労働法

発達障害の疑いが発覚した社員への退職勧奨

今年の4月に顧問先へ新卒で入社した社員がADHD(いわゆる発達障害)の疑いがあり、全く戦力にならないことがわかりました。

顧問先は少人数で業務を行っており、他の社員への影響も大きいため、できるだけ早くこの新卒社員に退職してもらう必要があると考えています。

その場合、以下の点について、ご教示いただければ幸いです。

(1)このような社員に対して退職勧奨を行うことは法的に問題ないでしようか?

解雇ができないことは理解できるのですが、病気の疑いがある場合には退職勧奨もできなくなってしまうのかどうかを懸念しています。

(2)仮に、医師が当該社員に対してADHDという診断結果を下した場合、(1)の結論は異なりますか?

(3)当該社員へ退職勧奨ができない場合、また当該社員が退職勧奨に応じない場合、昇進、昇給及び賞与支給を行わないことは法的に問題があるのでしょうか?

顧問先の就業規則や給与規程には年功的な条項はありませんが、ここ数年、定期昇給や賞与の支給は継続して行っています。

(4)当該社員のみ昇給と賞与支給を行わないことが可能である場合、当該社員に対して昇給と賞与支給を行わない理由を事前に書面で説明すべきでしょうか?

面倒な質問で恐縮ですが、どうぞ宜しくお願い致します。

>(1)このような社員に対して退職勧奨を行うことは
>法的に問題ないでしようか?

1 障害があることについての問題

 まず、退職勧奨はあくまでも「お願い」に過ぎませんので、「障害の疑いがある」ということだけで、法律的に退職勧奨が制限されるわけではありません。

 しかし、●●先生もご心配の通り、障害者雇用促進法の趣旨等から「障害があること」自体を理由として退職勧奨を行う場合には、不当な差別として問題となりえます。
 
 今回の実態としては、「障害」というよりも、社員として求められる「能力や協調性等が欠けているという点」に着目して行われるものかと思いますので、不当な差別という問題にはならないと考えられます。
 
 ただし、退職勧奨の理由が、社員としての適格性にあるということを誤解のないように説明しておく必要があります。また、業務報告書等で、その社員についてどのような問題(トラブル等)があったかを残しておきましょう。
 そうすれば、退職勧奨の理由が「障害があること自体」ではなく、社員としての適格性の欠如であるという客観的な資料になります。 

2 勧告における手段方法の問題

 退職勧奨をすること自体は問題ありませんが、その説得のための手段・方法が相当と認められる範囲を超えて行われた場合には違法とされる場合があります。
「相当な範囲」かどうかは、退職勧奨の回数・期間、その際の発言内容、退職勧奨をする会社側の人数などにより判断がわかれます。
 
 社員が退職勧奨に応じないことを明確にしたにもかかわらず、従わないと解雇することを示唆しながら10回以上にもわたり退職勧奨をした事例で、違法とした裁判例があります。
 
 抽象的な基準ではありますが、退職のための説得をするという限度を超えて、退職を強要するような形で行うと違法となる可能性があります。
 特に、退職勧奨に従わないと解雇にするということを示したりすると、強制的な要素が強くなりますので、ご注意ください。

>(2)仮に、医師が当該社員に対してADHDという診断結果を下した場合、(1)の結論は異なりますか?

 (1)での回答と重複する部分もありますが、「障害があること自体」を理由として、退職勧奨をするとなると、不当な差別として問題となりえます。
 
 この点で、社員としての適格性を欠いているという部分が、今回の退職勧奨の理由であることを明確にしておく必要がありますが、(1)の場合と同様に考えていただいて良いです。

>(3)当該社員へ退職勧奨ができない場合、また当該社員が退職勧奨に応じない場合、昇進、昇給及び賞与支給を
>行わないことは法的に問題があるのでしょうか?
 
 昇進、昇給及び賞与支給(支給基準等)について、就業規則だけでなく、個別の雇用契約にも明確な定めはないという前提でよろしいでしょうか。その前提で回答させていただきます。

 社員の昇進、昇給、賞与の支給などの扱いに差を設けることも、合理的な理由があれば、許されます。
 ただし、個別具体的な事情の下で、全員への賞与支給が慣行化されているとして、違法となる場合もありえますが、「ここ数年」程度であれば問題がない可能性が高いです。

 その他、ここでもご注意いただきたいのは、「障害があること」を理由とすると、不当な差別として問題となる可能性があるという点です。
 
 また、退職勧奨に応じないことを理由とすると、昇給させない、賞与の支給をしないということが退職に追い込むための一手段と捉えられてしまう可能性もあります。
 
 そういう意味では、あくまで、社員としての能力の不足、職場内での協調性の不足など、社員としての評価に基づき、他の社員と違う扱いをするのだということを明確に相手に示しておくことが重要です。また、客観的な評価基準を設定しておくことも重要です。
 

>(4)当該社員のみ昇給と賞与支給を行わないことが可能である場合、当該社員に対して昇給と
>賞与支給を行わない理由を事前に書面で説明すべきでしょうか?

 
 他の社員と違う扱いをするのであれば、理由を明らかにしておかないと本人の納得も得られないでしょうから、事前に理由を説明する機会を持った方が良いです。
 書面を交付するか否かについては、当該社員が、現状どのような態度であるかによります。書面で伝えることで、感情的にしてしまうおそれもあるからです。
 一度、直接説明する機会をもった上で、当該社員の態度等から書面を渡すべきかを検討した方がよいかと思います。

以上が回答になります。
 
 ただし、社員の雇用の問題については、長期的に証拠資料を準備したり、より個別具体的な事情によっては対応方法も変わってくる場合があります。
 もし、顧問先様のご希望があれば、下記の無料法律相談をご利用いただき、お話を伺うことも可能ですので、お申込いただければと思います。
 事前に就業規則等をお送りいただければ、その場で顧問先様の方向性等も決定するところまでいけるかと思います。
 
 よろしくお願い申し上げます。