(状況)
古屋を賃貸に出そうとしています。
なにしろ古い家なので数年後に雨漏りなど大規模修繕の可能性が出てきます。
大家にはその資金を出すつもりがありません。
そうなったら借家人には出て行ってもらって取り壊して更地にする予定です。
(質問)
屋根修理など大規模修繕が必要な場合は借家契約を解除できる特約を借家契約に付すことは有効でしょうか?
どうぞよろしくお願いします。
>屋根修理など大規模修繕が必要な場合は借家契約を解除できる特約を借家契約に付すことは有効でしょうか?
このような特約は無効となります。
①貸主が建物の修繕をしなくてよいという特約をつける
②定期借家契約とする
のうちどちらか、または、両方を取り入れることで、ご質問の目的は達成できるものと考えます。
2 回答の理由
(1)特約の有効性
借家契約では、当初の契約で定めた契約期間が満了しても、貸主が契約の更新を拒むには、拒むための「正当事由」が必要とされています(借地借家法26条、28条)。貸主が無条件で更新を拒むことはできません。
「正当事由」がない場合には、自動的に契約が更新され、継続することになります。
借家契約では、契約期間が終わったからといって、無条件で借主が追い出されてはかわいそうだという考え方に基づいたもので、借主を保護するための規定です。
このように、借地借家法上は、「正当事由」がない限り契約が継続することが原則となっており、「正当事由」がある場合に限り、例外的に契約が終了するという建付けになっています。
そして、借主を保護するため、借地借家法30条では、これらの規定に反する特約で、借主に不利なものは無効とされています。
先生ご指摘の「屋根修理など大規模修繕が必要な場合は借家契約を解除できる特約」は、貸主が一方的に契約を解約できるというもので、これらの規定の趣旨に反するため、無効となります。
(2)貸主が建物の修繕をしなくてよいという特約
ア 民法・借地借家法との関係
貸主は、通常、建物を修繕する義務があります(民法606条1項)。
たとえば、屋根から雨漏りが生じているような場合には、屋根の修繕する必要があり、これを怠ると、貸主の義務を守っていないということで、損害賠償の対象となります。
もっとも、貸主が建物の修繕をしなくてもよい(貸主の修繕義務を免除する)という特約をつけることが可能です。
このようにしておけば、ご質問のケースのように、大規模修繕が必要になった場合にでも、貸主は修繕をしなくてよくなります。
ご要望のように、借主にすぐさま出て行ってもらうことはできませんが、ご質問からすれば、修繕しない状態で借主に使ってもらうこと自体は構わないということだと思いますので、このような特約を入れておくことで、目的は達成できると思います。
イ 消費者契約法
なお、ご質問にある貸主が、いくつもの物件を持っていて、それを継続的に賃貸に出しているオーナーさんということだと、貸主が「事業者」にあたり、今回の契約に消費者契約法が適用されることになります(消費者契約法2条2項)。
(逆に、貸主が個人の方で、賃貸に出すのは、今回の物件が初めてということであれば、「事業者」には当たらないものと考えられます。)
以下、消費者契約法の適用があることを前提として、ご説明します。
借主(消費者)にとって、あまりにも不利な特約は、消費者契約法10条により無効とされており、貸主(事業者)が建物の修繕をしなくてよいという特約は、借主にとって一方に不利な定めとして、この規定により無効となる可能性があり得ます。
そこで、貸主が修繕義務を負わない分、相場よりも賃料を下げ、特約の中に、
「賃料を低額に設定した老朽化した建物であるため、建物に修繕の必要が生じた場合でも、賃貸人は賃借人に対し修繕する義務を負わない。」
というような定め方をしておくとよいでしょう。
修繕義務を免除するのと引き換えに、賃料を相場よりも低く設定しておくことで借主にもメリットがあるため、借主に一方的に不利なものではなくなります。
これにより、消費者契約法10条に反して無効だと言われるリスクを低くすることができます。
(3)定期借家契約(借地借家法38条)
定期借家契約とは、(1)の契約更新のルールが適用されない借家契約です(借地借家法38条)。
契約期間が終われば、その時点で契約は終了します。通常の借家契約と違い、契約終了に「正当事由」は必要ありません。
定期借家契約としておけば、契約期間が終わった時に契約は終了し、出て行ってもらうことができるので、ご質問の目的は一定程度達成できるものと考えられます。
ただし、定期借家契約でも、契約期間の途中で、解約して出て行ってもらうことはできないので、あまり長い契約期間を設定しておくと、途中で大規模修繕が必要になったけど解約ができず、修繕をしなければならないということになりかねませんので、ご注意ください。
その意味では、1年間など、できるだけ短い契約期間を定めておく方がよいでしょう。契約期間は自由に決めてよく、上限、または下限はありません。
また、定期借家契約を結ぶ際には、以下の点を守らないと無効とされますのでにご注意ください。
①書面により契約すること(契約書を作ること)
②期間の定めをすること(無期限という契約はできません。)
③借主との間で、契約の更新がないことを合意すること
④借主に対して、契約の更新がなく、契約期間の満了により契約が終了することを、しっかりと説明すること
定期借家契約では、契約期間の満了により契約は終了しますが、終了後に、貸主と借主が新たに契約をすることは禁止されていません。
ですので、たとえば、最初、1年間で定期借家契約を結んでおいて、1年経過後に、新たに1年間の定期借家契約を結び直すこともできます。
このようにすれば、1年ごとに、出て行ってもらおうと思えば出て行ってもらえる、という状態を維持しながら、契約を継続していくことも可能です。
ただし、借主に、契約の時点で、「1年経過後には、新たに契約をする予定です」というような説明をすると、実質的には、定期借家契約ではなく、1年ごとに更新される通常の賃貸借契約だと認定される可能性があります。
あくまで、賃借人に対しては、1年間で終了する定期借家契約だということを前提に説明し、納得しておいてもらわなければなりません。この点はご注意ください。
当初は、1年間の定期借家契約であることを前提としていたが、その後、1年ごとに、新たに契約を締結していった結果、結果的に何年間か契約が続いたということであれば、問題ありません。
(なお、新たに契約を結ぶ際には、定期借家だが契約期間を変える、定期借家ではなく通常の賃貸借契約にする、ということも可能です。)
(4)まとめ
①貸主が建物の修繕をしなくてよいという特約をつける
②定期借家契約とする
のうちどちらか、または、両方を取り入れることで、ご質問の目的は達成できるものと考えます。
①、②のどちらも取り入れるのが、貸主にとっては有利です。
①の特約を定めるのであれば、②の契約期間は、それほど短いものにしなくてもよいかもしれません。
修繕をしなくてよいのであれば、すぐさま契約が終了しなくても、ご質問の趣旨は達成できるものと思いますので。
なお、①、②のどちらも取り入れると借主にとって不利になってしまいますので、当然借りたいという人もあまりいなくなってしまいますし、仮にいても、賃料も下がってしまいます。
このあたりは、バランスも見て、どのようにされるかお決めいただければと思います。
よろしくお願い申し上げます。