某有名コンサル会社へ勤務していた方がいます。
昨年退職し退職金を1億程度もらい申告も適正にしております。
今回、不当な解雇や解雇によるその方のその後の事業に
影響を与えたということで、裁判になっており、どうやら
裁判所以下での和解になるようです。
その際、コンサル会社との間でへどういう名目での和解金とするか
交渉し、コンサル会社はこちらの要望をのむという前提です。
退職金的な性質であれば→退職所得
慰謝料 損害賠償的性質→所得税非課税
と考えますが、その和解金金額が1億だとした場合、慰謝料という和解の名目でしたら
すべて損害賠償的なものとして非課税という判断は妥当でしょうか?
金額によっては、一時所得のようになるような判例などは過去に
なにかご存知ですか?
質問が税務の話ですが、何か注意しておく点など、アドバイスありましたら
お願い致します。
>和解金金額が1億だとした場合、慰謝料という和解の名目でしたら、すべて損害賠償的なものとして非
>課税という判断は妥当でしょうか?
>金額によっては、一時所得のようになるような判例などは過去に
>なにかご存知ですか?
これまでの裁判の経緯などの具体的な事実からの認定になりますが、「慰謝料」という名目であるというだけですと、1億円全額を非課税とすることは厳しいかと思われます。
下記「2 回答の理由」のとおり、損害賠償として非課税になるかどうかは、名目だけではなく、その金員の実質的な内容がどのような意味合いなのかで判断されることになります。
和解金について、その一部を一時所得とした判例もあり、「2 回答の理由」に要約と本文も挙げておりますので、ご参照ください。
なお、裁判実務上あまり一般的ではありませんが、裁判の経緯等を勘案した上で、和解契約書の金額の名目(例:慰謝料として「・・・円」、退職金として「・・・円」)を分けるという対策も調査対策としては有効かと思います。
2 回答の理由
(1)損害賠償金として非課税となるもの・ならないもの
ア 損害賠償金の非課税規定の根拠と理由
所得税法上、心身の損害による損害賠償金、資産の損害による損害賠償金、心身または資産に加えられた相当の見舞金については非課税とされています(所得税法9条1項17号、所得税法施行令30条1~3号)。
今回のように、「慰謝料」ということであれば、心身の損害による損害賠償金(所得税法施行令30条1号)として、非課税になり得ます。
所得税法がこのような損害賠償金を非課税とした理由は、これらの金員が受領者の心身、財産に加えた損害を補てんし、いわば、受けた損害を埋め合わせるためのお金なので、損害賠償金を受け取ったことにより、プラスマイナスゼロになるだけで、受領者の利益(プラス)にならないからです。
ですので、非課税とされるためには、その支払の名目が「損害賠償金」などとなっていればよいというものではありません。
代表的な裁判例の言い回しですと、「納税者に損害が現実に生じ、または生じることが確実に見込まれ、その填補のために支払われるもの」に限られるとされています(大阪地判昭和54年5月31日)。
イ 非課税の範囲
(ア) 本来所得となるべき金額に対応するもの
損害賠償金が、本来所得となるべきものまたは得べかりし利益を埋め合わせるために支払われるものである場合には、その名目が「損害賠償」等であったとしても、その実質は所得(利益)を得た(受領者のプラスになる)のと同視されるので、非課税の対象にはならず、その性質に応じて各所得に分類されます(裁決昭和57年3月26日)。
条文等からも明確な例は、事業として販売している商品が配送事故で壊れてしまった場合に、その補填として受け取る賠償金があります(所得税法施行令30条2号かっこ書、94条1項1号)。賠償金を受け取ることで、実質販売した対価を得ているといえるので、事業所得の収入金額となります。
(イ) 必要経費を補填するためのもの
他にも、「損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額」は非課税にならないとされています(所得税法施行令30条柱書のかっこ書き)。
例としては、経営する店舗にトラックが突っ込んで建物に被害が生じ、仮店舗を借りて営業した場合の仮店舗の賃料相当額を、損害賠償として受け取る場合が挙げられます。この場合、賃料相当額は、事業所得の計算上必要経費になるので、それに対応する損害賠償金は、非課税にはなりません。
(2)損害賠償金として非課税になるかどうかの判断基準
つまり、税務上は、名目のみではなく、その金員の実質的な意味合いによって、上記のような非課税の対象となる「損害賠償金」となるかどうかが判断されることになります。
そして、その金額の決定について、交渉や裁判における請求内容、主張・立証の経緯などの具体的な内容から、どのような意味合いの金員なのかを判断していくことになります。
今回のように「慰謝料」とすると「心身に加えられた損害」を補てんするための損害賠償金として、非課税になり得ますが、非課税の対象になるのは、実際に生じた心理的な損害の限度にとどまると考えられます。ただ、この心理的な損害に対応する部分がいくらなのかという問題は、厳密には判決を通じてしか明らかになりませんので、実務上は、税務調査に耐えうるだけの資料がある範囲(調査官の指摘に反論できる範囲)で非課税としていくことになると思われます。
もちろん、具体的な内容によりますが、一般的に慰謝料で1億円というのはかなり高額になりますので、その全額が「心身に加えられた損害」と認定できるかというとなかなか難しいかと思います。
既に1億円の退職金を受け取っているということですので、事案としては異なるかもしれませんが、労働問題絡みで、よくある例でいうと
不当解雇があり、不当解雇から解決までの期間に受け取れなかった給与分の請求と、不当解雇により被った心理的な損害を慰謝料として請求し、「解決金」などの名目で未払給与と慰謝料をあわせて受け取ることがあります。この「解決金」のうち、未払給与に対応する部分については、理論的には、給与の請求ができる時点(給与支払期日)で権利確定して、給与所得となるという場合もあります。
(3)参考になる裁判例や裁決例
上記の説明の中でも出てきている裁判例をご紹介します。
○ 大阪地判昭和54年5月31日
マンション建築業者と近隣住民が、マンションの建築をめぐり紛争になり、その紛争を解決するため、業者から近隣住民に和解金として310万円が支払われたという事案において、310万円の金員の性質は、隣にマンションが建築されることによる損害の賠償と、建築について近隣住民の承諾を得るための承諾料の性質を有している。そして、損害額としてはせいぜい30万円にすぎないので損害賠償金として非課税となるのはこの限度で、残りの280万円のうち、特別控除額(所得税法34条2項)40万円を差し引いた240万円は、一時所得として課税の対象となるとされた事例
本文はこちらをご参照ください。
http://pct-law.jp/wp-content/uploads/2016/11/119f61a64be2e687587dea522b7808e6.pdf
○ 裁決昭和57年3月26日(TAINSコード:J23-2-02)
裁判上の和解により不動産の買主である請求人が支払いを受けた和解金を一時所得に該当するものであるとした事例
本文はこちらをご参照ください。
http://pct-law.jp/wp-content/uploads/2016/11/58b02e8c3fb07a40358a149aa481981d.pdf
(4)備考
もちろん、裁判の経緯等を勘案した上で内訳を決めなくてはなりませんが、和解契約書の金額の名目(例:慰謝料相当額として「・・・円」、退職金相当額として「・・・円」)を分けるという対策も実務上の調査対策としては有効かと思います。
裁判実務上は、このように名目を分けるということはあまり一般的ではありませんが、相手方が、名目は自由に応じてくれるという前提であれば、このような対策も可能かと思います。
よろしくお願い申し上げます。