会社法

取締役経営責任賠償の第三者引受規定の有効性

早速ですが、会社定款に
取締役の経営上の賠償責任を
特定の第三者(代表取締役や筆頭株主など)が引受ける
つまり、他の取締役等に賠償責任を負わさないという規定は
有効になりますでしょうか?
御見解をお聞かせください。
よろしくお願いいたします。
1 ご質問
>会社定款に取締役の経営上の賠償責任を
>特定の第三者(代表取締役や筆頭株主など)が引受ける
>つまり、他の取締役等に賠償責任を負わさないという規定は
>有効になりますでしょうか?

2 回答
(1)結論
 取締役の経営上の責任として、①会社に対する賠償責任(会社法423条)と、②会社以外の者(会社の債権者等)に対する賠償責任(429条)がありますが、いずれについても、ご質問の規定を定款で定めたとしても効力はありません。
 ①と②で会社法上の扱いが異なっていますので、以下分けてご説明します。

 ① 会社に対する賠償責任
 取締役は、423条1項に基づき、会社に対して経営上の賠償責任を負うことがありますが、以下の条件を満たす場合には、賠償金額を一定程度(年間の報酬の2倍の金額まで)減額することが認められています(会社法427条1項)。

・会社と取締役との間であらかじめ賠償額に関する責任限定契約を締結していること
・責任限定契約を締結することができる旨を定款で定めていること
・取締役の職務執行について重大な不注意がなかったこと

 このように、定款で定めることで、取締役の賠償責任を一定程度軽減することはできますが、ご質問にあるように、全く負わせないということはできません。

 ②会社以外の者(会社の債権者等)に対する賠償責任

 取締役は、429条に基づき、会社の債権者などの会社以外の者に対し、経営上の賠償責任を負うことがあります。
こちらについては、上記のような規定はありませんので、あらかじめ責任限定をする旨を定款で定めることによって、賠償額を軽減することはできません。

(3)採りうる対策
 ご質問の趣旨が、取締役に金銭的な負担をさせたくないということであれば、取締役と責任を引き受ける「代表取締役や筆頭株主など」との間で、取締役が支払った賠償金額を、責任を引き受ける「代表取締役や筆頭株主など」が補てんするという内容の契約を結んでおくという方法もあるでしょう。
 
 上記のように、取締役が一次的に賠償責任を負うことは避けられませんが、その後に、責任を引き受ける「代表取締役や筆頭株主など」から金銭的な補てんを受けることができれば、一定程度、取締役に金銭的な負担をさせないという目的に近づくことができます。

【参照条文】
(責任限定契約)
会社法427条  第424条の規定にかかわらず、株式会社は、取締役(業務執行取締役等であるものを除く。)・・・の423条1項の責任について、・・・職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を非業務執行取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができる。