【前提】
個人A(地主) 法人甲(Aが大株主の不動産所有法人)
土地2770㎡、路線価@84000(借地権割合=D)
建物 上記土地に 2棟(倉庫) 1棟は昭和43年、1棟は昭和44年に法人にて建設、法人は、第3者の運送業(乙)へ賃貸
現在の固定資産税 年間220万、当初の地代は年間110万程度、
当時の賃貸契約書は見当たりませんので、法定通りの契約及び更新と理解しています
ただ、26年1月から年額360万へ変更したので26年1月~45年の20年間の契約書は作成しました。
よって建築時は、固定資産程度の地代のみ支払い、権利金の支払いもなく、相当の地代の支払いもなく、無償返還届も未提出
建築時より法人にて借地権課税はされておりません
【ご質問】
①現在、税務上、法人に借地権あり(個人は底地のみ)として認識しておりますが、まずこの認識はよろしいでしょうか?
②現在も、建物の耐用年数は既に経過しているものの、乙に賃貸しています。ただ、最近の不況もあり、最近乙が借りれなくなり
他の賃借人(法人=丙=小売店=乙の取引先)を紹介されている状況です。
その条件として、今迄通り乙が2棟とも賃借人となりますが、うち1棟を丙に転貸し、また建物も古いので、解体し、丙の仕様の建物を
甲が建設する予定です(甲が銀行から借りるか、建設協力金方式になるか、まだ未定)
借地法では、建物の朽廃があると借地権は消滅するとあり、借地借家法では、その旨の規定がないとありますが、当該ケースでは
当然、更地の建設期間中も含め、当然に借地権はそのまま現存すると考えておりますが、ご意見を頂ければ幸いです
(1)ご質問①~借地権の該当性について~
>①現在、税務上、法人に借地権あり(個人は底地のみ)として認識しておりますが、まずこの認識はよろしいでしょうか?
借地権ありと認定される可能性が高いと考えられます。ただし、この点は下記の通り、全体の経緯等含めた事実認定の総合判断になり、裁判官により結論が異なってくる部分でもあります。
線引きが非常に曖昧な部分ですが、実務上は固定資産税相当額×1.5倍程度であれば、賃貸借であると考えてもよいかと存じます。
(2)ご質問②~借地権の消滅について~
>借地法では、建物の朽廃があると借地権は消滅するとあり、借地借家法では、その旨の規定がないとありますが、当該ケースでは当然、
>更地の建設期間中も含め、当然に借地権はそのまま現存すると考えておりますが、ご意見を頂ければ幸いです
本件では、建物の「朽廃」には該当しないと考えられるので、借地法が適用されるとしても、賃貸借契約は終了しません。
2 回答の理由
(1)ご質問①~借地権の該当性について~
ア 賃貸借と使用貸借の区別基準
賃貸借と使用貸借の区別基準は、土地の「使用の対価」の支払いがあるか否かです。
対価として、固定資産税相当額程度が支払われているのみの場合には、判例上、原則として、賃貸借ではなく、使用貸借となります(最高裁昭和41年10月27日)。
課税通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」においても、同様の解釈がなされています。
使用貸借においては、土地建物を使用するための「通常の必要費」は、借主が負担するものとされており(民法595条1項)、固定資産税はこの「通常の必要費」にあたるとされています。借主が固定資産税相当額を支払うことは、使用貸借であっても当然のことであり、この支払いは、賃貸借における土地建物の「使用の対価」ではないという考え方が根底にあります。
もっとも、固定資産税以上の金額が支払われていた場合には、必ず賃貸借と認定されるかというと、そうではありません。
たとえば、固定資産税の2倍に相当する地代を支払っていたが、地代の額が、鑑定による適正地代の3割以下であったために、使用貸借と判断された裁判例があります(仙台高裁平成19年1月26日)。一方、固定資産税相当額の1.3~1.6倍程度の支払いがなされていた事案で、賃貸借と認定した裁決もあります(裁決平成8年6月24日)。
賃貸借か使用貸借かの判断にあたっては、一般的な基準として、固定資産税相当額の支払があるか否かが1つの目安とされているという側面はありますが、その他、当事者の認識、借地権設定の経緯及びその他の事情を加味して、総合的に判断されます。
イ 本件への適用
ご質問のケースでは、360万円の賃料が支払われており、これは、固定資産税220万円の約1.63倍に相当します。
上記のとおり、360万円のうち、固定資産税を超える部分について、土地の「使用の対価」の支払があるとして、賃貸借であると認定される可能性が高いと考えられます。
ただし、100%ではないことは、上述の通りですので、お客様にご説明等はしておいた方がよいかと存じます。
(2)ご質問②~借地権の消滅について~
ア 適用される法律
借地法2条1項ただし書において、建物が「朽廃」した場合には、その時点で賃貸借契約が終了するとされています。借地借家法の施行日(効力発生日)は平成4年8月1日であり、それ以前になされた契約については、借地法2条1項ただし書の規定が適用されることになります(借地借家法附則5条)。
ご質問のケースでは、昭和43年、44年に建物を建設しているとのことですので、この時点で、賃貸借契約が成立したと考えるのであれば、借地法2条1項ただし書の規定が適用されることになります。
なお、本件の場合、平成26年1月から賃料を年額360万へ変更し、契約書を作成されていますので、この時点で賃貸借契約が成立したという解釈もあり得ます。その場合には、借地借家法が適用されることになり、借地法2条1項ただし書の適用はありませんので、建物の取り壊しにより、賃貸借契約が終了することもありません。
イ 建物の「朽廃」の該当性
仮に、借地法の適用があったとしても、
建物の「朽廃」とは、建物に自然に生じた腐食損傷等により、建物の利用に耐えず、全体として建物としての社会経済上の効果効用を喪失した状態をいうものとされています(東京地裁平成21年5月7日)。通常の修繕によって、建物の効用を全うし得る場合には、「朽廃」にはあたらないとされています。
ご質問のケースでは、建物の耐用年数はすでに経過しているものの、通常通り、賃貸されているとのことですので、「建物としての効用を喪失した」という状態には至っていないものと考えられます。ですので、建物の「朽廃」(借地法2条1項ただし書)にはあたらず、賃貸借契約も終了しないものと考えられます。
よろしくお願い申し上げます。
①借地権の該当性について追加でお願いします
・この固定資産税の1.5倍というのは、借地借家法では、建設時ではなく、相続時とか、売却時で判断されるのでしょうか?
そうであれば、地代を2倍程度に変更しようと思いますが?
・建築者が法人のため、本来、税務上の相当な地代を払っていないため、建設時に法人に借地権課税されてしまうと思いますが
借地借家法では、地代の金額により使用貸借もありうるので、借地借家法が適用されないということもあるということでしょうか?
よろしくお願いいたします
>・この固定資産税の1.5倍というのは、借地借家法では、建設時ではなく、相続時とか、売却時で判断
>されるのでしょうか?
>そうであれば、地代を2倍程度に変更しようと思いますが?
「固定資産税の1.5倍」というのは、その時点で賃貸借と認定されるかどうかの判断基準です。
ご質問のケースでは、平成26年1月に、地代を年額360万円にし、新たに契約書を作成されていますので、少なくとも、この時点では賃貸借であると認定される可能性が高いと考えられます。
さらに、今後、地代を2倍程度に引き上げれば、より賃貸借であると認定される可能性は高まります。
ただし、仮に、建設時に地代が固定資産税の金額を下回っており、その他の事情も考慮して、使用貸借であったと認定される状況であれば、今後、地代を引き上げることにより、建築当初からさかのぼって賃貸借であったことになるわけではないという点はご注意ください。
金額の基準は、あくまでその時点で賃貸借か否かを判断する目安なので、建築当初は使用貸借であったのであれば、その後に地代を引き上げることにより、さかのぼって賃貸借に変化するわけではありません。
2 ご質問②~借地権課税と民事上の法律関係のズレ~
>・建築者が法人のため、本来、税務上の相当な地代を払っていないため、建設時に法人に借地権課税さ
>れてしまうと思いますが
>借地借家法では、地代の金額により使用貸借もありうるので、借地借家法が適用されないということも
>あるということでしょうか?
おっしゃるとおり、借地権課税がなされる場合でも、地代の金額等によっては、民事上、使用貸借と認定され、借地借家法が適用されないということもあり得ます。
民事上、賃貸借であるか使用貸借であるかということと、税務上、借地権課税が行われるか否かは一致せず、民事上と税務上の扱いにズレが生じている部分といえます。
よろしくお願い申し上げます。