〈前提条件〉
・昭和61年から30年間の土地賃貸借契約を結んでいる。
・本年5月で契約満了
・建物は鉄骨5階建で居住部分(同族会社社長)と事業用部分
(同族会社に賃貸)がある。
・地主の地代改定要求(計算根拠と要求文書を地主が保管)
に関して借地人は応じてこなかった。
・ここ一年の間に、頻繁に地代の未納が発生していた。
・更新にあたり、多額の更新料を要求されている。
・地代改定も同様に要求されている。
・賃貸契約書 第3条に地代の増額が出来る旨定められている。
・ 〃 第5条に賃料の未払、信頼関係を著しく害した場合等契約解除
出来る旨定められている。
〈質問〉
現在、地主より更地にして返還するよう不動産会社を通じて要望が
来ています。更新する場合更新料と地代改定を要求されています。
借地権の更新について、合意がなされない場合でも、建物は
強固なものなので、地主に拒絶する正当事由がない限り、
法定更新されると思いますが、この正当事由に地代改定に
応じない事と未納の件はあたるものなのでしょうか。
地代改定には応じるものの、更新料の支払いは拒絶できる
でしょうか。
地主の要望に対し、期限を設けて返答を要求されていますが、
これを無視して更新期限が過ぎた場合はどのようになりますか。
よろしくお願い致します。
>借地権の更新について、合意がなされない場合でも、建物は
>強固なものなので、地主に拒絶する正当事由がない限り、
>法定更新されると思いますが、この正当事由に地代改定に
>応じない事と未納の件はあたるものなのでしょうか。
地代改定に応じないことは、「正当事由」を肯定する事情にはなりません。
地代の未納は、「正当事由」を肯定する方向性の事情として考慮されます。
>地代改定には応じるものの、更新料の支払いは拒絶できる
>でしょうか。
当事者間に更新料の支払いに関する合意がなければ、更新料の支払義務はありません。
>地主の要望に対し、期限を設けて返答を要求されていますが、
>これを無視して更新期限が過ぎた場合はどのようになりますか。
契約の更新を拒絶する「正当事由」がない場合には、更新期限の経過により、契約が自動的に更新されることになります。
2 回答の理由
(1)適用される法律
ご質問のケースでは、契約の締結は昭和61年で、借地借家法が施行された日(平成4年8月1日)以前の契約ですので、契約の更新に関しては、旧借地法が適用されます(借地借家法附則6条)。
以下、これを前提にご説明します。
(2)契約更新に関するルール
借地契約の期間が満了する場合、
・借地人が契約の更新を請求したとき(旧借地法4条1項)。
または
・更新の請求をしなかった場合でも、期間満了後、借地人が土地の使用を継続しているとき(旧借地法6条)
には、契約が更新されます(法定更新)。
ただし、
・期間満了時に土地上に建物がない場合(旧借地法4条1項ただし書き)
または
・地主が、契約更新について遅滞なく異議を述べ、その異議に「正当事由」がある場合(旧借地法6条)
には、契約は更新されず、期間満了により終了することになります。
今回は、相手方から契約更新について異議が述べられていますので、「正当事由」の有無が問題となります。
「正当事由」がなければ、期限の経過により、法定更新されることになります。
なお、更新された後の賃貸借期間は、
堅固建物については30年、堅固建物以外については20年です(借地法4条3項、6条1項、5条1項)。
当事者間で、これより長い期間を定めることも可能ですが、短くすることはできません。
(3)賃料の改定(増額)について
賃料の増額は、当初の契約に、「いつからいくらに増額する」というような具体的な定めがない限り、一方的な増額は認められません。
ご質問のケースのように
>・賃貸契約書 第3条に地代の増額が出来る旨定められている。
という抽象的な規定のみでは、一方的な増額の根拠にはならず、借地人としては、賃料の増額に応じる義務はありません。
当事者間で賃料の増額について合意ができなければ、地主は賃料の増額請求調停(調停がまとまらなければ訴訟)をし、周囲の賃料相場の上昇などを立証してはじめて、増額が認められることになります。
30年前より、周囲の賃料相場が上昇しているなどの事情があれば、地代の増額請求が最終的に認められる可能性はあります。
(4)更新料の支払義務
更新料は、当事者間に合意がない限り支払う必要はありません。
契約書に更新料についての規定がないか確認していただければと思います。
以下では、更新料支払いの合意がなされていないことを前提とします。
(5)正当事由について
正当事由が認められるかどうかの考慮要素として、
・地主が土地の使用を必要とする事情
・借地人が土地の使用を必要とする事情
・借地に関する従前の経過
・土地の利用状況
・立退料の支払いの有無
などの事情が考慮されます。
賃料を滞納していた事実は、「借地に関する従前の経過」の一要素として、正当事由を肯定する方向の事情として考慮されることになります。
もっとも、滞納した期間や回数がそれほど多くなければ、さほど重視される事情にはならないものと考えられます。
一方、賃料の改定に応じないことは、そもそも、改定に応じる義務がない以上、「正当事由」を肯定する事情として考慮されることはありません。
また、更新料の支払の拒絶についても、そもそも更新料の支払義務がない(当事者間に支払合意がない)以上、考慮要素とはなりません。
一般的に、「正当事由」が認められるハードルは高いです。
具体的な事情を伺わないと確かなことは言えませんが、多少の賃料の遅滞があっただけでは、なかなか正当事由が認められないのが実情です。
よろしくお願い申し上げます。