民法

借入金の時効

基本的なことで恐縮ですが、質問します。

金融機関からの借入の時効についてです。

かなりの期間滞納をしている会社があるのですが、この場合、時効の計算はいつから始まると考えるのでしょうか?
返済が当然ながら分割なので、それぞれ返済期限からということでいいのでしょうか?

恐縮です。よろしくお願いします。

1 ご質問
金融機関からの借入債務について
かなりの期間滞納をしている会社があるのですが、この場合、時効の計算はいつから始まると考えるのでしょうか?
返済が当然ながら分割なので、それぞれ返済期限からということでいいのでしょうか?

2 回答
(1)結論

 契約書の定めが

① 分割での返済を怠った場合に、直ちに借主が全額を支払うとなっている場合(当然型期限の利益喪失約款)
 →返済を怠った期日から「全額」について時効期間が進行します。

② 分割での返済を怠った場合に、「金融機関が全額を支払うように請求した時」に、借主が全額を支払うとなっている場合(請求型期限の利益喪失約款)
 →金融機関が全額の支払いを請求をするまでは、分割金額についてそれぞれの返済期日から時効期間が進行します。金融機関が全額の支払いを請求した時には、請求した日から、残りの全額について時効期間が進行します。

(2)理由
 時効期間は、「権利を行使することができる時」から進行する(民法166条1項)とされています。
 
 貸金債権は返済期日から返済の請求ができるようになるので、返済期日から時効期間が計算されることになります。
分割での支払いの場合、阿部先生がおっしゃる通り、分割金のそれぞれの返済期日から、分割金額ごとに別々に時効期間が進行するのが原則です。

 ただし、金融機関との契約の場合、分割の返済が滞った場合に残額を全て請求できるように

①借主が分割返済を怠った場合、直ちに全額を支払う旨(当然型期限の利益喪失約款)

あるいは

②借主が分割返済を怠った場合、「金融機関が全額を支払うように請求した時」に、全額を支払う旨(請求型期限の利益喪失約款)

の条項が契約書の中に入れられています。

① 当然型期限の利益喪失約款がある場合
 借主が返済を怠った時点で金融機関は全額を請求できることになりますので、この時点から「権利を行使することができる時」として、全額について時効が進行することになります。

② 請求型期限の利益喪失約款がある場合
 金融機関が請求するまでは、分割金の返済期日が経過するごとにそれぞれ時効期間が進行し、金融機関が請求した時以降は、残りの全額について時効が進行することになります。
例えば 、300万円で、月額10万円ずつ月末の分割払いの場合
1、2月末日の返済が滞り、金融機関が3月末に全額の支払いを請求した場合、1、2月の10万円についてはそれぞれ1月末日、2月末日から時効期間が進行し、請求した3月末日から残り全額280万円について時効が進行するということになります。

 このように、①と②で時効期間の計算が異なりますので、まずは、契約書の内容が、①②のどちらになっているかをご確認いただければと思います。

 なお、時効期間が進行していたとしても、借主が貸金があることを承認するようなことをすると、その時点で時効期間はリセットされ、またゼロから時効期間が計算されることになりますので、ご注意ください。
 例えば、借入金の一部を返済したり、借入金の支払いを猶予してもらえるようにお願いする等です。