税理士法 税理士賠償責任

顧問契約書を交わしていない顧問先の解除について

顧問契約書を交わしていない顧問先の解除について教えて下さい。

(前提)
・顧問契約書を交わしていない法人のお客様がいます。
・現在はほぼ年に1回、決算の時のみ、資料が送られてきて申告している状況です。
・以前より顧問契約(書)をお願いしておりますが、応じてくれません。
・報酬の支払いについて、トラブルはありません。

(質問)
顧問契約?を解除したいと思っているのですが、
・書面による顧問契約がなく、決算申告業務のみの現状は、法律的にはどのような契約と理解すればよいのでしょうか?
・例えば今期決算申告業務を完了し、「今後の決算申告はお受けしませんので、他の税理士を探してください」として相手が受諾しない場合、どうなるのでしょうか?
・穏便にとは思っておりますが、このような契約の場合、あとあと揉めない上手な別れ方(笑)はあるのでしょうか?

1 ご質問①について

>・書面による顧問契約がなく、決算申告業務のみの現状は、法律的にはどのような契約と理解すればよいのでしょうか?

どのような契約が成立しているかは、当事者間での当初のやりとりの内容等を詳細にお伺いしないと明言はできませんが、
・年に1回決算申告に対する報酬が支払われるのみであれば、単発の決算申告業務のみを依頼する契約
・毎月報酬の支払いがあるのであれば継続的な契約(顧問契約)
と考えていただいてよいでしょう。

2 ご質問②について

>・例えば今期決算申告業務を完了し、「今後の決算申告はお受けしませんので、他の税理士を探してください」として相手が受諾しない場合、どうなるのでしょうか?

(1)決算申告業務のみを依頼する契約の場合

単発の決算申告業務のみを依頼する契約であれば、1回の決算業務を行いそれに対して報酬をもらうことで、契約は終了します。
次年度の決算申告は、また別の契約になるという理解です。

次回の決算業務を受けるか否か(契約するか否か)は全くの自由ですので、法律的には、相手が、今後の決算申告を受けないということを了承しない場合でも法的には問題ありません。
ただ、揉めることを避けるため伝えては、おいて下さい。

(2)顧問契約の場合

 仮に、顧問契約(継続的契約)であった場合、決算申告が終了しても、契約は継続していますので、何らかの形でこれを解消する必要があります。

 税理士の顧問契約は、民法上の委任契約と解されており、いつでも、どちらからでも解除ができる(民法651条1項)というのが、原則的な考え方です。

 実は専門化の顧問契約ですと、個別の事情によってはこの解除権の行使が妨げられる場合がありますが、
 具体的な作業が年1対応程度の場合であれば、原則通り解除できると考えていただいてよいでしょう。

 今回は、民法651条1項に基づき、相手に、一定期間経過後に契約を解除する旨を通知しておけば、相手の意向に関係なく、契約を解除することができるということになります。

 ただし、この場合、相手にとって不利な時期に解除をし、相手が損害を被った場合には、その損害を賠償しなければなりません(民法651条2項本文)。
 「不利な時期」とは、たとえば、依頼者が、すぐに、依頼していた事務の処理を自分で開始できず、また、他人に事務を処理させることもできない時期に解除することをいいます。

 この規定に基づき損害賠償が認められることは実際上あまりありませんが、決算申告の直前で、他の税理士の先生に依頼する時間的余裕もないような状況で解除したとすれば、「不利な時期」にあたる可能性もあります。
 目安として、年1対応であれば、申告時期の3〜4か月程度前の通知なら、まず問題はないかと思います。

3 ご質問③について

>・穏便にとは思っておりますが、このような契約の場合、あとあと揉めない上手な別れ方(笑)はあるのでしょうか?

 法律上は、上記のように、継続的な顧問契約であっても、原則的にはいつでも解除できることになっていますが、後々トラブルになる可能性もありますので、穏便に終わらせるに越したことはありません。

 具体的な方法としては、事務所の方向性(お客様への見せ方等含む)にもよる部分がありますが、
① 事務所の方針として、年1対応の値上げをする
② 事務所の方針として、(年1以外のお客様を大切にするため)年1対応をやめて行こうと思っている
など、一応の報酬額の増額交渉をした上、相手から「それは支払えないのでやめます」と言ってもらう流れにするというのが、1つの方策かと思います。

よろしくお願い申し上げます。