知的財産法 消費税

著作権の譲渡と著作物の提供の違いについて

著作権の関係で不明確な部分があるので教えてください。

消費税の話ですが、コンピューターのソフトウエアを売却する
ような場合、著作権の譲渡として取扱われることになっています。

一方で、映画や音楽のダウンロードなどについては、著作権の
譲渡ではなく、著作物の提供と消費税法では多少用語を変えて
法律に規定しています(消費税法2条1項8号の3)。

このため、あくまでも素人考えですが、著作権の譲渡と著作物の
提供は、似て意味が違うものと考えています。この違いについて
教えていただけますでしょうか?

なお、法律の趣旨説明においては、以下の通りの解説がなされて
います。読んでもよく分かりませんので、教えていただきたいと思います。

インターネット等を介して電子書籍、映像、音楽、ゲームのアプリケーション、ソフトウ
エア等のデジタルコンテンツを利用させる取引の中には、一旦、利用者のPC等にそれら
の電子データの複製が行われる場合があります。利用者は、必ずしもこれらのコンテンツ
等を複製することについて著作権法上の使用許諾を得ているのではなく、当該コンテンツ
等にアクセスし、利用できるようにするという役務の提供を受けているものと考えられますが、
こうした役務の提供については、利用者のPC等に複製が行われることに対して不法行為
法上の権利を主張しない(不作為行為の負担)という意味での使用許諾という面もあり、
これらの混合契約と解する余地があるとの指摘があります。
こうした点を踏まえ、消費税法第 2条第1項第8号の3の規定においては、「電気通信
回線を介して行われる著作物の提供その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供」
に、「当該著作物の利用の許諾に係る取引を含む。」と規定することによって、消費税法
の適用上、役務の提供に該当することを明確にしています。
なお、消費税法第2条第2項においては、「資産の貸付け」から「電気通信利用役務の
提供に該当するもの」を除くことによって、消費税法の適用上、著作物の提供が著作権・
著作隣接権の譲渡・貸付けに当たる場合と役務の提供に当たる場合との整理がなされて
います。

仮に、私の理解が正しければですが、以下の取引は著作権の譲渡・貸付け
と著作物の提供のいずれに該当しますでしょうか?

1 自社独自のホームページの作成を委託して、その納品を受ける
行為

2 オフィスなど、汎用性のあるソフトウエアをインターネット経由で
パソコンにダウンロードする行為

3 業務専用のソフトウエアの開発を依頼し、そのソウトウエアをCD-Rの
ようなキャリアメディアに落とした後、購入する行為

複雑な質問で申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

1 ご質問①

>このため、あくまでも素人考えですが、著作権の譲渡と著作物の
>提供は、似て意味が違うものと考えています。この違いについて
>教えていただけますでしょうか?
>なお、法律の趣旨説明においては、以下の通りの解説がなされて
>います。読んでもよく分かりませんので、教えていただきたいと思います。

>インターネット等を介して電子書籍、映像、音楽、ゲームのアプリケーション、ソフトウエア等のデジタルコンテンツを利用させる取引の中には、一旦、利用者のPC等にそれら
>の電子データの複製が行われる場合があります。利用者は、必ずしもこれらのコンテンツ
>等を複製することについて著作権法上の使用許諾を得ているのではなく、当該コンテンツ
>等にアクセスし、利用できるようにするという役務の提供を受けているものと考えられますが、
>こうした役務の提供については、利用者のPC等に複製が行われることに対して不法行為
>法上の権利を主張しない(不作為行為の負担)という意味での使用許諾という面もあり、
>これらの混合契約と解する余地があるとの指摘があります。
>こうした点を踏まえ、消費税法第 2条第1項第8号の3の規定においては、「電気通信
>回線を介して行われる著作物の提供その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供」
>に、「当該著作物の利用の許諾に係る取引を含む。」と規定することによって、消費税法
>の適用上、役務の提供に該当することを明確にしています。
>なお、消費税法第2条第2項においては、「資産の貸付け」から「電気通信利用役務の
>提供に該当するもの」を除くことによって、消費税法の適用上、著作物の提供が著作権・
>著作隣接権の譲渡・貸付けに当たる場合と役務の提供に当たる場合との整理がなされて
>います。

2 ご質問①に対する回答

●●先生のご質問は、平成27年の消費税法改正に関わる部分ですので、釈迦に説法ですが、この改正内容についてご説明した上、ご質問に回答させていただきます。

(1)改正の趣旨

この改正の主眼は、国外の事業者が国内の事業者・個人に対して、ソフトウェア・電子書籍の配信等を行う電子取引に対して、消費税を課税することにあります。

つまり、消費税の課税要件として、「国内取引」に該当することが必要であるため、国外の事業者が国内の事業者・個人に対して、ソフトウェア・電子書籍の配信等を行う電子取引を、「国内取引」として捕捉することを目的としたものです。

(2)改正前の「国内取引」か否かの判定基準(旧消費税法4条3項)

・取引が、資産の譲渡、資産の貸付けにあたる場合

譲渡・貸付が行われる時に、当該資産が所在していた場所

・取引が、役務の提供にあたる場合

原則:当該役務の提供が行われた場所

例外:役務の提供の内容が、「情報の提供または設計」にあたる場合→情報の提供を行う者の事務所等の所在地

この改正前の規定にしたがえば、ソフトウェア・電子書籍の配信等を行う電子取引は、役務の提供の内容が「情報の提供または設計」にあたる場合として、情報の提供を行う者の事務所等の所在地により、国外取引か国内取引か(消費税の課税対象となるか)が変わってしまうことになります。

(3)改正後の「国内取引」か否かの判定基準(消費税法4条3項)

これでは不均衡なので、消費税法に新たに、「電気通信回線を介して行われる著作物の提供その他電子通信回線を介して行われる役務の提供」(消費税法2条1項8号の3。以下、「電気通信利用役務の提供」といいます。)という概念を設けました。

そして、これに該当する取引が、国内取引にあたるか否かを、当該役務の提供を受けた者の住所等で判定することとし(消費税法4条3項3号)、海外の事業者が国内の事業者・個人に対して行った場合、消費税が課税されるものとしました。

その結果、改正後の国内判定基準は、以下の3パターンになりました。

・資産の譲渡、資産の貸付→譲渡・貸付が行われる時に、当該資産が所在していた場所(消費税法4条3項1号)

・役務の提供のうち、「電気通信利用役務の提供」以外のもの→原則として、当該役務の提供が行われた場所(消費税法4条3項2号)

・「電気通信利用役務の提供」→当該役務の提供を受けた者の住所等(消費税法4条3項3号)

(4)「電子通信利用役務の提供」の要件(消費税法2条1項8号の3)

①役務の提供に該当し、かつ、それが電子通信回線を介して行われるものであること

②「電話、電信その他の通信設備を用いて他人の通信を媒介する役務の提供」に該当しないこと

③「他の資産の譲渡等の通知その他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供」に該当しないこと

(5)●●先生のご質問に対する回答

そして、①には、「著作物の利用の許諾にかかる取引を含む」とされています(消費税法2条1項8号の3)。

●●先生ご指摘の以下の部分は、この点に関する説明と思われます。

>インターネット等を介して電子書籍、映像、音楽、ゲームのアプリケーション、ソフトウ
>エア等のデジタルコンテンツを利用させる取引の中には、一旦、利用者のPC等にそれら
>の電子データの複製が行われる場合があります。利用者は、必ずしもこれらのコンテンツ
>等を複製することについて著作権法上の使用許諾を得ているのではなく、当該コンテンツ
>等にアクセスし、利用できるようにするという役務の提供を受けているものと考えられますが、
>こうした役務の提供については、利用者のPC等に複製が行われることに対して不法行為
>法上の権利を主張しない(不作為行為の負担)という意味での使用許諾という面もあり、
>これらの混合契約と解する余地があるとの指摘があります。
>こうした点を踏まえ、消費税法第 2条第1項第8号の3の規定においては、「電気通信
>回線を介して行われる著作物の提供その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供」
>に、「当該著作物の利用の許諾に係る取引を含む。」と規定することによって、消費税法
>の適用上、役務の提供に該当することを明確にしています。

非常にわかりにくい説明になっており、多少不適切ではありますが、ざっくり言えば、以下のような内容と考えられます。

インターネット等を介して、デジタルコンテンツを利用させる取引は、当該コンテンツ等にアクセスし、利用できるようにするという役務の提供をするものと考えられる。

もっとも、当該取引においては、デジタルコンテンツを利用者のPCに複製することになるので、「資産の譲渡・貸付」にあたると見る余地もある。

このように、「電子通信利用役務の提供」にあたるのか、「資産の譲渡・貸付」にあたるのかの区別があいまいである。

そこで、「電子通信利用役務の提供」の中に、「当該著作物の利用の許諾に係る取引を含む。」と規定することで、著作物の利用の許諾に係る取引(インターネット等を介して、デジタルコンテンツを利用させる取引)は、「資産の譲渡・貸付」ではなく、「電子通信利用役務の提供」であることを明確にしたものである。

そして、●●先生ご指摘の

>なお、消費税法第2条第2項においては、「資産の貸付け」から「電気通信利用役務の
>提供に該当するもの」を除くことによって、消費税法の適用上、著作物の提供が著作権・
>著作隣接権の譲渡・貸付けに当たる場合と役務の提供に当たる場合との整理がなされて
>います。

の部分は、以下のような内容と考えられます。

「資産の貸付け」から「電気通信利用役務の提供に該当するもの」を除く(消費税法2条2項)と規定することで、資産の貸付なのか、役務の提供なのかがあいまいな「著作物の利用の許諾に係る取引」が、「資産の貸付」にはあたらないことを明確にしたものである。

このように、今回の改正は、ソフトウェア・電子書籍の配信等を行う電子取引を、「電子通信利用役務の提供」として捕捉し、国外の事業者が国内の事業者・個人に対して行う場合も、「国内取引」として、消費税の課税対象にすることを主眼としたものです。

その意味で、重要なのは、取引が、「電子通信利用役務の提供」にあたるか、それ以外(「資産の譲渡」「資産の貸付」「役務の提供のうち電子通信利用役務の提供を除いたもの」)にあたるのかということです。

消費税法上、「著作物の提供」や「著作権の譲渡」または「著作権の貸付」というものを定義して、そこから課税要件該当性を決定するという建て付けにはなっていません。

3 ご質問②

>仮に、私の理解が正しければですが、以下の取引は著作権の譲渡・貸付け
>と著作物の提供のいずれに該当しますでしょうか?

>1 自社独自のホームページの作成を委託して、その納品を受ける行為

>2 オフィスなど、汎用性のあるソフトウエアをインターネット経由で
パソコンにダウンロードする行為

>3 業務専用のソフトウエアの開発を依頼し、そのソウトウエアをCD-Rのようなキャリアメディアに落とした後、購入する行為

4 ご質問②に対する回答

上記の次第で、重要なのは、当該取引が「電子通信利用役務の提供」にあたるか否かですので、ご質問②にある1~3について、この点に絞ってご回答いたします。

繰り返しになりますが、「電子通信利用役務の提供」の要件は以下です。

①役務の提供に該当し、かつ、それが電子通信回線を介して行われるものであること(著作物の利用の許諾にかかる取引を含む)

②「電話、電信その他の通信設備を用いて他人の通信を媒介する役務の提供」に該当しないこと

③「他の資産の譲渡等の通知その他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供」に該当しないこと

>1 自社独自のホームページの作成を委託して、その納品を受ける行為

結論としては、「電子通信利用役務の提供」にはあたりません。
ホームページの完成品のデータの提供が、インターネットを介して行われるとすれば、
「ホームページの完成品のデータ提供」という行為自体は
①役務の提供に該当し、かつ、それが電子通信回線を介して行われるものであること

という要件は満たすと考えられます。

もっとも、「電子通信利用役務の提供」の要件として

③「他の資産の譲渡等の通知その他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供」に該当しないこと(消費税法2条1項8号の3)

が必要です。

完成データの提供は、ホームページ制作という役務の提供に付随した行為であり、③「他の資産の譲渡等の通知その他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供」に該当します。

したがって、「電子通信利用役務の提供」の要件を満たさず、これには該当しません。

>2 オフィスなど、汎用性のあるソフトウエアをインターネット経由でパソコンにダウンロードする行為

著作物の利用の許諾にかかる取引であり、これが今回の改正で捕捉しようとしている「電子通信利用役務の提供」に該当します。

>3 業務専用のソフトウエアの開発を依頼し、そのソウトウエアをCD-Rのようなキャリアメディアに落とした後、購入する行為

①電子通信回線を介して行われるもの

という要件を満たしませんので、「電子通信利用役務の提供」にはあたりません。

よろしくお願い申し上げます。