平成27年6月30日にAが死亡しました。
下記のご質問ですが
①相続人B(甲の社長)が相続したため、新たな契約書を作成しましたが、この場合の契約における契約期間ですが
当初の20年は、本来借地借家法では、最初は30年で契約すべきであったため、この場合は、20年契約は無効になり
30年と見なされると考えますが、よろしいでしょうか?
②その場合、当初の契約は相続人に自動的に承継されるが、わかりやすくするため、もし、相続人Bと甲が新たに契約書作成する場合、
契約期間は、Aの契約を引継ぎ、32年8月28日が期限期限になるのでしょうか?
それとも、Bと甲は、新たな契約として契約日から30年と考えるのでしょうか?
(1)ご質問①について
>①相続人B(甲の社長)が相続したため、新たな契約書を作成しましたが、
>この場合の契約における契約期間ですが、当初の20年は、本来借地借家法では、
>最初は30年で契約すべきであったため、この場合は、20年契約は無効になり30年と見なされると
>考えますが、よろしいでしょうか?
当初の契約には、旧借地法の適用(詳細は「理由」をご覧下さい。)があり
契約書に
◯「堅固建物」を建てることを目的とするという記載がある場合
→ 契約期間は「60年」
◯「堅固建物」を建てることを目的とするという記載がない場合
→ 契約期間は「20年」となり、その後の契約の自動更新により、契約期限は平成42年8月27日となります。
おそらく今回は、後者だと思われます。
(2)ご質問②について
>②その場合、当初の契約は相続人に自動的に承継されるが、わかりやすくするため、
>もし、相続人Bと甲が新たに契約書作成する場合、契約期間は、Aの契約を引継ぎ、
>32年8月28日が期限期限になるのでしょうか?それとも、Bと甲は、新たな契約として契約日から30年と考えるのでしょうか?
契約期限は、Bと甲の両方の了承(今回は問題はなさそう。)の上、
◯当初の契約の通り、平成42年8月27日とすること
◯当初の契約を合意により解除し、新たな契約として契約期間を契約日から30年とすること
両方可能となります。どちらか良いと思う期間をお選びいただけます。
2 理由
(1)ご質問①について
ア 当初の契約に適用される法律について
借地借家法の施行日(効力発生日)は平成4年8月1日であり、それ以前になされた契約には、借地借家法は適用されず(借地借家法附則6条)、旧借地法が適用されることになります。
今回の契約は、平成2年8月28日になされたものなので、旧借地法が適用されることになります。
イ 旧借地法の中身
旧借地法は、借地契約の契約期間について、借地の上に「堅固建物」を建てる目的であった場合と「非堅固建物」を建てる目的であった場合で、期間の定めが違っています。以下の3パターンが考えられます。
◯「堅固建物」(鉄骨造りや石造りの頑丈な建物等)
契約期間を30年未満と定めることは許されておらず、30年未満の期間を定めた場合には、契約期間は60年とされます(旧借地法2条1項)。
ご質問の契約では、期間は20年と定められていますので、期間は60年であったものとみなされます。
→契約期限は、平成62年8月27日です。
◯「非堅固建物」(木造などの頑丈ではない建物)
契約期間を20年以上と定めた場合には、契約期間は定めた期間どおりとされます(旧借地法2条2項)。
ご質問の契約では、期間は20年なので、契約期間は定めたとおりの20年となります。
→当初の契約期限は、平成22年8月27日です。
ただし、契約満了時に、貸主が異議を述べない場合には、さらに20年間自動更新されます(旧借地法6条1項)。
ですので、自動更新されていれば、契約期限は平成42年8月27日となっています。
◯契約で「堅固建物」を建てることが目的であると明示されていない場合(建てる建物について何の定めもない場合を含む)→「非堅固建物」を建てる目的であったものとみなされます(旧借地法3条)。
ですので、契約書の中に、建てる建物について何の定めもない場合には、「非堅固建物」を建てる目的の契約ということになり、契約期限は平成42年8月27日となります。
ウ 今回の建物
当初の契約書に「堅固建物」を建てることを目的とするという記載があるかどうかを確認していただきたいですが、実務的な感覚からすると、おそらくこのような規定はないと思います。
そうすると、「非堅固建物」を建てることが目的の契約であったものとみなされ、契約期間は20年、自動更新により契約期限は平成42年8月27日となります。
(2)ご質問②について
BがAの財産を相続したことから、もとの契約上の地位もBに引き継がれています。
この場合、貸主Bと借主甲が「新たに契約書を作成する」という場合、法律的には、以下の2通りの意味が考えられます。
ア 貸主がAからBに引き継がれているため、現状の権利関係に合わせ、契約書の名義をAからBに変更する(契約書を訂正するのみ)
→契約期限は、上述の通り、平成42年8月27日となります。
イ Bと甲で、もとの契約を合意解除して、新たな借地契約をする
→新しく借地契約をするので、期間は当初の契約に縛られることなく、自由に設定することが可能です。
ただし、先生もご指摘のとおり、借地借家法3条により、契約期間は30年以上としなければならないとされています(新しい契約をする場合には、旧借地法ではなく、現在の法律である借地借家法が適用されます)。
ですので、契約期間は、契約締結の日から30年以上にする必要があります。
ウ 今回の対応
甲とBが両方ともが了承しているのであれば、名義を変更するのみでもいいですし、当初の契約を合意解除して、新たな契約をすることも可能です。
これは、契約期間をどのようにしたいかによって決めてもらえばよいでしょう。
なお、蛇足かもしれませんが、新たな契約を締結するには、Bと甲(Bが代表取締役)で新たに契約をするものなので、利益相反取引(会社法356条1項2号)にあたります。
ですので、甲が、取締役会設置会社の場合には取締役会の承認、取締役会を設置していない会社であれば株主総会の承認が必要になります。
株主がB1人の場合には全く問題にはならないですが、株主がB以外にもいる場合には、この承認を得ていないと後でもめる可能性もなくはないので、ご注意ください。
よろしくお願い申し上げます。