①S社の代表取締役は2人体制(代表取締役A及びAの息子であるB)
②株主は代表取締役B家族が100%所有(昔はAが株主であったが順次贈与等により移転)
●S社の代表取締役Aが死亡(3年前)
●死亡した代表取締役Aは税務署に対し多額(3千万)の租税滞納債務がある。
●死亡した代表取締役AはS社に対して1億5千万円ほどの貸付金債権がある。
●Aの法定相続人全員(B含む)が相続放棄をしている。
(多額の隠れた債務があることを恐れて相続放棄をしたが、最終的には税務署、市役所等の租税債務のみだった。)
●A社は従来の本業部分は休眠状態であるが、固定資産として土地及び建物を所有しており
その物件から賃貸収入が生じており、毎期確定申告を行っている。
その会社所有の建物には、昔からB家族(死亡直前までAも同居)が社宅として居住している。
(A社との賃貸借契約はBのもう一つの同族会社)
●建物建築資金(約1億円)の当時の拠出割合は、S社の自己資金で3割、死亡したAからの借入金で3割、
Bからの借入金で4割になっている。
【質 問】
このような状況で、国税局はS社の所有している建物及び賃料債権の差し押さえをすることが
可能かどうかを教えて頂けますでしょうか?
国税局の徴収部門からその当時の取引記録(総勘定元帳)の開示を求められておりますが、
建物を建築した時期が9年前のため、その当時の資料はないと返事しております。
宜しくお願い致します。
1 ご質問および回答の結論
>このような状況で、国税局はS社の所有している建物及び
>賃料債権の差し押さえをすることが可能かどうかを教えて頂けますでしょうか?
① Aに対する租税債権を回収するための差押え
特別な事情がない限り、租税債権の存在を理由として直接、建物や賃料債権に差押えをすることはできないと考えられます。
② AのS社に対する貸金債権を回収するための差押え
国側がAからS社に対する3000万円の貸金債権の差押えをすることは考えられます。
そして、国側が、S社に対してその貸金の取立訴訟をして勝訴判決を得れば、貸金の回収のために、S社の財産である建物や賃料債権に差押えをすることが法律上可能になります。
少し迂遠な方法ですが、将来的にこのような方法をとってくる可能性もないとはいえないかと思われます。
2 回答の理由
(1)①Aに対する租税債権を回収するための差押え
ア 差押えができる財産
国税徴収法47条1項は、国税の滞納があった場合に、財産を差し押さえることができるとしています。
この財産は、当然ながら、滞納者の所有物であることが必要です。
今回は、Aに対する租税債権なので、建物の所有権がAにあるといえなければ、租税債権の存在を理由に建物やそこから得られる賃料を差し押さえることはできません。
イ 所有者の判断要素について
建物の所有権が誰にあるかは、登記名義や、その他の事情をあわせて、総合的に判断されることになります(争いになった場合、最終的には裁判所が判断します)。
不動産であれば、まず、登記の名義が誰にあるかが重要視されます。
また、他にも考慮要素になるものとしては、以下のようなものが挙げられます。
・建物建築の資金を出したのは誰か
・建物の賃料を得ているのは誰か
・固定資産税を支払っているのは誰か
・建物建築の請負契約の注文者や建築申請の名義人が誰であったか
今回のように、滞納処分により建物が差し押さえられ、建物の所有権者が誰かが争いになった事案において、上記のような事情を考慮して、所有権の帰属を判断した裁決があります(平成4年5月29日裁決事例集No.43427頁)。
http://www.kfs.go.jp/service/JP/43/34/index.html
(この事案は、建物の登記がなされていなかったという点で、今回のケースとは異なるかと思います。)
ウ 今回の場合の所有者は誰か
今回は、登記名義はS社ですし、資金を出したのもS社ですので、建物はS社の所有と考えてよいでしょう。
なお、資金は、Aから3割、Bから4割借り入れていますが、A・Bからの貸付けが帳簿上記載されているのであれば、S社の資金(S社がA・Bから借り入れた資金)で支払ったという理解でよいと思います。
考慮要素の中でも、登記名義がS社にあるということが重視されますので、他にS社の所有ではないという特別の事情がない限りは、これを否定するのは難しいと考えられます。
建物がAの所有物であるとして、差し押さえをされる可能性は低いでしょう。
国税局の徴収部門からその当時の取引記録(総勘定元帳)の開示を求め
ているのは、この部分の見立てをつけたいと考えているからだと思われます。
(2)②AのS社に対する貸金を回収するための差押え
国側が、Aの租税債権を回収するため、AのS社に対する1億5,000万円のうち租税債権(3,000万円相当)分について、貸金債権差し押さえをしてくる可能性があります。
S社に対する貸付金を差し押さえた場合、国税側はS社に対して、直接3,000万円の取り立てをする権利(取立権)をもつことになります。
そして、国側がこの取立権を根拠として、S社に対し、3,000万円の支払いについて裁判(取立訴訟)で勝訴判決を得れば、その判決の効果として、S社の財産に差し押さえをすることができます。
国側がこの方法をとれば、建物がS社の所有であったとしても、これに対して差し押さえをすることが法律上できることになります。
この方法は国側としても、手間と時間がかかります。
また、今回の取立訴訟では、時効の成否が争点になる可能性が高いと考えられます。
その場合は、時効期間が何年となるか(契約の性質)、どの時期に貸付けをしているか(時効の起算点)、時効の中断事由(Aの「債務の承認」が認めれるか)という点について、詳細な事実経緯とその立証により結論が分かれ得る部分です。
この点についての見立て等は、より詳細な事実の聞き取りが必要になってきますので、もしご希望があれば、下記の無料法律相談をご利用いただければ幸いです。
よろしくお願い申し上げます。