不動産 民法 借地借家法

家賃の改定について

以下の案件、ご教示お願いいたします。

前提

賃貸店舗所有者A氏

現在家賃40万円

契約条項の(賃料)欄には以下の取り決めがある。

第3条 乙は、頭書(4)の記載に従い、賃料を甲に支払わなければならない。

2 甲及び乙は、次の各号の一に該当する場合には協議の上、賃料を改定することができる。

一 土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により、賃料が不相当となった場合。

二 土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により、賃料が不相当となった場合。

三 近傍類似の建物の賃料の変動が生じ、賃料が不相当となった場合。

3 1ヶ月に満たない期間の賃料は、1ヶ月を30日として日割り計算した額とする。

※頭書(4)には賃料、敷金、保証金、償却率が記載

A氏は賃料を45万円に改定することを希望

改定理由は近隣の家賃相場が不動産屋の張り紙ではそれ位だと主張。

未確認であまり信憑性の高いものではない。当初賃料は近辺相場だったらしい。

質問

1、上記前提で法的リスクは伴うか?

2、賃料改定に無理はあるか?

3、借主が納得しない場合は退去を主張できるか?金銭の支払いは発生するか?

4、その他、裁判所の考えや、一般論があればご教示お願いいたします。

以上です。宜しくお願い致します。

1 ご質問及び回答の結論

>1、上記前提で法的リスクは伴うか?
>2、賃料改定に無理はあるか?

 土地建物の固定資産評価額や時価評価額の上昇、固定資産税の上昇、周辺の土地建物の賃料や時価評価額の上昇など、賃料増額を正当化する根拠がないと、増額を法的に主張することは困難です。

 ご質問にあるように、「近隣の家賃相場が不動産屋の張り紙ではそれ位だ」というのみでは、法的な増額の主張は難しいと考えられます。

>3、借主が納得しない場合は退去を主張できるか?金銭の支払いは発生するか?

 借主が納得しない場合でも、退去を請求することはできません。
 また、一方的に退去を請求するには契約の解除をする理由が必要であり、金銭(立退料)を支払えば退去させることができるということでもありません。

 なお、契約の終了時期の1年~6か月前までに、借主に契約更新を拒絶する意思を伝え、立退料を支払うことにより、契約の更新をさせず、退去させるということができる場合もあります(この場合も、立退料さえ払えば、絶対に退去させられるというものではありませんが。)。
 もし、このような場面でしたら、詳しくご説明しますので、お手数ですが追加でご質問ください。

>4、その他、裁判所の考えや、一般論があればご教示お願いいたします。

 裁判所が、賃料増額を認めるかどうかを判断する場合、
 土地建物の固定資産評価額や時価評価額の上昇、固定資産税の上昇、周辺の土地建物の賃料や時価評価額の上昇などの事情を総合して、
 「今の賃料が低い」と言えるかどうかを基準とします。

 裁判上の実際の運用では、不動産鑑定士による適正賃料の鑑定が行われ、その金額と今の賃料を比べることにより、「今の賃料が低い」と言えるかどうかが判断されることが多いです。

2 回答の理由
(1)賃料を増額する方法

 賃料を増額する方法は、
 ①貸主・借主の合意による賃料改定
 ②賃料増額請求(借地借家法32条1項)
 があります。

 ①は、当事者が納得の上、賃料を増額するという合意をするものです。
 ②は、借主の意向に関係なく、貸主が一方的に賃料を増額することができます。

 ①は、当事者が、賃料を上げること、及び、その金額について合意すればよいだけで、当然ですが、周りの賃料相場が上がっているなどの、賃料を増額しなければならない理由は、特に必要ありません。

 以下では、借主が①には応じないという前提で、②についてご説明します。

(2)②賃料増額請求の要件

 賃料増額請求の要件は、借地借家法32条1項に定められており、
 ・土地建物に対する租税その他の負担が上がったこと
 ・土地建物の価格の上昇その他の経済事情の変動
 ・周辺の建物の賃料との比較
 ・その他の事情
 を考慮して、
 「現在の賃料が不相当に低額である」ということが必要です。

 ご質問にある契約書第3条2項1~3号に定めてある賃料の増額請求は、借地借家法32条1項の賃料増額請求と同じことが定められているだけです。

 賃料の増額が認められるかどうかは、上記のようなさまざまな事情を総合して、「今の賃料は低い」ということが言えるかどうかにより決まります。

(3)賃料増額を求める手続き

 手続としては、
 ・訴訟外の増額請求(通常は、内容証明で、賃料の増額が必要な理由、賃料をいつから、いくらにするか、などを書いて、相手に送り、その後交渉をします。)
 ・ダメなら、賃料増額の調停を起こす
 ・それでもダメなら、賃料増額訴訟を起こす
 という段階で進んでいきます。
 賃料増額に関しては、調停をせずに、いきなり訴訟を起こすことは認められていません。

 仮に、賃料増額の請求が認められた場合、増額される時期は、請求が認められた時ではなく、請求をした時になります。
 たとえば、平成28年6月分から賃料を45万円に増額することを請求し、仮に、平成28年12月に訴訟で増額が認められたとすると、請求時である6月分から賃料が45万円に増額されていたことになります。

(4)裁判上の判断基準等

 裁判上の考慮要素としてよく挙げられるのは、
 土地建物の固定資産評価額や時価評価額の上昇、固定資産税の上昇、周辺の土地建物の賃料や時価評価額の上昇などです。

 裁判上の実際の運用としては、不動産鑑定士による適正賃料の鑑定が行われることが多いです。
 その適正賃料と、現在の賃料を比べて、「今の賃料は低い」と言えれば、増額が認められることになります。

 ご質問にあるように、「近隣の家賃相場が不動産屋の張り紙ではそれ位だ」という理由のみでは、法的に増額を認めさせることは難しいと考えられます。

 なお、増額が認められるとしても、必ずしもこちらの主張する45万円になるとは限らず、43万円が適正ということであれば、3万円の増額で、43万円になるということもあり得ます。

(5)借主が賃料増額に応じない場合の効果

 借主は、賃料増額を請求されたとしても、これに応じなければならない義務はありません。
 調停や訴訟で、賃料増額が認められるまでは、現在の賃料40万円を払い続ければよいことになります(借地借家法32条2項本文)。
 ですので、賃料増額に応じないことを理由として、契約の解除や、退去を求めることはできません。

 ただし、「平成28年6月分から賃料は45万円に増額される」ということが、平成28年12月に認められたとすると、6~12月の7か月分の増額分の賃料35万円(5万円×7か月)が未払いということになります。
 借主は、この35万円に、ペナルティとして、年利10パーセントの利息をつけて支払わなければなりません(借地借家法32条2項ただし書き)。

(6)今後の対応

 上記のように、賃料の増額を法的に請求していくことは、増額すべき一定の根拠をこちら側で立証しなければならないという点で、結構ハードルが高いです。

 ただ、相手が、賃料の増額に応じればよい話ですし、増額の話し合いをするのみであれば、金銭的なコストもかかりません。
 相手に対し、契約時と比べると周辺の賃料相場が上がっていること、固定資産評価額や固定資産税の金額が上がっているなどの事情を説明して(このような事情があればですが)、賃料の増額に応じるよう求めていくのが現実的だろうと思います。

 交渉の時期としては、契約の更新時に行われることがよくあります。
 借主も、新たに契約を更新するという段階であれば、賃料を改定するということにも納得しやすいという面がありますので。

 一方的な「賃料の増額請求」という形にするかどうかは、借主とのこれからの関係性もあるでしょうから、慎重にご判断いただいた方がよいと思います。
 まずは、一方的な請求という形よりは、賃料増額について話し合いをしましょうというスタンスの方が、穏当でしょう。

 それでも、借主が増額に応じない場合は、賃料増額調停を起こすかどうかを検討するという段階になります。
 ただし、裁判(調停)での鑑定には、数十万円程度のコストがかかりますので、増額の金額が月5万円ということだとコスト的に見合わない可能性もあります。
 この辺りも含め、その後の対応を検討することになります。

 よろしくお願い申し上げます。