時効制度について、その時効を停止する方法が増えるととあるセミナーでききました。
債務を認めさせると時効が止まるという話は前からあったと思うのですが、それとは別に合意をすると時効が停止するという制度ができるということでした。
いままでの債務を認めさせる話と合意?するのはどこが違うのでしょう?
もし、このような抽象的な質問でも問題なければ、ご回答いただけると幸いです。
>債務を認めさせると時効が止まるという話は前からあったと思うのですが、それとは別に合意をすると
>時効が停止するという制度ができるということでした。
>いままでの債務を認めさせる話と合意?するのはどこが違うのでしょう?
債務を認めさせるというのは、「債務が存在すること」を認めさせることを意味しています(以下、「債務の承認」といいます。)。
一方、「合意をする」というのは、「今後、債務の存否やその金額等について、当事者間で協議すること」を合意することを意味しており(以下、「協議による時効の完成猶予の合意」といいます。)、その債務が存在するか否かではなく、話し合いをすることを合意することをいいます。
ですので、協議による時効の完成猶予の合意と債務の承認では、その対象が異なっています。
また、債務の承認がなされると、時効期間がクリアされ、また1から計算し直されることになる(たとえば、もともとの時効期間が5年であれば、債務承認の時から、新たに時効期間の5年間をカウントする。)のに対し、協議による時効の完成猶予の合意では、合意がなされたときから1年間(これより短い期間を定めた場合には、その期間)、時効の完成が延びるにすぎません。
このように、債務の承認と協議による時効の完成猶予の合意では、その合意・承認の対象、及び、その効果が異なっています。
2 回答の理由
(1)「時効の中断」と「時効の停止」の違い
いわゆる「時効を止める」方法の中には、その効果は大別して次の2種類があります。
①時効期間がクリアされ、また1から期間が計算し直されるもの(いわゆる「時効の中断」と呼ばれるものです。)。代表例は、債務の承認です。
②時効期間がクリアされるのではなく、一定期間、時効の完成が延びるもの(いわゆる「時効の停止」と呼ばれるものです。)。
代表例は、相手方に対する催告(内容証明などで相手に対し債務の請求をすること)です。催告があった場合、催告のときから、6か月間時効の完成が延びることになります(民法153条)。
具体的な例を挙げてご説明します。
時効期間が5年間で、4年10か月後に、①の代表例である債務の承認、②の代表例である相手方に対する催告があったとすると、
債務の承認の場合、時効期間がクリアされて、計算をし直しますので、時効が完成するのは、債務の承認があったときから5年後、つまり、当初からの期間で言うと、9年10か月後になります。
催告の場合、6か月間時効の完成が延長されるにすぎませんので、時効が完成するのは、催告があったときから6か月後、つまり、当初からの期間で言うと、5年4か月後になります。
このように、「時効の中断」と「時効の停止」では、その効果に大きな違いがあります。
(なお、民法改正後は、「時効の中断」→「時効の更新」、「時効の停止」→「時効の猶予」と表現されることになるようです。)
(2)「協議による時効の完成猶予の合意」の制度
ご質問にあるように、今回の民法改正により、「協議による時効の完成猶予の合意」という制度が新しく作られることになります。
この制度は、簡単にいえば、当事者間で債務についての話し合いが継続している間は、時効を完成させるのはやめようというものです。
よくあるケースで、債務についてお互いに交渉を継続していたにもかかわらず、時効期間の満了が迫ってしまったので、時効の完成を阻止するため、訴訟を起こさざるを得なくなってしまうことがあります。
このようなことを防ぐため、「協議による時効の完成猶予の合意」という制度が設けられました。
「協議による時効の完成猶予の合意」とは、お互いが債務の存否やその金額等について今後協議することを書面により合意した場合には、合意のときから1年間(それより短い期間を定めた場合には、その期間)、時効の完成が延長されることになります。
(時効の完成が一定期間延長されるのみですので、②時効の停止の一種ということになります。)
なお、合意を何回も行うことにより、最長5年間、時効の完成を延ばすことができるとされています。
このように、今までは、時効の完成を防ぐためだけに訴訟を提起しなければならなかったような場合に、この制度を使うことによって、時効の完成を延ばしながら、訴訟ではなく、自主的な交渉による解決を図ることが可能になりました。
(3)「債務の承認」と「協議による時効の完成猶予の合意」の違い
「債務の承認」は、文字通り、債務の存在を認めるものです。
これに対し、「協議による時効の完成猶予の合意」は、上で書いたとおり、今後、お互いが債務の存否やその金額等について協議することを合意するものです。
「債務の存在を認める」ということを合意するものではありません。
このように、合意・承認の対象が異なっています。
また、「債務の承認」は、①時効の中断事由の一種で、債務の承認がなされると、時効期間がクリアされ、また1から期間が計算し直されることになります。
これに対し、「協議による時効の完成猶予の合意」は、②時効の停止事由の一種で、原則として1年間、時効の完成を延ばす効果があるにすぎません。
このように、「債務の承認」と「協議による時効の完成猶予の合意」では、その合意・承認の対象、及び、その効果に大きな違いがあります。
よろしくお願い申し上げます。