税理士法 税理士賠償責任

マイナンバーに対する契約書

以下について教えてください。

顧問先と税理士との間でマイナンバー利用に関する契約書を作る

必要があるかです。

作るとしたら特定個人情報委託契約書のようなものにになるのでしょうか。

そのほか、メリット、デメリット、気をつけることあれば教えてください。

1 質問
>顧問先と税理士との間でマイナンバー利用に関する契約書を作る
>必要があるかです。
>作るとしたら特定個人情報委託契約書のようなものになるのでしょうか。
>そのほか、メリット、デメリット、気をつけることあれば教えてください。

2 回答
(1) 契約書を作成すべきか(作成することのメリット)
 
 ◯ 結論としては、作成すべきと考えます。

 契約書のタイトルは何でもよいですが、例えば「特定個人情報の委託に関する合意書」などでよいでしょう。
 
 なお、従来の顧問契約書を改定して、マイナンバーの取扱いに関する条項を入れることも考えられます。ただ、契約書を作成し直すのは手間である場合には、新たに合意書を作成する形が良いと思います。

理由としては、以下が挙げられます。

理由①
 これは、契約書一般についてですが、将来の認識に行き違いによる紛争を防止するために約束した事項は、できる限り書面に残しておいた方が、トラブルを防ぐ効果があります。

理由②
 顧問先が税理士さんに業務に伴ってマイナンバーを交付する場合、マイナンバー法11条の「委託」にあたり、税理士さんがマイナンバーの漏えい等がないよう適切な管理を行っているかについて、顧問先が、「必要かつ適切な監督」をすべき義務を負います。
 この「必要かつ適切な監督」の具体的な内容として、ガイドライン(特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)第4-2-?)では、「委託先に安全管理措置を遵守させるために必要な契約の締結」をすべきことが明記されています。
 マイナンバーの取扱いに関する合意書を作成しないまま、マイナンバーの交付を受けた場合には、顧問先が「必要かつ適切な監督」を怠ったとして、監督義務違反となる可能性があります。

 この場合、違反の責任を問われるのはあくまで顧問先ですが、税理士さんからこの点を指摘して、事前に合意書を作成しておくことで、顧問先からの信頼を得られるものと考えます。

理由③
 マイナンバーに関する事務を、税理士さんがさらに第三者に委託する場合(再委託)、委託者である顧問先の許可を得ることが必要とされています(マイナンバー法10条1項)。
 再委託の例としては、マイナンバーを含むデータを外部サーバーで管理する場合などが挙げられます。

 再委託のたびに許可を得ることも考えられますが、以下の条件を満たす場合には、合意書の中に、再委託の許可の条項を入れておくことができるとされています(特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)に関するQ&A3-9)。
・再委託する可能性がある相手が具体的に特定されていること(再委託する相手を明示しておく必要があります。)
・適切な資料に基づいて再委託先がマイナンバーを安全に管理できる能力があることが確認されていること
・実際に再委託が行われたときは、必要に応じて顧問先に報告し、再委託の状況について税理士さんが顧問先に定期的に報告するとの合意がなされていること

 合意書を作成する時点で、再委託先が具体的に決まっていれば、再委託の許可の条項を合わせて盛り込むことができ、別途許諾を得る手続きが省略できますので、手続きが簡便になります。
この点でもメリットがあると考えます。

 

(2)合意書を作成することのデメリット
 逆に、デメリットとして、合意書の内容が税理士さんに過度な義務を課すものになってしまうことが考えられます。
 
 例えば、ガイドライン(特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)第4-2-?)では、マイナンバー管理の状況を把握することができるよう、「委託者が委託先に対して実地の調査を行うことができる規定」(事務所に立ち入って調査ができるなど)を盛り込むことが望ましいとされています。

 しかし、これを無制限に認めると、税理士さんの業務に支障が出ますので、入れるとしても、税理士さんの承諾を条件とするなど、限定的にしていただいた方がよいです。

 これは一例ですが、内容によっては、今後の業務に支障をきたす可能性もあり得ますので、十分に配慮してください。

(3)その他気をつけるべきこと
 
 ご質問の趣旨とは少しずれますが、税理士さんがマイナンバーに関する事務を外部の業者に再委託される場合には、税理士さん自身に委託者としての監督責任が生じます(マイナンバー法11条)。その場合、監督義務の一内容として、マイナンバーの取扱いに関する合意書を作成していただく必要があり、これを怠ると監督義務違反となる可能性がありますので、ご注意ください。

 また、顧問先様の従業員等からの個人番号を収集については、「顧問先の責任で適法に行うこととする」という趣旨の条項を入れておくと良いでしょう。後々のトラブル予防になりますので。

よろしくお願い申し上げます。