【事実関係】
H8 知人に1.35億円貸付け(知人の事業資金のため)
(契約書はなく、ただ単に貸したという内容の覚書あり(条件等未記載))
当初、当該知人は不動産を担保に銀行借入をする予定で、
そのつなぎ資金として借り入れると説明し、不動産の権利書も
見せてもらっていた。しかし、実際には、権利書などは偽造したものであった。
H12 上記が発覚し、告訴(顛末は未確認)。
H15 当該知人と債権債務が存在することの確認書(公正証書)を作成
H20 弁済もなく、連絡がとれなくなったので、戸籍附票の住所に内容証明郵便
→返ってこないので、届いたようだが、弁済は無し
H22 H18同様、戸籍附票の住所に内容証明郵便
→受取人不在で返還
上記の期間中、何ら返済を受けていない
【質問】
本人が市で開催している無料法律相談に行った際に、当該債権は、
とっくに時効が成立しているので、相続財産に加えなくてもよい、
と言われたそうです。
1.法律相談窓口の弁護士が言うとおり、消滅時効が成立しているでしょうか。
2.1の回答が仮にNoの場合、当該弁護士の勘違いポイントはどの辺りなのでしょうか。
以上、宜しくお願い致します。
○被相続人は既に死亡していること
○知人(債務者)の時効による消滅の効果を主張しますという意思表示(「時効の援用」)がないこと
を前提に回答いたします。相違があればご指摘いただけますと幸いです。
1 ご質問及び回答の結論
(1)ご質問①~時効が成立しているか~
>本人が市で開催している無料法律相談に行った際に、当該債権は、
>とっくに時効が成立しているので、相続財産に加えなくてもよい、
>と言われたそうです。
>1.法律相談窓口の弁護士が言うとおり、消滅時効が成立しているでしょうか。
現時点で、消滅時効の期間は経過していますが、「時効の援用」がなされていないため、貸付債権は消滅していません。
ですので、貸付債権も相続財産として計上しなければなりません。もっとも、その評価額については、消滅時効の期間が経過していて、時効の援用がなされればいつでも消滅する弱い権利であるということを考慮して、評価額を減額することになると考えられます。
実務上は、「いくら」と評価することが難しいため、0評価もあり得るかとも思います。ただし、金額が大きい分、リスクがあるため、お客様へのリスク説明(メール等で証拠を残すこと)、及び税務署と一度具体的に話をする機会(録音等で記録を残しておくのが望ましい)を得た上でなされた方が良いと存じます。
また、下記の方法もご検討ください。
(2) ご質問②~弁護士の勘違いのポイント~
>2.1の回答が仮にNoの場合、当該弁護士の勘違いポイントはどの辺りなのでしょうか。
弁護士の勘違いポイントは、時効が援用されているかどうかを見落とした点にあると思われます。
2 回答の理由
(1)ご質問①~時効が成立しているか~
ア 時効期間について
①通常の債権(個人間の貸付けなど) 10年(民法167条)
②商取引によって生じた債権 5年(商法522条)
個人間の貸付であれば時効期間は通常は10年ですが、今回は「知人の事業資金のため」とのことなので、その他の事情によっては、②「商取引によって生じた」債権として、時効期間が5年間となる可能性もあります。
なお、どちらにしても、今回の結論には影響はありません。
イ 時効の中断事由
債務の承認(債務があることを相手が認めるような行為)があれば、時効期間がリセットされ、また初めからカウントされることになります。
今回のケースでは、
>H15 当該知人と債権債務が存在することの確認書(公正証書)を作成
が、債務の承認にあたりますので、この時点で時効期間がリセットされます。
もっとも、現在、時効期間がリセットされた平成15年から、さらに13年間経過していますので、今回の債権の時効期間が5年でも、10年でも、現時点では時効期間が経過していることになります。
ウ 時効の援用(民法145条)について
時効期間が経過したら、法律上、自動的に債権が消滅するかというと、そうではありません。この点は、誤解が生じやすいところなので、ご注意ください。
判例上、時効期間が経過した後、「時効の援用」があってはじめて、債権が消滅するとされています。
「時効の援用」というのは、相手が、時効による消滅の効果を主張します、という意思表示です。
今回のケースでは、知人から何の連絡もなく、時効の援用がなされていないということを前提とすると、法律上、貸付債権は消滅しておらず、まだ存在しているという扱いになります。ただ、相手に請求したときに、時効を援用されたら消滅してしまうので、事実上の回収は難しいです。
エ 相続財産評価について
時効の援用がない限り、法律上は貸付債権は存在している(消滅はしていない)ので、相続財産に加えなければならないということになります。ただし、時効の援用がなされればいつでも消滅してしまう状態にあるので、事実上の回収は難しいです。
この辺りを、貸付債権の評価として考慮して、評価額を減額する扱いになるものと考えられます。
実務上は、「いくら」と評価することが難しいため、0評価もあり得るかとも思います。ただし、金額が大きい分、リスクがあるため、お客様へのリスク説明(メール等で証拠を残すこと)、及び税務署と一度具体的に話をする機会(録音等で記録を残しておくのが望ましい)を得た上でなされた方が良いと存じます。
また、申告期限との兼ね合いもあると思いますが、「公正証書」に基づいて、相手の財産に対する強制執行を試みた上(証書の内容によっては強制執行ができない場合もあります。)、それでも回収できなかったという事実を作っておけば、より0評価しやすくなるとは思います。
2 ご質問②~弁護士の勘違いのポイント~
弁護士の勘違いポイントは、時効が援用されているかどうかを見落とした点にあると思われます。
よろしくお願い申し上げます。