会社法

法人と個人で同じ事業を行う場合

法人と個人で同じ事業をするのは
確か商法違反になるかと思います。

今回、当事務所の顧問先でこういうケースがでてきました。

【前提】
1)法人K社の目的(抜粋)
・セミナー開催
・アロマキットの販売

2)薬事法の関係で、セミナーと同時にキットの販売をK社で行えないことがわかった
  →そこで、キットの販売を個人事業主としておこなうこととしたい

【質問】
この場合、K社の定款から、キットの販売は必ず消さないといけないか?

現実としては、K社ではまったく行わずに個人事業として行うのですが、
形式上だけでも定款(謄本)の目的に残っていたらいけないものでしょうか?

お手数ですが、よろしくお願いします。

ご質問にある【前提】のうち薬事法に関する部分は、事情がわからないとなんともいえないため、「商法違反になるか」の問題に限定して質問に回答させていただきます。

 また、キットの販売を個人事業として行われる方(「Aさん」とします。)が、K社の取締役という前提で回答致します。

 なお、下記の競業避止義務違反のリスクは、K社とAさんの間でのトラブルの話ですので、もしAさんがK社の100%株主であり、トラブルが起きないということであれば、そもそも問題になる可能性は低いと考えられます。
 以下は、K社とAさん間で後にトラブルになるリスクがある場合を前提に回答させていただきます。

1 ご質問および回答の結論

>この場合、K社の定款から、キットの販売は必ず消さないといけないか?
>現実としては、K社ではまったく行わずに個人事業として行うのですが、
>形式上だけでも定款(謄本)の目的に残っていたらいけないものでしょうか?

 定款の目的事項から、キットの販売を消すことは必須ではありません。ただし、消しておくと「競業」ではないという証拠の1つになります。

 また、Aさんが個人事業としてキットの販売をすることについて、K社の取締役会(取締役会を設置していない会社であれば、株主総会)の承認を得ておくべきと考えれます。

 なお、競業避止義務違反のリスクは、K社とAさんの間でのトラブルの話ですので、もしAさんがK社の100%株主であり、トラブルが起きないということであれば、そもそも問題になる可能性は低いと考えられます。

2 回答の理由
(1)取締役の競業避止義務
 取締役は、会社と競合する事業(競業取引)を個人として行う場合には、会社の承認を得なければなりません(会社法356条1項1号)。
 これは、取締役が、会社のノウハウや顧客情報を利用して競業取引を行うことにより、会社の利益が損ねられるのを防ぐために定められている規定です。

先生がご指摘の
>法人と個人で同じ事業をするのは確か商法違反になるかと思います。
は、この部分の問題をおっしゃられているものと思われます。

 仮に、会社の承認を得ずに取締役が競業取引を行った場合、会社から損害賠償を請求される可能性があります。
 その場合の会社の損害額は、競業取引により取締役が得た利益の金額と推定されます(会社法423条2項)。

 実務上、会社の損害額の証明は難しいのですが、取締役が得た利益をすべて会社の損害と推定されるという点で、会社の承認を得ずに競業取引を行った場合のペナルティは大きいです。

 会社の承認を得ていたとしても、競業取引により会社に損害を与えた場合の損害賠償が免除されるわけではありません。
 ただし、上記の損害額の推定はされませんので、実務上、損害額の立証は困難なことが多いです。

(2)今回の場合「競業取引」になるか
 競業取引になるのは、Aさんが行うキットの販売を、K社が現在行っている場合、または、現在行っていなくてもキットの販売を始める準備を具体的に進めている場合です。
 この辺りは、現状によりご判断いただくしかないのですが、K社はキットの販売を行っておらず、行う準備もされていないということであれば、「競業取引」にはあたらない可能性は高いです。

 ただし、事情によっては、「競業取引」と判断される可能性もなくはないので、念のため、会社の承認を得ておかれた方が安全でしょう。

 承認の手続きとしては、取締役会(取締役会を設置していない会社であれば、株主総会)の承認を得る必要があります(会社法356条1項、365条1項)。
 Aさんは、承認を求めるにあたって、取引先・目的物・数量・価格・取引の期間など取引に関する重要な事実を開示する必要があります。

(3)定款の記載について
 上記のように、「競業取引」にあたるかどうかは、(2)の基準により判断されるものです。
 定款の目的事項に記載してあるというのみで、「競業取引」になるわけではありません。
ですので、定款の目的事項を変更することは必須ではありません。

 ただし、K社が「キットの販売」を行うことができない(現時点・今後も行っていない)ということを明確にしておくため、目的事項から外すと、「競業」ではないという一つの証拠にはなります。

よろしくお願い申し上げます。