① 遺産分割協議等で、Aアパートは長男、Bアパートは次男として債務もそれぞれひもつき
に承継することに合意できた場合
Aアパートの借入金は長男、Bアパートの借入金は次男として、債務控除をすることができます。
② 遺産分割協議等がまとまらなかった場合
A借入金は長男負担で、B借入金は法定相続分で債務控除することになると考えられます。
(2)回答の理由
ア 上記①について
遺言がなされていたとしても、相続人全員が合意をすれば、遺言と異なる内容の遺産分割協議をすることも可能とされています。
本来、債務は相続財産に含まれず、遺産分割の対象にはなりません。もっとも、相続財産をどのように分けるかと、相続債務をどのようにわけるかは、
密接に関連しているため、実務上、遺産分割協議の中で、相続債務の分け方も決めてしまうこともあります。
その場合、債務の相続人内部の負担割合としては、遺産分割協議で決めたものになります。
遺産分割協議で、Aアパート分の借入金は長男、Bアパート分の借入金は次男が負担するということで決めたとすれば、相続人内部の間では、このように債務を負担するということが確定します。
ですので、遺産分割協議で、Aアパートは長男、Bアパートは次男として債務もそれぞれひもつきに承継することに合意した場合には、そのとおりに、債務控除をすることになると考えられます。
イ 上記②について
上記のとおり、Aアパートの土地と建物について長男が相続し、その負担として、Aアパートに関する借入債務も長男が相続するという遺言は、実務上、有効と考えられています。
ですので、A債務については、長男の負担部分として債務控除することになると考えられます。
一方、B債務については、遺言では定められていないため、原則通り法定相続分の割合に応じて、相続人に帰属するということになります。ですので、法定相続分の割合に応じて、債務控除をすることになると考えられます。
この場合も、具体的な事実関係などによって、Bアパートを取得させた以上、Bの債務も負担させる意味であったとの認定はありえます。ただし、Aアパートについては、債務の記載をしておきながら、Bアパートについては、記載がないということですと、遺言の内容の解釈としては、このように認定することは難しいかと存じます。
3 (パターン2・質問2-1)について
(1)ご質問および回答の結論
>パターン2
>遺言書に債務の記載がない場合の取扱いはどのように考えるのでしょうか。
>質問2-1
>仮にもめなかった場合として負担者がそれぞれAアパートは長男、Bアパートは次男
>として
>債務もそれぞれひもつきに承継することに合意できれば当然に、Aアパート分の借入
>金は長男、
>Bアパート分の借入金は次男の債務控除として相続税申告できると理解していますが
>合っていますでしょうか。
Aアパート分の借入金は長男、Bアパート分の借入金は次男の債務控除として、相続税申告をすることが可能と考えられます。
(2)回答の理由
上記「2(パターン1・質問1-2)について」のとおりです。
4 (パターン2・質問2-2)について
(1)ご質問および回答の結論
>パターン2
>遺言書に債務の記載がない場合の取扱いはどのように考えるのでしょうか。
>質問2-2
>これが1番難しい問題ですが、
>仮にもめている場合の相続税の申告書の記載について、不動産は特定遺贈で各人が相
>続するけど
>債務の記載がなく、債務の負担者も話し合いができていないと仮定するとA,B借入
>金は法定相続分で
>記載するのが通例でしょうか。
>仮にそうだとすると長女がいたとして不動産を取得しなくても法定相続分の債務を記
>載することになって
>しまうことになるかと思います。
>つまりひもつきの債務控除とするこは可能なのでしょうか。
A、B借入金について、法定相続分で記載することになると考えられます。
(2)回答の理由
借入金については、遺言や遺産分割協議でその負担割合の変更がない限り、法定相続分にしたがって、それぞれの相続人が負担すると考えられます。
今回のケースでは、遺言でも遺産分割協議でも、債務の負担割合を変更するということは決められていないため、法定相続分にしたがって、相続人が負担するということになります。
長女が遺言によって、何の財産ももらえなかった場合、長女は、遺留分減殺請求をすることができ、その限度で、長女の取り分は保証されることになります。また、全体のバランスで相続放棄をするという選択もあります。
ただし、歯切れが悪く申し訳ないのですが、事実経緯等から、遺言の内容の解釈として、各不動産に付随して、それに伴う借入金の返還債務も各不動産を承継されたものが負担するという認定もなされる可能性はあります。単純に各不動産の誰に帰属させるかが遺言書にあるからというだけでは借入債務も承継するとはならないと考えられますが、ここは遺言の経緯等から総合的に判断されることになります。
この債務の部分は、明確に遺言書に記載しておいた方が紛争を防止するために良いと思われます。
5 (質問3)について
>先生的に遺言書に債務の記載をするかしないかではどちらがいいと思われていますでしょうか。
この部分については、どのような財産があり、どのような債務があるのかを前提にどのような記載をするかを判断していくので、一般論として、どちらが良いと言い切るのは難しいなという印象です。
実務上認められないような特定の債務の負担を特定の相続人にさせたりすると、その有効性について問題となり、後に争いの原因となるケースもありますので、その辺りは、注意を払って作成します。
ただし、上記でいただいた事例の場合(不動産とそのローン等)であれば、分かりやすい事例ですので、債務を記載した方が良いと思います。つまり、実務上有効と言える範囲のものであれば、債務を明確に記載しておくことがベターかと思います。
よろしくお願い申し上げます。