民法 労働法

差し押さえへの対応

顧問先の会社に、裁判所から従業員の給料の債権差押命令というものが届きました。
差し押さえをしたのはカード会社のようです。
今後の対応について、ご教示下さい。

・この場合、会社は従業員に給料を支払ってはいけないのでしょうか。
・逆に、こちらからカード会社に連絡して給料を支払わないといけないのでしょうか。
・カード会社に支払った場合、従業員から訴えられる可能性はないでしょうか。
・その他注意点等ありましたらご教示ください。

よろしくお願いいたします。

1 ご質問と回答の結論

顧問先の会社に、裁判所から従業員の給料の債権差押命令書が届いた場合

(1)質問事項①
会社は従業員に給料を支払ってはいけないのでしょうか。
→給料については、差し押さえができる範囲が限定されています(具体的な計算方法は「理由」をご参照下さい。)
差し押さえがされた金額は、従業員に支払うことは禁止されますが、残りの金額は従業員に支払うことになります。

(2)質問事項②
逆に、こちらからカード会社に連絡して給料を支払わないといけないのでしょうか。
→近いうちに、債権者(カード会社)から支払いについての連絡が来ます。その際に、支払いについて話をしていただければ大丈夫です。あえて、こちらから連絡する必要はありません。

(3)質問事項③
カード会社に支払った場合、従業員から訴えられる可能性はないでしょうか。
→差し押さえをされた部分については、債権者(カード会社)に支払っても、従業員から訴えられることはありません(正確にいうと従業員から顧問先様に何かを請求する権利はありません。)。

(4)質問事項④
その他注意点等ありましたらご教示ください。
→債権差押命令書と一緒に送られてきている「陳述書」に必要事項を記載し、送られてきてから2週間以内に裁判所に返送するようにしてください。

2 回答の理由
(1)質問事項①「会社は従業員に給料を支払ってはいけないのでしょうか。」について
 ア 差押の効果
 債権差押命令書が会社に到着すると、会社は、従業員に対して、差し押さえられた給料の支払いが禁止されます(民事執行法145条1項)。
 ただし、給料については、下記のとおり、差押えができる金額が限定されていますので、差押さえられた金額以外の部分については、従業員に支払うことになります。
 イ 給料の差押えができる範囲
 給料の差押えは、以下の2つのうちどちらか金額の多い方を上限として行うことができます(民事執行法152条1項)。

①給料の4分の1
または
②給料のうち、33万円を超える部分

この場合の「給料」は、額面額ではなく、所得税・住民税・社会保険料等を控除した手取額で計算します。

たとえば、
手取額が40万円の場合、差し押さえができるのは、①によれば、40万円の4分の1の10万円、②によれば、40万円のうち、33万円を超える部分の7万円です。
①の方が多いので、10万円を差し押さえることができます。
→10万円は差押えをしたカード会社(以下「債権者」といいます。)に、30万円は従業員に支払うことになります。

 手取額が50万円の場合、差し押さえができるのは、①によれば、50万円の4分の1の12万5000円、②によれば、50万円のうち、33万円を超える部分の17万円です。
②の方が多いので、17万円を差押えることができます。
→17万円は債権者に、33万円は従業員に支払うことになります。

 このような計算にしたがって、従業員に給料を支払ってもらえばよいです。

 ウ 給料全額を従業員に支払ってしまった場合
 仮に、債権差押命令書が届いた後に、会社が従業員に給料全額を支払ってしまった場合でも、差押さえられた金額を、債権者から請求されれば、その支払いは拒めません。結局、従業員と債権者の両方に支払わないといけないことになります(民法481条1項)。
 差押えされた金額は、本来、債権者に支払うべきものだったのですから、この部分については、従業員から返してもらう(求償する)ことは可能です(民法481条2項)。
 ただ、従業員が求償に応じようとしない場合もあり(差押えを受けるくらいなので、お金がなくて返せないということがほとんどでしょう。)、面倒なことになりかねませんので、差押えをされた金額は、従業員に支払わないようにご注意ください。

(2)質問事項②「逆に、こちらからカード会社に連絡して給料を支払わないといけないのでしょうか。」について

 こちらから債権者に連絡をしなくても、近いうちに債権者から支払いについての連絡がありますので、それを待っていただければよいです。連絡が来たら、支払いの方法等について協議をして、その内容にしたがい支払えばよいです。
 弁護士が代理人として差押えを行っている場合(この場合、「債権差押命令」に同封されている「当事者目録」に弁護士の名前が記載してあります。)は、債権者ではなく弁護士から連絡が来ることになります。
 なお、債権差押命令は、従業員にも送られることになっており、債権者は、従業員に差押命令が届いた日から1週間が経過しないと、会社から取立てをすることができません(民事執行法155条1項)。ですので、債権者からすぐに連絡が来なくても焦る必要はありません。

(3)質問事項③「カード会社に支払った場合、従業員から訴えられる可能性はないでしょうか。」について

 差押えされた金額については、債権者に支払う必要があります(従業員に支払うことが禁止されています)ので、この金額を債権者に支払っても、従業員は、会社に対して何か請求することはできません。
 従業員に対しては、「債権差押命令書」が届いたので、差押えをされた金額については支払えないということを、あらかじめ説明しておいていただければ、トラブルにもならないでしょう。

 なお、差し押さえをされていない部分は、通常どおり従業員に支払う必要がありますので、ご注意ください。

(4)質問事項④「その他注意点等ありましたらご教示ください。」について

 債権差押命令書と同時に、「陳述書」というものが会社に送られてきていると思います。
これは、差押えを受けた給料の金額や、他に差押えを受けていないかなどを、会社から裁判所に(裁判所を通して債権者に)知らせるためのものです。
 会社は、「陳述書」が届いてから2週間以内に記載事項を埋めて裁判所に返送する必要があり、これを怠った場合、または、虚偽の記載をした場合には、これによって生じた損害を賠償しなければなりません(民事執行法147条2項)。
 ですので、「陳述書」を記載して、2週間以内に裁判所に返送するようにして下さい。

よろしくお願い申し上げます。