いつもお世話になります。
同族会社Aから借入れを1,000万円をしていたBが死亡しました。
Bは同族会社Aの社長の兄弟です。
借入の目的は生活費、借入時期は9年前、借入に関する契約書は交わしていません。
また、返済は全くありませんでした。
Bの相続人は配偶者Cと子Dで、Bの借入れについては相続があって初めて知り、とても返済はできないとして2人とも時効を援用しました。配偶者は75歳くらいでは年金生活者です。
同族会社Aはこれを受けて貸付金を貸倒損失に計上しました。
(質問)
・相続は時効の中断事由でないので、債務を相続した時点で既に債務の発生から9年が経過しているので、時効を援用したことによって債務は消滅したのでしょうか。
・時効の起算点は最後の弁済期と理解していますが、契約書がありませんので、借入を受けた時を起算点と考えてよいでしょうか。
・時効を援用した者については、消滅した債務相当額は、所得税法44条の2(免責許可の決定等により債務免除を受けた場合の経済的利益の総収入金額不算入)に
該当すれば課税されず、そうでなければ一時所得の収入金額となると理解しますが、あってますでしょうか。
以上、ご教示くださいますようお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜債務の消滅の有無
>・相続は時効の中断事由でないので、債務を相続した時点で既に債務の
>発生から9年が経過しているので、時効を援用したことによって債務は
>消滅したのでしょうか。
(1)時効期間について
本件の貸付けは、
現行の民法の施行(2020年4月1日)よりも前に
行われているため、時効期間について旧民法の適用がされます。
少々条文構造がややこしいのですが、
会社ががその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、
商行為となる(会社法5条)ため、会社は商人に該当し、
商人の行為は、営業のためにするものと推定される(商法503条2項)
ため、原則として、商事債権(旧民法522条)として5年が
消滅時効期間となります。
ただし、
>同族会社Aから借入れを1,000万円をしていたBが死亡しました。
>Bは同族会社Aの社長の兄弟です。
>借入の目的は生活費、借入時期は9年前、借入に関する契約書は交わしていま
>せん。
とのことで、例外的に会社側が「営業のための行為」、
つまり、当該会社の事業と無関係であることを立証した場合には
、商法503条2項の推定を覆せるため、一般民事債権として
10年が消滅時効期間となると解されています
(最判平成20年2月22日)。
上記の事情からすると、会社としては、
当該会社の事業と無関係であることを立証した場合には、
1000万円の債権は時効により消滅していないとして、
請求ができるということとなります。
ただ、契約書などがないケースですと、
これを立証することのハードルは、なかなか
高いものと考えた方が良いかと存じます。
(なお、同様に国税が立証することも、
さらにハードルが高いでしょう。納税者の
供述が取れなければ、それ以外で証拠を得ることが難しいためです。)
(2)消滅か否か
ご指摘のとおり、相続は中断事由にはなりませんので、
(1)で時効期間10年
との立証がない限り、時効の援用により、債務が消滅したこととなります。
2 ご質問②〜弁済期の定めのない時効期間の起算点
>・時効の起算点は最後の弁済期と理解していますが、契約書がありませんので、
>借入を受けた時を起算点と考えてよいでしょうか。
そうですね。各種学説はあるところですが、
契約書がなく弁済期の合意が立証できないという
ケースの場合、
消費貸借契約の成立時(=貸付時)を起算点とするのが
判例(大判大正2年2月19日等)の考え方で、
現在の実務もそのように考えられています。
つまり、借入時を起算点と考えていただいて構いません。
3 ご質問③〜所得税について
>・時効を援用した者については、消滅した債務相当額は、
>所得税法44条の2(免責許可の決定等により債務免除を受けた場合の経済的利>益の総収入金額不算入)に該当すれば課税されず、
>そうでなければ一時所得の収入金額となると理解しますが、あってますでしょう>か。
消滅時効の債務消滅益が、
一時所得の収入金額となるというのはその通りかと存じます。
所得税法44条の2との関係ですが、
「債務の免除を受けたとき」とされており、
消滅時効による債務消滅益が含まれるのか
という点については疑義があるところです。
あくまでも、文言上は、
「免除」は債権者から債務者への債務免除を
指しており、債務者から債権者への時効の援用が
あった場合まで含まれるかというと難しいかと思います。
私見では、趣旨から拡張解釈をするという
ことも考えられますが、租税法は「建前上」、
基本的に趣旨解釈による拡大解釈をしないという
ことがありますので、国税が納税者への有利解釈を
認めない場合に、裁判などで勝訴するのは難しいものと考えます。
よろしくお願い申し上げます。