役員報酬 会社法

非常勤監査役が取締役会及び定時株主総会を欠席する件

上場している株式会社の非常勤監査役になっている
人(A氏)から質問を受けました。
5月決算で8月に定時株主総会が行われる会社ですが
今回監査役会を廃止して、監査等委員会を設置すべく準備を
すすめる意向だそうです。
A氏は社長から今期任期満了のため、そのまま辞任してもらい
補欠委員になって欲しいと言われたそうです。
監査役の中でA氏だけが監査等委員になれないため激怒して補欠委員の件は断り、
6月、7月、8月の定例取締役会及び8月の株主総会は欠席すると言っております。
6月からは新事業年度のため、新事業年度の月次決算の内容は知りたくもないし、
恐らく病欠のような欠席届を提出すると思われます。

非常に低俗な質問でお恥ずかしいのですが、
法的に問題があるのかどうか、今後出席したくないA氏はどう対処すればいいのか
アドバイスをお願いします。

1 ご質問及び回答の結論

>監査役の中でA氏だけが監査等委員になれないため激怒して補欠委員の件は断り、
>6月、7月、8月の定例取締役会及び8月の株主総会は欠席すると言っております。
>6月からは新事業年度のため、新事業年度の月次決算の内容は知りたくもないし、
>恐らく病欠のような欠席届を提出すると思われます。
>非常に低俗な質問でお恥ずかしいのですが、
>法的に問題があるのかどうか、今後出席したくないA氏はどう対処すればいいのか
>アドバイスをお願いします。

 監査役には、取締役会、株主総会ともに、出席する義務がありますので、正当な理由もなくこれらに欠席することは、法的に問題があります。
 可能性は低いですが、欠席した場合には、監査役の職務を怠ったものとして、会社に対する損害賠償責任(会社法423条)が生じるおそれもあります。

 残りの回数も多いわけではないと思いますので、取締役会、株主総会ともに出席されることをおすすめします。
 どうしても出席はされたくないが、リスクは小さくしたいという場合は、監査役を辞任する方向でご検討いただくことになると考えられます。

 最終的には、下記のリスクをご説明の上で、ご本人様が決定することになるかとは思います。

2 回答の理由
(1)監査役の取締役会への出席義務

 会社法383条1項において、監査役は、取締役会に出席し、必要がある場合には意見を述べなければならないとされています。

 取締役会は、会社の業務について重要な決定をする場であることから、監査役が出席して、法令・定款違反または著しく不当な決議が行われることを防ぐために、監査役に出席を義務づけているものです。

 ですので、正当な理由なく取締役会を欠席することはできません。
 正当な理由とは、出席できないような病気、事故などが想定されます。

 仮に、監査役が欠席した取締役会において、著しく不当な決議が行われ会社に損害が発生してしまった場合、職務を怠ったものとして、会社に対する損害賠償責任(会社法423条)が生じる可能性があります(その可能性は低いですが。)。

(2)監査役の株主総会への出席義務

 会社法の中に、監査役の株主総会への出席義務を直接定めたものはありませんが、株主総会についても出席義務があるものと考えられています。

 つまり、監査役は、期末決算後に、会社の計算書類およびその付属明細書等について監査を行わなければなりません(会社法436条1項、2項)。
 そして、監査役は、株主に説明する義務を負っていますので(会社法314条本文)、株主総会において、監査の結果について、株主から説明を求められれば、それに対して回答することが必要になります。
 そのため、監査役は、株主総会に出席する義務があるものと考えられています。

 ただし、正当な理由がある場合には、欠席することも可能であるのは、取締役会と同様です。

 可能性としては低いですが、監査役が株主総会に欠席した結果、株主に対する説明義務が果たされず、会社に損害が生じてしまった場合には、職務を怠ったものとして、会社に対する損害賠償責任(会社法423条)が発生してしまうこともないではありません。

(3)監査役報酬の返還について

 また、取締役会・株主総会に欠席した場合、会社に対して、業務を怠ったとして、法的にいうと、監査役報酬分について、損害賠償義務が生じる可能性もあります。
 ただし、そうすると、会社の方も、本当に病気ではなかったこと等を証明しなければなりませんし、現実的には損害賠償請求をしてくる可能性は低いものと考えられます。

(4)今後の対処

 取締役会・株主総会について法的な出席義務がある以上、出席ができないような正当な理由がない限り、出席をすべきであると考えられます。
 可能性は低いですが、欠席したことにより、取締役会において著しく不当な決議がなされた場合は、監査役の職務を怠ったとして、会社に対する損害賠償責任が生じる危険もあります(損害金は多額になるおそれがあります。)

 適法な形で欠席をしたいということであれば、監査役を辞任することが考えられます。
 監査役と会社の関係は委任契約なので(会社法330条)、監査役はいつでも辞任することができます(民法651条1項)。
(なお、ご質問いただいた事情のみですと判断できませんが、監査役就任契約書の書き方次第では辞任が難しい場合もあるのでご注意ください。)

 ただし、やむを得ない事情があって辞任する場合以外は、会社のために不利益な時期に辞任した場合には、辞任により会社に生じた損害を賠償しなければなりません(民法651条2項)。
 「不利な時期」とは、会社が自分で事務の処理を開始することもできず、また、他人に事務を処理させることもできない時期に、辞任することをいいます。

 ご質問のケースでいえば、監査役は、期末決算後に、会社の計算書類およびその付属明細書等についての監査や、その結果に対する株主からの質問に対する回答等の職務を行わなければなりません。8月の株主総会が迫ってきていますので、今辞任した場合、「不利な時期」にあたるおそれがあります。
 そこは、A氏がどのような業務内容を行っているのかという点と関連してくるところで、実害が生じないということであれば、「不利な時期」にあたらないとも言えますが、この辺りは、具体的な事情をお伺いしないと、明確なご回答は難しいです。

 まとめると、弁護士からのアドバイスとしまして、辞任されないのであれば、取締役会・株主総会ともに出席する。
 仮に、どうしても出席されたくないということであれば、監査役を辞任する方向でご検討いただくことになると考えられます。

 最終的には、以上のリスクをご説明の上で、ご本人様が決定することになるかとは思います。

 よろしくお願い申し上げます。

早速のご回答ありがとうございました。

肝心なことをお伝えしてなかったので
再度質問させて下さい。

非常勤監査役A氏は辞任届を提出する予定とのことですが、
定款で3人以上の監査役とうたっており、現状A氏を含めて3人なので
A氏が8月の定時株主総会前に辞任届を提出しても後任が臨時株主総会で
選任されない限り、A氏の辞任登記がなされません。
会社も事務処理の煩雑さから、臨時株主総会を開くことはなさそうです。

この場合、辞任届を提出しても定時株主総会での任期満了による辞任
になるのでしょうか?
A氏が来月以降の取締役会及び定時株主総会を欠席することは違法になる
のでしょうか?
A氏の考えを汲む対処法がないか、再度質問させていただきました。

どうぞよろしくお願い致します。

1 ご質問及び回答の結論

>この場合、辞任届を提出しても定時株主総会での任期満了による辞任
>になるのでしょうか?
>A氏が来月以降の取締役会及び定時株主総会を欠席することは違法になる
>のでしょうか?

 A氏が監査役を辞任したとしても、会社が臨時株主総会を開催して新たな監査役を選任しない限り、定時株主総会まで、監査役としての権利義務を負い続けます。
 取締役会・株主総会を欠席することは、法的には問題があることになります。

 なお、裁判所に、臨時の監査役を選任してもらうという制度もありますが、ご質問のケースだと、要件を満たさない可能性が高く、この方法をとることも難しいでしょう。

2 回答の理由
(1)定款で定めた人数を満たさなくなった場合の扱い

 監査役の辞任によって、定款で定めた監査役の人数を下回ってしまった場合、辞任した監査役は、新たな監査役が就任するまでの間、監査役の権利・義務を継続して負うこととされています(会社法346条1項)。

 A氏が辞任届を提出した場合、辞任によって監査役が2人となり、定款の人数3人を下回ってしまいますので、A氏は次の監査役が選任されるまで、監査役としての権利・義務を負い続けることになります。
 ですので、会社が臨時株主総会で、かわりの監査役を選任する手続きを行わないのであれば、定時株主総会までは、A氏がなお監査役としての地位にあることになります。

 先生もご指摘のとおり、上場会社の株主総会は、開催のための事務処理が大変なので、定時株主総会までの期間があまりないことを考えれば、わざわざ監査役選任のために臨時株主総会を開催することは考えにくいでしょう。

 そうすると、A氏は、定時株主総会までは監査役としての義務が残ってしまいますので、それまでの取締役会・株主総会に出席しないことは、法的には問題があるということになります。

(2)一時監査役の選任

 監査役が退任したことにより監査役の人数が足りなくなってしまった場合、裁判所に一時的に監査役の職務を行う人を決めてもらうよう申立てをする制度があります。
 一時監査役の選任の申立てといいます。

 これにより、一時監査役が1人選任されれば、監査役は3人になりますので、A氏は監査役の地位を免れることができます。

 一時監査役を選任してもらうには、選任する必要性があることが要件になっています。
 たとえば、監査役が亡くなってしまい、監査役の人数が足りなくなってしまったが、会社において定時株主総会までに監査役を選任する時間的な余裕がないというような場合に、認められるものです。

 他方、辞任により監査役の人数が足りなくなった場合、上記のとおり、辞任した監査役は、次の監査役が選任されるまで、なお、監査役としての権利義務を負うことになっています。
 これは、法的な地位でいえば、監査役ではなくなってはいますが、実質上、監査役とかわらない扱いをされます。

 この場合、裁判所としては、辞任した監査役が監査役としての職務を行えば足り、一時監査役を選任する必要性はないという判断になるのが一般的です。

 ですので、今回の場合、一時監査役の選任をしてもらうのは難しいと考えられます。

(3)まとめ

 ご質問のケースでは、A氏が監査役を辞任したとしても、会社が臨時株主総会を開催して新たな監査役を選任しない限り、定時株主総会まで、監査役としての権利義務を負い続けることになります。
 取締役会・株主総会を欠席することは、法的には問題があることになります。

 よろしくお願い申し上げます。