今まで仕入代金を振り込んでいた預金口座に振込をすると
差し押さえをされてしまうので、買掛債務を社長の関係の
別法人の口座に振込をしてほしい旨の依頼書が送られて
きたが、その依頼書の真偽が疑わしい可能性があった場合、
この依頼書どおり支払をした時の、買掛債務の弁済の効力は
有効になりますでしょうか?
>この依頼書どおり支払をした時の、買掛債務の弁済の効力は
>有効になりますでしょうか?
現状で、別法人Bの口座に支払った場合、
「その依頼書の真偽が疑わしい」という状況だと、弁済は無効になってしまうリスクが高いです。
今後の対応として、一番安全かつ確実なのは、Aの口座に振り込むことです。
仮に、Bの口座に振り込むとしても、Aとの間で、支払方法をBの口座に振込むこととする旨の合意をし、書面で証拠化しておくことが必要です。
ただし、この方法でも、弁済が無効になるリスクを完全に排除することはできないので、あまりおすすめはできません。
2 回答の理由
(1)弁済の相手方(原則)
買掛債務の支払いは、原則として、契約で定められた相手に対して行う必要があります。
ご質問のケースでは、当然取引の相手方であるAに支払うという契約になっているものと思われます(契約書がなくても、Aと取引をしているのであれば、Aに支払うのが当然です。)。
ですので、原則的には、Aに対して支払った場合のみ、弁済は有効になります。
ただし、以下の2つの場合のうち、いずれかを満たせば、Bに対して弁済を行った場合でも、有効になります。
①Aとの間で、弁済の方法について、Bの口座に支払うという合意が成立していた場合
②AからBに買掛債務を受け取る権限が与えられていた場合
(2)①Aとの間で、弁済の方法について、Bの口座に支払うという合意が成立していた場合
上記のように、契約の相手方であるAに支払うのが原則ですが、Aと合意をすれば、支払方法を変更し、B口座に振り込むことにするというのは可能です。
このような合意があれば、B口座に支払っても、弁済は有効になります。
ご質問のケースで、このような合意が成立しているかどうかは、具体的な事情をお伺いしないと判断できませんが、
AがB口座への支払いを申し出てきて、それを受けてB口座に振り込みをしたという経過からすると、Aとの間で、B口座に支払うことについての合意が成立していたということができるかもしれません。
ただ、「その依頼書の真偽が疑わしい」とのことですので、本当にAがB口座への振込みを依頼してきたのかどうかが分からない(Aではない可能性がある)という状況なのかもしれません。
そうすると、Aとの間で合意が成立したとするのは無理なので、弁済は無効になってしまいます。
(3)②AからBに買掛債務を受け取る権限が与えられていた場合
Aとの間で、Bの口座へ振り込むことについて合意がなかったとしても、AからBに買掛債務を受け取る権限(代理権)が与えられていた場合には、代理人に対する支払いとして、弁済は有効になります。
ただ、Aから「別法人Bの口座に振込をしてほしい旨の依頼書が送られてきた」というのみでは、Bに代理権が与えられているかどうかは分かりません。
Bに代理権があるかどうかを確認するには、AからBに対して買掛債務を受け取る権限を与えるという委任状(Aの実印入り)を確認するのがベストです。
なお、Bが代理権を与えられていなかったとしても、こちらが、Bに代理権が与えられていると勘違いしたことに、過失がなかった場合にも、弁済が有効になるという規定があります(民法478条)。
たとえば、AからBに代理権を与えるという委任状(Aの実印入り)を提示されたので、Bに代理権があると信じたが、それは偽造されたものであったという場合などは、この規定により保護される可能性はあります。
もっとも、ご質問のケースでは、「その依頼書の真偽が疑わしい」という状況のようですので、現状でBの口座に振り込みをした場合、この規定を適用することは難しいでしょう。
(4)今後の対応
●Aの口座に支払う
当然ですが、最も安全でリスクが少ないのは、Aの口座にそのまま支払うことです。
以下に書くように、Bの口座に支払うことも、選択肢としてなくはないですが、弁済が無効になるリスクをゼロにすることは難しいです。
また、弁済の有効性とは別の問題ですが、Aが買掛金をBの口座に振り込ませること自体が、Aの債権者に対する関係でいえば、いわゆる「財産隠し」といわれる可能性があるものです。
可能性は低いですが、Aの債権者から、財産隠しに協力したなどとして、無用なトラブルに巻き込まれるリスクもありますので、こういった意味でもあまりおすすめできません。
ただし、社長との関係性や今後の付き合いの関係で、どうしてもBの口座に支払いをしたいということであれば、下記のとおりAとの間で支払方法の変更の合意をとりつけておいて下さい。
●支払方法の変更合意
上記のように、本来の支払いの相手は契約で定められたAですが、Aとの合意で、支払先をBの口座に変更するということを合意しておけば、Bの口座に支払いをすることで、弁済は有効になります。
ですので、Aとそのような合意をとりつけることで、B口座への支払が可能になります。
その場合には、Aと合意をしたことを明確にするため、合意書を作成しておくことが重要です。
よろしくお願い申し上げます。