会社法 倒産法

名義貸しの責任について

友人から頼まれ、名前だけ貸しておいてほしいということで、ある会社の取締役になった方がいます。

その方は、他の会社を経営しており、この会社の経営には一切タッチしていません。

この会社の経営状態が悪く、倒産するかもしれないのですが、この場合、名前を貸しているだけの方も賠償の責任を負うリスクがありますか。

名前だけ貸しているという実態なので、この点で賠償の責任も免除されるのでしょうか。

1 ご質問
倒産するかもしれない
会社の取締役として
名前を貸しているだけの方も賠償の責任を負うリスクがありますか。

2 回答

(1)結論
 
 取締役である以上、取締役としての損害賠償責任(会社法423条1項、429条1項)を負う可能性があります。名前を貸しているのみだとしても、その責任は免除されるものではありません。

 下記の通り、実際に賠償責任が生じるケースは少ないですが、倒産が近いとなるとトラブルに巻き込まれるおそれがありますので、可能な限り早めに取締役を退任することをおすすめします。

(2)理由
 
 取締役は、会社法上、他の取締役の業務執行を監督する義務を負っており、名前を貸しているだけだとしても、この監督義務が免除されるわけではありません。

 ですので、自身が会社の業務を行っていないとしても、他の取締役(代表取締役など)が行った業務執行行為に重大な問題があった場合には、監督義務違反として、賠償の責任を負う可能性があります。

 例えば、会社の倒産が避けられず支払う見込みが全くない状況において取引や借入れを行った場合、取引を行った取締役が「職務を行うについて悪意又は重大な過失があった」(会社法429条1項)として、取引先や借入先に対して賠償責任を負うことがあります。
 この場合、取引を行っていない他の取締役についても、業務執行に対して適切に監督を行わなかったことが、「職務を行うについて悪意又は重大な過失があった」ものとして、取引を行った取締役と同様に賠償責任を負う可能性があります。
 
 名前を貸していただけだとしても、取締役である以上、基本的にはその責任は免れません。
 
 ただし、賠償責任を負うのは、業務執行の際に上記のような重大な問題があった場合に限られており、会社が倒産したというだけで責任が生じるものではありません。また、最近では、ワンマン代表取締役で、名前を貸している取締役が監督したとしても、問題となった代表の行為を止めることはできなかったであろうことを理由に責任を否定する裁判例もあります。

そういう意味では、賠償責任を負うケースは少ないです。
 
 しかし、リスクはゼロではありませんし、倒産が近いとなると何よりトラブルに巻き込まれるおそれがありますので、可能な限り早めに取締役を退任することをおすすめします。