実務上回収が見込めない場合には、内容証明郵便などで
債務免除をすることが多くあります。貸倒の損失は、
回収見込みがないと客観的に判断されると認められますが、
国税とトラブルになることが多いため、法律上も債権がない
とするために、このような対応をしています。
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/hojin/16/03.htm
この場合ですが、行方不明などで相手に内容証明郵便が
到達しないケースがあります。このような場合、到達しなければ
債務免除が成立しませんので、債権が回収できるかは
別にして、貸倒損失を計上すると債権がまだ存在すること
から、税務調査での否認リスクが残ると考えています。
民法を見ますと、このようなケースについて、公示送達が
認められ、所定の期日を経過しますと相手に意思表示が
到達した、とされるようです(民法98)。
このため、貸倒損失を計上するにあたり、確実性を期すためには、
公示送達まで行うべきと考えていますが、以下の疑問があります。
1 公示送達の要件や注意点
厳格な要件が設けられているようで、安易に手続きすると
リスクがあるかのように読めます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E7%A4%BA%E9%80%81%E9%81%94
漠然とした話で申し訳ありませんが、手続き上の注意点や
リスクについて解説いただきたく思います。
2 公示送達の効力
素人考えで申し訳ありませんが、債務免除について
公示送達の効力が発生すれば、債権はなくなったと
見て問題ないでしょうか?
その他、公示送達の効力発生時には何か
裁判所などから書類は貰えますでしょうか?証拠を
税務調査でチェックされますので、確認です。
基本的な話かもしれませんが、よろしくお願いいたします。
① 公示送達の要件や注意点
② 公示送達の効力
【回答】
1 前提として
「送達」というのは、一般的には、裁判上の書類(訴状など)を裁判所が相手方に送るための手続きであり、「公示送達」は、一定の要件・手続きのもと、裁判上の書類が相手に届いたものとみなすという手続きです。
今回のご質問は、「意思表示の公示送達」(「公示による意思表示」ともいいます。)に関するものであり、厳密には「公示送達」とは異なります。
「意思表示の公示送達」は、「公示送達」の手続きに則って行われるため、この2つは混同されがちですが、厳密には別の制度であり、要件も異なります。
今回は、「意思表示の公示送達」についてご説明します。
2 ①意思表示の公示送達の要件や注意点
(1)意思表示の公示送達手続きの概要
相手方が誰かわからない、または、相手方の所在がわからない場合に、相手方に意思表示を到達させるための手続です。
今回のご質問では、「相手方の所在がわからない」場合として、この手続きを利用することになります。
なお、相手方の所在はわかっているけど、相手方が単に通知を受領しないという場合には利用できませんのでご注意下さい。
※ ご質問の内容とはズレますが、相手の所在はわかっているけど、相手方が通知を受領しない場合の対応方法を、一番下に記載しています。
(2)意思表示の公示送達の実体的要件
・相手方が誰かわからないこと
または
・相手方の所在がわからないこと(※ 相手方が法人の場合には、法人及び代表者の所在が分からないことが必要となりますのでご注意下さい。)
(3)意思表示の公示送達の手続方法と流れ
ア 裁判所に意思表示の公示送達の申立てを行います。
(申し立てる裁判所)
相手方の所在がわからない場合の申立て
→相手方の最後の住所地(住民票記載の住所地)を管轄する簡易裁判所
東京23区内であれば、東京簡易裁判所です。
(提出書類)※東京簡易裁判所の場合
・相手に到達させる意思表示が記載された通知書(原本1部・コピー4部)
・意思表示の公示送達申請書
・申立人の登記簿謄本(3か月以内のもの)(申立人が法人の場合のみ必要)
・相手方の登記簿謄本(3か月以内のもの)(相手方が法人の場合のみ必要)
・相手方(代表者)の住民票又は不在住証明書等(3か月以内のもの)
・相手の所在がわからないことについての調査報告書
・到達証明申請の用紙2通(到達証明書の郵送を希望する場合には、郵送用の切手が必要です。)
・切手 合計1,034円分(500円×2枚,10円×3枚,1円×4枚)
※詳しくは東京簡易裁判所のホームページをご覧ください。申請書の書式も掲載してあります。
http://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/l3/Vcms3_00000347.html
イ 提出書類の不備などがあった場合、裁判所から連絡があり、指示にしたがって修正・再提出することになります。
ウ 公示送達の許可がおりると、裁判所の掲示板と区役所(市役所または町役場)の掲示板に公示送達の掲示がなされます。
掲示されてから、2週間すると、相手に意思表示が届いたものとみなされます(公示送達完了)。
エ その後、到達証明書を受け取れます。
(4) 注意点
ア 報告書の提出
申立ての際、相手の所在がわからないことについての調査報告書を提出する必要があります。
この報告書には、色々調査したけど、結局相手がどこにいるかわかりません、という内容を記載する必要があります。
調査の内容としては、住民票上の住所地の現地調査や、相手方の電話番号を知っている場合、電話をかけてもつながらなかった等の事情を記載する必要があります。
ただ、この報告書に何をどこまで記載するかは、裁判所によって運用がまちまちなので、実際に申立てをする前には、申立てをする裁判所に電話で確認された方がよいです。
ちなみに、私が以前申立てをしたときには、対象地の管理会社や近隣住民への聞き込みまで要求されたことがありました。ただ、交渉して調査の必要な程度を下げてもらいましたが。
イ 無効となる場合があること
相手方の所在を知らないことについてこちら側に過失があった場合、公示送達は無効とされます(民法98条3項ただし書き)。
「過失があった場合」の典型例は、相手方の所在について調査が不十分な場合です。
ただ、上記のように、申立ての際に、調査した結果の報告書を提出することになっており、裁判所も調査不足であれば追加の調査を指示します。
裁判所の指示にしたがって調査を行えば、基本的には調査不足という問題はないと考えられます。
また、過失があったことを証明する責任は、公示送達の効力を否定する側にあります。
今回のご質問であれば、調査官側が過失があったことを証明することになりますが、裁判所が認めたものを、調査官が証明することは現実的にはないかと思われます。
3 ②公示送達の効力
公示送達の効力が生じるのは、官報に掲載した日または区役所(市役所または町役場)の掲示板に掲示した日の2週間後です(民法98条3項本文)。
債務免除は、一方的な意思表示で効力を生じる法律行為ですので、公示送達の効力が生じれば、債権は法律上消滅したとみて問題ありません。
>公示送達の効力発生時には何か
>裁判所などから書類は貰えますでしょうか?
上記のように到達証明申請書を提出しておけば、裁判書書記官により到達証明書が作成されます。
到達証明書の郵送を希望する場合には、返送用の切手が必要になりますので、申請時に提出しておくと良いでしょう。
これを、調査時に証拠とすることが可能です。
〇郵便物を受領しない場合
意思表示の効力は相手方に到達したときから効力を生じます(民法97条第1項)。
そして、この「到達」とは、相手方によって直接受領されることまでは必要なく、意思表示を記載した文書が相手方の支配権内に置かれればよいとされています(最高裁昭和43年12月17日)。
内容証明は相手方の受取印が必要ですので、相手が受領拒否すれば、返却されてしまいます。
その場合、再度内容証明を送るのと一緒に、普通郵便でも同じ内容の文書を送付しておくとよいです。
そうすれば、内容証明の受け取りを拒否されても、普通郵便は相手のポストに入れられ、「相手方の支配権内」に文書が届いたことになりますので、意思表示が到達したことになります。
注意していただきたいのは、内容証明の文書の最後に「なお、念のため同内容の文書を普通郵便でも発送したことを申し添えます」と記載し、普通郵便の封筒に日付を記載して、コピーをとっておいてください。
これにより、後に内容証明が不在等で返却されたとしても、相手方に普通郵便がポストに入れられたことの証明となります。
以上が回答となります。