【前提】
1.平成28年7月に東京在住の甲との間で建物の新築工事の契約を締結
2. 新築工事代金は税抜2,500万円であり、工事代金の授受に関しては以
下のようになっています。
契約時 工事代金の10%
着工時 〃 30%
上棟時 〃 30%
引渡時 〃 30%
3. 建物新築工事は9月着工12月末には完成予定
4. 今月に入り甲より最終代金の支払いは引渡時予定の12月ではなく2月
末にしてほしいと依頼がある。
【質問】
当社では、この依頼はお断りしたいと思いますが、やむを得ずこの依頼を
受諾する場合に以下のような条件を付したいと思いますが、法律上の問題
はありますでしょうか。
1. 建物完成後、残金の支払いまで建物の引渡しはしない。
2. 建物完成後、残金支払いまでの間に、この建物を利用し、内覧会を
開催すること。
3.この内容を記載した『覚書』等の文書を作成すること。
また、地元ではなく遠方の施主さんとの建物新築工事等の契約について
請負代金の回収が一番懸念されます。法律上トラブルがないようにするた
めにも注意することがあればご教示下さい。
(1)ご質問と回答の結論
>当社では、この依頼はお断りしたいと思いますが、やむを得ずこの依頼を
>受諾する場合に以下のような条件を付したいと思いますが、法律上の問題
>はありますでしょうか。
>1. 建物完成後、残金の支払いまで建物の引渡しはしない。
>2. 建物完成後、残金支払いまでの間に、この建物を利用し、内覧会を
>開催すること。
>3.この内容を記載した『覚書』等の文書を作成すること。
これらの規定を「覚書」の文書にすることは法律上、問題ありません。
また、可能であれば、以下のような規定も入れておくとよいでしょう
①残金の支払時期を「2月末日」とする。
②建物完成後引渡しまでの間に、天災その他当事者双方の故意または過失に基づかない事由により建物が滅失、または毀損したときはその危険は相手方が負担する。
③建物の所有権は、建物の引渡しまではこちらに帰属し、建物の引渡しにより相手方に移転する。
④請負代金の支払いについて連帯保証人をつける。
(2)回答の理由
ア 条項①について
条項①は、残金の支払時期を明示する規定です。
このままだと、いつの時点で残金の支払いを請求できるかが明確ではないので、支払時期を明示しておいた方がよいでしょう。
そうしないと、いつまで経っても、残金を請求できないということが起こり得ます。
イ 条項②について
条項②は、地震などの天災で建物が壊れてしまったときに、その修理にかかる費用を相手に負担してもらうための規定です。
今回は、建物完成から引き渡しまでの期間がある程度長期間になることが見込まれますので、このような事態が実際に起こる可能性もあります。
リスクヘッジのために入れておいた方がよいでしょう。
ウ 条項③について
条項③は、引渡しまでは、建物の所有権をこちらに留保しておくための規定です。
請負契約の場合、建物を引き渡すまでの間、建物の所有権が注文者にあるのか、請負業者にあるかについて、法律上争いがあります。
ですので、合意により、これを明確にしておいた方がよいです。
仮に、完成後引渡しまでの間、相手方に所有権があるとすると、所有権があるのだからすぐに引き渡せ、と言われかねませんので。
なお、③の規定は、当初の契約書で定められている可能性が高いですが、もし、このような規定がなければ、入れておいてください。
エ 条項④について
請負代金の回収をより確実にしたいということでしたら、資金がある人を連帯保証人をつけてもらうということも考えられます。
現在、相手が、支払期限を12月から2月末にしてほしいと猶予を求めてきている状況なので、この点を譲歩するのと引き換えに、連帯保証人をつけることを要求するというのは、交渉としてはあり得るところでしょう。
可能であれば、この点もご検討ください。
2 質問②~請負代金の回収を確保するための注意点~
>また、地元ではなく遠方の施主さんとの建物新築工事等の契約について
>請負代金の回収が一番懸念されます。法律上トラブルがないようにするた
>めにも注意することがあればご教示下さい。
ご質問①のように、残金全額について支払いが終わった後に、建物の引渡しをするという条項を入れておいた方がよいです。これにより、残金全額の支払いが終わるまで、こちらは建物の引渡しを留保することができます。施主としては、全額を支払わなければ、建物の引き渡しを受けられないので、支払いをしてくる可能性は高まります。ですので、建物の引渡しを残金の支払い後にするという、ご質問①の規定は効果的です。
また、条項③のように規定して、引渡しまでは建物の所有権をこちらに留保しておくことも重要です。このようにしておけば、引渡しまでの間所有権は移転しませんので、引渡しを受けるために、相手が全額支払ってくる可能性が高くなります。
仮に、代金の支払が引渡後という取り決めがなされている場合(これはできる限り防いでください。)には、代金全額の支払時まで所有権を留保する旨、記載してください。
条項④のとおり、当初から保証人をつけておくことも有効です。
もっとも、相手との関係性もありますので、その辺りは相手の出方を見ながらということになります。
よろしくお願い申し上げます。