いつもお世話になっております。
事業承継税制と相続放棄に関してご教授下さい。
(前提)
・先代経営者 87歳 総株式40,000株のうち39,280株所有
・配偶者 85歳 〃 400株所有
・後継者(長男)59歳 〃 320株所有
・その他の子(長女、次女、三女) 会社経営には関与なし
・直近の株式評価額 27,800円/株
・先代経営者に対して、会社が約3億4000万円を貸付している
(質問)
先代経営者が先に亡くなって、1次相続では非上場株式の特例納税猶予制度を利用
し、
自社株以外は(債務も含めて)配偶者が相続して、2次相続があった場合は相続放棄
を行うことに対して法律上の問題点はありますでしょうか?債務を法定相続分ではな
く
配偶者にまとめてしまうことに問題はあるでしょうか?
ちなみに、配偶者が所有する400株は2次相続前に会社が買い取る予定です。
よろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>先代経営者が先に亡くなって、1次相続では非上場株式の特例納税猶予制度を
>利用し、
>自社株以外は(債務も含めて)配偶者が相続して、2次相続があった場合は相続放棄
>を行うことに対して法律上の問題点はありますでしょうか?債務を法定相続分ではな
>く配偶者にまとめてしまうことに問題はあるでしょうか?
妻が取得する財産の価額が、
債務の額を超える場合には以下の法的な問題
が生じますので、その点をご確認ください。
2 回答
(1)債権者(会社)との関係
まず、遺言や遺産分割で、債務の承継先を
決めることができる場合((2)参照)
であったとしても、これは相続人間の内部の負担割合を
定めるものとなります。
つまり、一般論としては、債権者が法定相続分で
各相続人に請求できますが、仮に本件でいうところの
配偶者以外の相続人が支払った場合には、
その金額について配偶者に対して求償できるだけという
ものになります。
一方で、遺言や遺産分割で相続人内部の負担割合が
決定した場合に、債権者がそれを承諾すれば、
債権者との関係でも、債務者は妻のみにすることができます。
本件の債権者が長男が経営する会社という
ことですので、貸付金については、会社が
承諾をすれば、この点は問題ないでしょう。
(2)遺言や遺産分割で債務の負担割合を決めれる場合
ア 遺言の場合
遺言の場合、本来的には債務は対象になりません。
ただし、以下の場合には、債務の負担を特定の相続人に
承継できるものと解されます。
①相続分の指定が伴う遺言場合
②負担付き特定財産承継遺言を行う場合
①の方法は、積極財産と消極財産(債務)が
同比率である必要がありますので、
自社株を長男に相続させつつ、すべての債務を
配偶者に負担させるということはできません。
本件で可能性があるのは②の方法かと思います。
ただし、負担はあくまでも負担に過ぎませんので、
妻が相続により取得する財産の価額の限度でのみ、
行うことができます(民法1002条1項)。
本件では、
>1次相続では非上場株式の特例納税猶予制度を利用
>し、自社株以外は(債務も含めて)配偶者が相続して、
ということですが、自社株以外の財産の限度でのみ、
債務を妻に負担させることができます。
つまり、遺言により、妻にのみマイナスを負わせるという
ことはできないこととなります。
イ 遺産分割による場合
遺産分割も本来的には、債務は対象と
なりませんが、相続人全員の合意により、
財産の取得に対する代償金の支払いの代わりに
債務の負担させるということは法的に認められるところです。
自社株を長男、
それ以外の財産及び債務を配偶者とする合意を
する場合の注意点として、
仮に、
配偶者が相続により自ら取得する財産の価額を
超えて、債務も負担するという合意をした場合、
債務の負担額のうち、
取得財産の価額を超えた部分については、
相続の枠をでてしまう(代償金を取得財産を超えて支払うのと同一の状態)
ことから、その超えた部分については、
他の相続人の(法定相続分による)債務を債務引受されたものと評価され、
妻から他の相続人に対する贈与税の対象となるという問題が生じます。
(東京地判平成11年2月25日参照)。
したがって、遺産分割協議書という形式に
による場合にも、この点については注意が必要です。
よろしくお願い申し上げます。