・前提
Aが亡くなり、相続人である妻は相続放棄し、Aの両親はすでに亡くなっており、Aの兄弟姉妹もすべて相続放棄しました(負債が多くあったため)。
Aは会社(製造業)(従業員10名程度)の取締役をしており、その会社の株式の80%を持っていました。残りの株式の20%は代表取締役であるB(Aの甥にあたります。)が持っています。
なお、もともとはAが代表取締役でしたが、老齢のため、数年前にBにその座を譲ったという経緯があります。
今後もBが代表取締役として会社を経営する予定ですが、Aが持っていた80%の株式について、相続人全員が相続放棄をしたため、その処理がネックとなっています。
・質問
Aが持っていた80パーセントの株式をBが手に入れたいのですが、どうすればよいのでしょうか。
>Aが持っていた80パーセントの株式をBが手に入れたいのですが、どうすればよいのでし
>ょうか。
会社が、裁判所に相続財産管理人の選任の申立てをし、相続財産管理人からBが株式80パーセントを買い取るという方法が考えられます。
2 回答の理由
(1)相続財産管理人の選任の申立て
相続放棄等により、相続人が誰もいなくなった場合、「利害関係人」が裁判所に申立てをして、相続財産管理人を選任してもらうことができます(民法952条)。
相続財産管理人には、弁護士が選任されることが多いです。
相続財産管理人は、裁判所の許可を得て、相続財産を換価(売却)することができます(民法953条、28条)。
ご質問のケースでは、相続財産管理人が、株式を換価(売却)する際に、Bが相続財産管理人から買い取ることで、株式を取り戻すことができるものと考えられます。
(2)申立人について
相続財産管理人の申立てができる「利害関係人」(民法952条1項)とは、相続財産の帰属について利害関係を有する人です。
被相続人の債権者、債務者、相続財産に抵当権を有している人などが典型的です。
ご質問のケースで、会社が「利害関係人」として申立てをした前例は見当たりませんので、会社が申立てをすることができるかについては疑義があります。
もっとも、会社は、相続財産である会社の株式の帰属が決まらなければ、株主総会決議をすることすらできず、会社の運営に支障が出ますので、株式の帰属について利害関係を有していると考える余地は十分にあるでしょう。
仮に、申し立てをした結果、認められなかったとしても、後述のように、申立て自体には、それほど費用はかかりませんので、とりあえずやってみる価値はあるものと思われます。
(3)申立ての手続等
(ア)申立て以降の流れ
・会社が、利害関係人として、相続財産管理人の選任を裁判所に申し立てる(民法952条1項)
※通常は、弁護士が相続財産管理人として選任され、以後相続財産を管理することになります。
・裁判所が、相続財産管理人を選任し、選任されたことを2か月間官報に公告する。
・それでも相続人であると名乗り出る者がいない場合、相続財産管理人は、債権者に申し出るよう、2か月間官報に公告する
・公告期間が終了したら、この間に申し出をした債権者に対し、相続財産から弁済がなされます。
これらの手続きの中で、必要があれば、随時、財産管理人は、裁判所の許可を得て、相続財産を売却し、金銭に換えることになります。
その際に、Bが相続財産管理人に連絡し、株式を買い取りたい旨を伝え、交渉することになります。
どのように財産を処理するかは、相続財産管理人が判断し、裁判所の許可を得ることになりますが、一般に、関係者以外で非上場の会社の株式を買い取る人はあまりいないでしょうから、相続財産管理人もBへの売却に応じるのではないかと思われます。
(イ)費用
・申立手数料等
申立手数料・官報への公告費として、5000円程度かかります。
・予納金
相続財産の中に、預金等の流動資産が少ない場合、相続財産管理人の選任の申立てをする会社が、裁判所への予納金(相続財産管理人の報酬等)として、多い場合だと100万円程度を支払う必要があります。
相続財産管理人の報酬は、相続財産から支払われますが、それでも足りない場合には、予納金から充当されます。
相続財産の中から、相続財産管理人の報酬等がまかなえれば、予納金は戻ってきます。
なお、相続放棄をされる前であれば、限定承認することで会社の株式80パーセントをBが取得するという目的が達成できた事例かと思われます。
よろしくお願い申し上げます。