・宗教法人(お寺)の従業員に対し、退職金の前払いとして金銭を貸付けます
・貸付金は退職時に退職金と相殺する形で一括返済とします
・金利は取りたくないのですが、税法を考慮し年利1.8%とします
・退職は5年後を予定していますが、明確な日付は定めていません
・業種の特性から就業規則、賃金・退職規程等はありません
(質問事項)
・金銭消費貸借契約書を作成しますが、この場合の返済に関する条項は、どのよ
うな記載にすればよいでしょうか
「退職時に退職金から控除し返済する」といった記述でよいのでしょうか
・その他、この金銭消費貸借契約書の作成にあたり注意すべき事項がありました
ら、教えてください
宜しくお願いいたします。
・金銭消費貸借契約書を作成しますが、この場合の返済に関する条項は、どのよ
うな記載にすればよいでしょうか
(1)条項例
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第◯条(支払条件等)
1 弁済期限は、乙が、甲を退職したときとする。
2 甲及び乙は、乙が甲を退職したことを停止条件として、本件貸金債権と乙の甲に対する退職金請求権とを対当額にて相殺することを合意する。
3 甲が乙に対して支給する退職金の金額は、○○円とする。
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(2)理由
便宜上、会社を「甲」、従業員を「乙」としています。
なお、上記条項例は、例として挙げたものですので、法人様が利用になっている金銭消費貸借契約書の条項の形式に合わせてご利用下さい。
以下、上記条項例の解説です。
ア 返済期限(1項)
返済期限を明確にするため、1項で「弁済期限は、乙が、甲を退職したときとする。」との条項を入れました。
イ 返済の方法(2項)
「甲及び乙は、乙が甲を退職したことを停止条件として、本件貸金債権と乙の甲に対する退職金請求権とを対当額にて相殺することを合意する」という内容の条項を入れられるとよいです。
これは、退職時に、退職金から貸付金を差し引くことを合意することを意味するものです。
ウ 退職金の金額(3項)
「甲が乙に対して支給する退職金は、○○円とする。」という条項も入れました。
※「○○円」は、今回の貸付金額と同額
これは、退職金の金額が今回の貸付金と同額であることを明確にしておくための規定です。これにより、乙が退職時に、今回の貸付金より退職金の金額の方が多いとして、残りの退職金を請求してくるという事態を防止することが目的です。
本来であれば、別途「労働契約書」で退職金の計算方法や金額を定めておく方が、契約書自体の役割がはっきりしますが、消費貸借契約書の中で合意をとるという方法で問題ないかと思われます。
なお、金銭消費貸借契約書に退職金の金額を入れたくない等の事情があれば、ここには入れず、別途、甲・乙間で、退職金についての契約書を取り交わしましょう。
2 質問事項②
・その他、この金銭消費貸借契約書の作成にあたり注意すべき事項がありました
ら、教えてください
(1)退職金からの控除に関する規制
前提として、賃金や退職金から、会社の貸付金を控除(相殺)することは原則として禁止されています(労働基準法24条1項)。
もっとも、判例によれば、従業員が「自由な意思に基づき相殺に同意した場合」には、退職金から貸付金を控除することが可能(労働基準法24条1項に違反しない)とされています(最高裁判所平成2年11月26日)。
今回は、この判例のいう従業員が「相殺に同意した場合」として、退職金と貸付金を相殺することが許されることになるように、しっかり契約書を締結しておくべきです。
(2)契約書作成の際の注意点
ここで重要なポイントは、従業員が、「自由な意思に基づいて相殺(退職金からの控除)に同意した」という証拠を残しておくことです。
当然、自分で契約書に印を押しているのだから、普通は強要などされてないだろうという話になります。ただ、従業員から後に相殺に同意することを強要されたなどと言われ、争いになった場合に備えて、会社がお金を貸し付けることになった経緯、その返済方法として退職金から差引くこととなった経緯(例えば、平成◯年〇月〇日に、従業員側から退職金の前借りの要望があったなど)などについて、記録を残しておかれるのが望ましいと考えられます。
今回は、退職金の前払いというのが実態であり、貸付金と退職金を相殺をすることについて、従業員側にデメリットのない事案なので、争いになったとしても、相殺への同意を強要されたということにはなりにくいでしょう。
ただし、将来の話になりますので、上記のような記録を残しておくことをおすすめします。
よろしくお願い申し上げます。