不動産 民法 借地借家法

競売になった物件からの立ち退き

(状況)
・A社は介護事業者です。
・介護事業所として賃借していた家屋が競売になりました。
・現在、落札者から6月以内に立ち退きを要求されています。

(質問)
・短期賃借権が廃止された、と聞いていましたが、他に手段はないでしょうか?
・というのも、A社が事業を営む地域では同種類の賃貸物件がほとんど見つからないのが現状で、新しい物件が見つからなければ事業が成り立たなくなります。
・落札者は家屋を取り壊して更地にして売り出す予定で賃借契約に応じてくれません。

どうぞよろしくお願いいたします。

1 ご質問および回答の結論
>・短期賃借権が廃止された、と聞いていましたが、他に手段はないでしょうか?

※以下を前提にご回答いたします。前提が異なる場合には、お手数ですがご指摘をお願いいたします。
・建物に抵当権がついており、抵当権実行による競売により落札者が建物を落札した。
・A社が建物を賃借したのは、建物に抵当権設定登記がなされた後である。
・落札者は建物だけではなく、建物が建っている土地も同時に落札した。

 心苦しい回答になってしますが、
 法律上、落札者が建物を落札したとき(正確には、競売代金納付による所有権取得時)から6か月以内に、A社は建物を立ち退かなければなりません。落札者が今後建物の賃貸に応じないということであれば、このまま建物に居続けることは難しいです。
 ただし、6か月の期間中にどうしても次の物件が見つからない場合には、賃貸という形でなく、従前の賃料を支払って物件が見つかるまでの間、事実上利用し続けられるよう交渉することも考えるべきでしょう。

 なお、建物の立退きにあたり、もとの建物所有者(貸主)に対して、敷金(保証金)の返還請求をすることが法的には可能です(競売にかかってしまうような状況なので、現実的な回収は難しいとは思われますが。)。また、賃貸借に優先する抵当権が設定されている場合には、賃貸借契約時に、仲介する不動産会社は、建物上に抵当権が登記されていることを、重要事項説明書にて事前に説明をしなければなりません。それがなされていない場合には、仲介の不動産会社に対して損害賠償等の責任追及をすることも考えられます。

2 回答の理由
(1)A社が落札者に対して、従前の賃貸借を主張できるか

建物が抵当権実行による競売により落札された場合、落札者に対して、建物の借主が賃借権を主張できるかどうかは、
抵当権設定の登記がされた時点と、建物を借りた時点のどちらが先であったかにより決まります。
抵当権設定の登記が早ければ賃借権を主張できませんし、建物を借りた時点が早ければ賃借権を主張することができます。

ご質問のケースでは、落札者が、6か月後に建物を立ち退くように主張しているということですので、抵当権設定の登記が先になされており、賃借権を主張できないケースであると考えられます。以下、その前提でご回答します。

(2)6か月間の明渡猶予の制度

抵当権登記が先になされていた場合、A社は落札者に対して賃借権を主張できませんので、現在、法律上の権限なく建物を利用しているという状態になってしまいます。本来であれば、すぐに立ち退きをしなければなりません。
もっとも、抵当権による競売の場合、建物の借主は、落札者が建物を落札したとき(正確には、競売代金納付による所有権取得時)から6か月間は明渡しを猶予されるという制度があります(民法395条1項)。この制度により、A社は6か月間は建物に居続ける権利があります。落札者が6か月以内の立退きを要求しているのは、この制度を考慮してのことと思われます。

ですので、A社は、明渡猶予制度の期限である6か月以内に建物を出て行かなければなりません。
なお、落札者はA社に対して、A社が建物を利用している期間中、建物使用の対価(通常は従前の賃料額と同額とされます。)の支払いを請求することができ、A社が請求期限までに支払わなかった場合は、すぐに立退きしなければならないことになります(民法395条2項)。ですので、落札者から対価の支払いの請求があった場合には、期限までに支払うようにしてください。

(3)今後の対応について

落札者が、A社に今後も賃貸することを承諾してくれれば、A社は建物に居続けることができますので、この点について交渉することも1つの手段です。もっとも、ご質問にあるように、「落札者は家屋を取り壊して更地にして売り出す予定」ということであれば、落札者が交渉に応じてくれる可能性は低いものと思われます。

有効な解決策をご提示できず心苦しい限りですが、現実的な方策としては、早期に次の物件を見つけて立ち退くという方法しかないかと存じます。どうしても次の物件が6か月間の中で見つからないということであれば、賃貸という形でなく、従前の賃料額を支払って物件が見つかるまでの間、事実上利用し続けられるよう交渉することも考えるべきでしょう。

(4)その他

ご質問の趣旨からは外れますが、A社は、建物の明渡しに伴って、当初貸主に預けた敷金(保証金)の返還請求をすることができます。いくら請求できるかは、当初の賃貸借契約がどのような内容になっているかによりますのでご確認ください。
たとえば、契約によっては、明渡時に、預かった保証金から○○万円を差し引いて返還するなどとなっていることもあり、その場合は、その差し引いた残りの金額を請求することになります。なお、もとの貸主は、所有物件が競売にかかってしまうような状況で、金銭的に厳しい状況にあると思われますので、現実的な回収は難しいかもしれません。

また、賃貸借に優先する抵当権が設定されている場合には、賃貸借契約時に、仲介する不動産会社は、建物上に抵当権が登記されていることを、重要事項説明書にて事前に説明をしなければなりません。それがなされていない場合には、仲介の不動産会社に対して損害賠償等の責任追及をすることも考えられます。

よろしくお願い申し上げます。