民法

返してこない契約書の効力

前提

甲社は軽自動車運送業を営み個人の外注業者(配送者)を使用し業務を行っている。

外注業者は甲社の車両を使用して業務を遂行することも可、各自での持ち込みも車両も可。

外注業者A.Bは甲社車両を利用を選択。

A.Bには甲社作成の車両リース契約書及び業務委託契約書を渡しているが、契約書を返してこない。

車両リース契約に関して以下の通り

Aには口頭で契約の内容(リース料2万円)を伝えてある。

Bは現状お金がないという事で1年間リース料を無料にすることを口頭で伝えてある。

当該車両所有者は甲社で使用者が外注業者。

Bに対して甲社で上記車両にかかる軽自動車登録代行、貨物軽自動車運送業経営届書の代行、ナンバー代の合計約50,000円を立て替えている。

上記費用は外注業者負担であることは契約書に記載。

業務委託契約については以下の通り

業務委託契約書に関しては、荷物一個の報酬単価を入れて記載、

契約解除を申し出る場合は3か月前に申し出ること等

口頭でも、上記契約内容は伝えてある。

質問

Aは自ら契約解除を申し入れましたが申し出から1か月で業務を行わなくなる。

Aに対して上記契約内容の単価報酬を支払う義務があるか?違う金額でもよいか?

Bに対しては弊社より契約を解除申し出る。

解除理由:Bが利用する目的で甲社が用意した車をBは使用せず自ら用意した車両により業務をおこなったため。

再三の注意も聞き入れず。

Bに対して上記契約内容の単価報酬を支払う義務があるか?

Bに対して上記軽自動車登録代行料等の費用を請求または報酬より差し引くことができるか?

Bに対して2万円の車両リース料を請求する事ができるか?できないのなら0円か?

その他良い解決方法、気になる点はあるか?

以上です。宜しくお願い致します。

以下を前提として回答します。前提が間違っていれば、ご指摘ください。
・甲社とA・Bで、口頭で契約内容の確認をした。
・甲社がA・Bに送った契約書には、甲社の記名・捺印がなされている。
・契約書は返送されず、A・Bが持っている。
・契約書にはA・Bともにリース料2万円の記載がある。
・Bにはリース料は1年間無料にすると口頭で伝えてある。

1 各ご質問への回答
質問①Aに対して上記契約内容の単価報酬を支払う義務があるか?違う金額でもよいか?
 →契約書の内容どおりの単価報酬を支払わないといけない可能性が高いです。

質問②Bに対して上記契約内容の単価報酬を支払う義務があるか?
??→契約書の内容どおりの単価報酬を支払わないといけない可能性が高いです。

質問③Bに対して上記軽自動車登録代行料等の費用を請求または報酬より差し引くことができるか?
 →差し引くことができると考えられます。

質問④Bに対して2万円の車両リース料を請求する事ができるか?できないのなら0円か?
口頭で0円という伝えたことが証明されれば0円となってきますが、先方の債務不履行もある事案ですし、契約書に2万円と記載されている以上、請求できる(Bに支払うべき報酬から差し引く)というスタンスで交渉して良いと考えられます。

質問⑤その他良い解決方法、気になる点はあるか? 
 ・業務委託契約に基づく報酬の支払をする場合には、リース料と軽自動車登録代行料等の費用を差し引いた金額で行って下さい。

 ・Aが、解除の申し出から1か月後に業務をやめたことが契約違反(債務不履行)にあたるとして、損害賠償の請求をする(その分をAに支払う報酬から差し引く)ことが考えられます。ただし、下記の通り、「損害」の認定に難点はありますが、Aに債務不履行がある以上、報酬の減額についての大きな交渉材料になると思われます。

2 理由

(1)甲社とA・Bの契約内容について

 まず、ご存知の通り、契約はお互いの合意があれば成立し、必ずしも契約書などの書面で行う必要はなく。口頭での合意でも成立します。
 今回の場合は、甲社から記名・捺印がなされている契約書を先方に送っている上で、実際に「車両リース契約」及び「業務委託契約」の遂行がなされている以上、契約書自体が不成立であっても、その契約書通りの契約内容で甲社とA・Bの間に合意があったと認定されてしまう可能性が高い事案です。
 
 特に契約書を、甲社がABに送っている以上、甲社としてはその内容を承諾しているということは明確になっており、その証拠を相手に渡してしまっている状況です。
 
 契約書の内容通りの権利・義務が発生すると考えることになると思われます。
 
 下記、以上を前提に各質問の回答の理由を説明します。

(2)各質問への回答の理由
質問①Aに対して上記契約内容の単価報酬を支払う義務があるか?違う金額でもよいか?
 
 上記(1)から、契約書通りの単価で報酬を支払う義務があるでしょう。

質問②Bに対して上記契約内容の単価報酬を支払う義務があるか?

 質問①と同様の理由で、契約書通りの単価で報酬を支払う義務があるでしょう。

質問③Bに対して上記軽自動車登録代行料等の費用を請求または報酬より差し引くことができるか?
 
 「軽自動車登録代行料等」についても、契約書上外注業者負担である旨の記載があるということですから、上記(1)の契約の内容により、「軽自動車登録代行料等」を請求または報酬から差し引くことは可能です。

質問④Bに対して2万円の車両リース料を請求する事ができるか?できないのなら0円か?
 契約書上、月2万円となっている以上、こちらからわざわざ無料であることを前提として対応する必要はないと考えられます。
 確かに、裁判で口頭で0円で良いと合意していたことが証明されていれば、0円となってしまうのですが、今回は、「再三の注意も聞き入れず、Bが利用する目的で甲社が用意した車をBは使用せず自ら用意した車両により業務をおこなった」という事情もありますので、甲社側からあえて0円で対応する必要もないかと思われます。

質問⑤その他良い解決方法、気になる点はあるか? 

ア 注意点

 A・Bは、自分たちにとって、都合のよい業務委託契約のみを主張し、こちらのリース料の請求の根拠となるリース契約については、契約書を締結していないことを理由に成立していないと主張してくるおそれがあります。

 その状況で、業務委託契約による報酬金の支払いのみを先にしてしまうと、甲社のみ金銭負担をすることになりかねません。

甲社からは、両方の契約の成立を前提として、
・Aに対してはリース料月2万円
・Bに対しては立て替えた5万円、リース料の月2万円

を報酬金額から差し引いて支払うという対応にすべきです。

イ その他気になる点

 Aが、解除の申し出から1か月後に業務をやめたことが契約違反(債務不履行)にあたるとして、損害賠償の請求をする(その分をAに支払う報酬から差し引く)ことが考えられます。
 契約書上、解除の申し出から3か月後に契約は終了することになっていますので、残りの2か月間業務を行わなかったことは契約違反にあたるといえます。

 問題は、それによりどのような損害が生じたかということです。
 Aが急にやめたことで、他の業者に依頼することになり、余分にかかった費用などがあれば、損害として請求することはありうるところでしょう。
 少なくとも、交渉段階で、支払う報酬の金額を減額するための交渉材料にはなるものと考えられますので、それを根拠に減額の交渉はすべきかと考えれます。

以上が回答となります。