相続 遺産分割 不動産 民法

使用貸借の土地の相続

使用貸借の土地の相続についてご教示下さい。

【前提】
 相続人Aは平成27年5月に亡くなった被相続人甲の長女です。
 Aは甲所有の土地の上に平成25年に住宅を新築し現在も住んでいます。
 Aは甲に対し地代・権利金等の支払はまったくありません。
 Aと甲の間でこの土地使用貸借について書面等は作成していません。

【質問】
 遺産分割において、甲の相続人である長男Bが、このAの所有する建物
の敷地を相続した場合において、BはAに対して立退き請求をすることが
できるのでしょうか。もし立退き請求ができる場合、Aは立退きをしないと
いけないのでしょうか。また、立退きが必要な場合にはAはBに対し金銭等
の要求はできるのでしょうか。

 宜しくお願いいたします。

1 ご質問および回答の結論

>遺産分割において、甲の相続人である長男Bが、このAの所有する建物
>の敷地を相続した場合において、BはAに対して立退き請求をすることが
>できるのでしょうか。もし立退き請求ができる場合、Aは立退きをしないと
>いけないのでしょうか。

 長男Bが、遺産分割により土地を単独で相続したということでよろしかったでしょうか。その前提で回答致します。
 裁判等で争った場合、結論としては、Bは立ち退きを請求できない、Aは立退きをしなくてよいとされる可能性が高いです。

>また、立退きが必要な場合にはAはBに対し金銭等の要求はできるのでしょうか。

 仮に、法律上Aが立ち退かなければならない場合には、Bに対して金銭等の請求はできません。

2 回答の理由
(1)使用貸借契約の成立・相続
 甲の土地の上に、甲の承諾を得てAが建物を建てて住んでいたという経緯からすれば、甲とAとの間に、土地についての使用貸借契約が成立していたものと考えられます。
 使用貸借についての契約書はないとのことですが、これによって使用貸借が成立していなかったということにはならないでしょう。

 使用貸借契約は、貸主である甲が死亡したことにより、相続人に承継されることになります。
ですので、甲の相続人であるBは、使用貸借の貸主の地位を承継します。

 使用貸借の貸主であるBが、借主であるAに対して、土地の明渡しを請求できるか(請求が認められるか)は、使用貸借が終了しているのかどうかにより決まります。

(2)使用貸借の終了原因

使用貸借の終了時期は、以下のように定められています。

①契約期間を定めていた場合には、期間満了時(597条1項)
②契約期間を定めていないが、使用目的を定めていた場合には、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わったとき、または、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したとき(597条2項)
③期間も使用目的も定めていない場合には、貸主が返還請求したとき(597条3項)

今回は、契約書面等はなく、期間は定められていないものと思われますので、①には該当しません。

 もっとも、Aは甲の承諾を得て建物を建てていたという経緯からすれば、土地の上に建物を建築するという目的を定めた契約であったと認定される可能性が高いと考えられます。
よって、②により、使用貸借が終了しているかどうかを判断することになります。

(3)②相当期間が経過したと言えるか

判例によれば、②の相当期間が経過したかどうかは、

経過した年月、土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的つながり、土地使用の目的、方法、程度、貸主の土地使用を必要とする緊要度など双方の諸事情を比較衡量して判断すべきものであるとしています(最高裁昭和45年10月16日)

 本件と同様に、建物を建築することを目的とした使用貸借においては、以下のような事例があります。

・期間が30年以上が経過しているにもかかわらず、借主が病床に臥しており明渡しをさせることが酷である一方、貸主の土地の利用の必要性が高くないことから、相当期間の経過を否定した事例(東京地裁昭和56年3月12日)
・期間が20年程度の場合に、相当期間の経過を否定した事例(神戸地裁尼崎支部昭和49年10月30日)
・期間は6年程度であるが、当事者間の信頼関係が失われたことなどを理由として、相当期間の経過を肯定した事例(最高裁昭和42年11月24日)

 以上のように、期間が長くても、相当期間の経過を否定した判例がある一方、期間が短くても否定したものもあります。
 判例上、期間のみを基準にしているわけではありませんが、経過した期間がある程度重視されていることは間違いありません。

 今回のケースは、建物を建てたのが平成25年ということで、まだ2、3年しか経過していません。
 そうすると、他に特別な事情がないかぎり、相当期間が経過したとはいえず、使用貸借契約は終了していないという結論になる可能性が高いです。

 ただし、本件では、土地をBの単独所有とする遺産分割が行われたものと思われます。
この遺産分割の内容や経緯によっては、相当期間の経過を肯定すべき特別の事情があると認定される可能性もありうるところではあります。
 このあたりは、遺産分割に至った経緯や内容を詳細な事実認定の下、決定していくということになります。
 実際に対応される場合には、1度その辺りの経緯等も含めて、お話を聞かせていただいた方がよいと思われますので、大変恐縮ですが、無料相談をご利用いただければと思います。

(5)Bに対する金銭の要求の可否

 仮に、相当期間が経過しており、使用貸借契約が終了したという認定がなされた場合には、Aは土地を使用する権限はなくなります。
 その場合、建物を取り壊して土地を明け渡さなければならなくなります。
 立退きにあたって、Bに対して金銭を請求する法律上の根拠はありませんので、金銭等の要求もできません。