いつも大変お世話になっております。
税理士の●●です。
任意後見契約の代理権目録(任意後見契約)に下記記載(一部抜粋)が
ある場合、後見人が下記矢印記載の行為ができるかどうかお教えください。
・甲(被後見人、以下同様)の有する一切の財産の管理、保全及び処分
→ 後見人が不動産の売買は問題ないと思いますが、後見人または後見人の子供に対する贈与は難しいでしょうか。
・甲が取引をするすべての金融機関との取引
→ 後見人が証券会社での売買を行うことは難しいでしょうか。
・保険契約の締結、変更、解除、保険料の支払、保険金の受領等保険契約に関する一切の事項
→ 後見人が被後見人が契約者となる保険の契約を新規にできるという理解でよろしいでしょうか。
お手数をお掛けしますが、アドバイスの程、お願いします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>任意後見契約の代理権目録(任意後見契約)に下記記載(一部抜粋)が
>ある場合、後見人が下記矢印記載の行為ができるかどうかお教えください。
>・甲(被後見人、以下同様)の有する一切の財産の管理、保全及び処分
>→ 後見人が不動産の売買は問題ないと思いますが、後見人または後見人の
>子供に対する贈与は難しいでしょうか。
>・甲が取引をするすべての金融機関との取引
>→ 後見人が証券会社での売買を行うことは難しいでしょうか。
>・保険契約の締結、変更、解除、保険料の支払、保険金の受領等保険契約に
>関する一切の事項→ 後見人が被後見人が契約者となる保険の契約を新規に
>できるという理解でよろしいでしょうか。
>お手数をお掛けしますが、アドバイスの程、お願いします。
2 回答
まず、上記の利益相反取引(後見人が利益を得る可能性がある取引:
例 被後見人から後見人への贈与等)に該当しないものであれば、
取引自体は有効に行うことができます
(後見人名で行う必要がありますので、取引の相手が応じるかは別の問題です。
後見人名を隠して、甲の名義での契約はできません。あくまでも、
甲の後見人として、後見人が契約を締結するというものでなくはなりません。)。
取引の有効性とは別の問題として、
後見人は、被後見人(甲)に損害を加えないよう善管注意義務
が課されます。
任意後見制度は、「本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」とされていますので、
任意契約内容に「相続税対策等のための子への生前贈与」等明確に
子に対する贈与を遂行するような規定や株式の運用などの記載が
ない(本人の意思を推認できない)というケースでは、
善管注意義務違反とされる可能性も高いと思われます。
任意後見人が就任する場合、後見監督人も裁判所から
選任されていると思いますが、一般的には、
弁護士や司法書士が多いですので、
状況によっては、損害賠償請求や解任請求などが
なされる可能性もありますので、完全にフリーハンドで
というわけにはいかないことも多いです。
実務的には、疑義がある上記の取引の場合、
監督人の意見を求め、承諾をもらっておくという
ケースも多いかと思います。
よろしくお願い申し上げます。
お世話になっております。
アドバイスありがとうございます。
下記保険契約は一般的に利益相反取引に当たるものでしょうか。
保険契約を新規に契約することは可能でしょうか。
相続発生時に保険金が払われますが、契約時点では保険金支払い事由は
発生していないため利益相反取引に該当しないという理解でよろしいでしょうか。
また、仮に任意契約内容に下記記載をした場合、贈与は有効に成立するのでしょうか。
民法549条の意思表示が本人でなくても問題ありませんでしょうか。
上記贈与が有効とされた判例または内容を説明した書籍等ありましたらお教え願います。
お手数をお掛けしますが、よろしくお願いします。
再度のご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
ご質問の趣旨としては記載→行為でしたね。
1つずつ回答します。質問のご趣旨を
理解できていなかった点、失礼いたしました。
以下、長文になりますがご容赦ください。
1 ご質問①〜後見人等への生前贈与等
>・甲(被後見人、以下同様)の有する一切の財産の管理、保全及び処分
>→ 後見人が不動産の売買は問題ないと思いますが、後見人または後見人の
>子供に対する贈与は難しいでしょうか。
(1)後見人への贈与について
まず、後見人自身への贈与については、
被後見人と後見人の「利益が相反する行為」の典型例
ですので、後見人ではなく、任意後見「監督人」が行うこととなります
(任意後見契約に関する法律7条1項4号)。
>仮に任意契約内容に下記記載をした場合、贈与は有効に成立するのでしょうか。
>民法549条の意思表示が本人でなくても問題ありませんでしょうか。
>上記贈与が有効とされた判例または内容を説明した書籍等ありましたらお教え願います。
こちらの「下記記載した場合」がどの部分を指しているかがわかりません
でしたが、仮に任意契約に「後見人への不動産の贈与」と書かれていたとしても、
契約自体は、任意後見監督人が行うこととなりますので、後見人自身が
行えるわけではありません。根拠は上記の条文となります。
(2)後見人の子供への贈与について
ア 利益が相反する行為に該当するか
「利益が相反する行為」に該当するか否かは、
外形的・客観的になされるものとされています。
なお、こちらについては、書籍というよりは、一般の法定代理等の
法理論(基本書などから民法全体を理解し、その適用となります。)
から任意後見契約法が成り立ってますので、任意後見に限った話ではなく
直接的任意後見におけるものがあるというわけではありません。
(法律家向けの書籍の場合、民法を理解している前提で個別法が
書かれています。例えば、任意後見契約に関する法律に関する
コンメンタールでも、法定後見制度に準する趣旨であるという
程度の記載になります。)
例えば、子供が未成年者で、後見人が親権者の場合に、
後見人が被後見人と未成年者両者を代理する場合には、
双方代理となり、利益相反行為となりますので、
後見人はこれを行うことはできません。
一方で、外形的・類型的に判断するため、
後見人の子が成年である場合には、外形的には
後見人の子と後見人は別人格であるため、
利益相反行為には該当しません。
ですので、この場合、原則的には後見人が有効に行うことができます。
(なお、契約が有効かと損害賠償の問題は法律上別の問題ですので、
ご注意ください。損害賠償の点は1度目の回答をご参照ください。)
イ 例外的に無効となる場合
仮に、上記で利益相反に該当しないケースでも、
こちらも「代理」の一般的な法理論(いわゆる「代理権濫用法理」)
となりますが、
代理人(後見人)が、権限内の行為を行っていたとしても、
その権限の濫用(横領的な行為)と評価される場合で、
取引の相手方(親権者の子)がその濫用の事実
について、知っていたまたは知ることができた場合と
評価される場合には、例外的に無効となります。
(民法93条但書類推適用、最判昭和38年9月5日判決等)
この濫用の事実は、任意契約の記載(後見人の孫への不動産贈与等の記載があるか)
や事実経緯や被後見人の財産状況等に依存しますし、後見人の子が知っていたまたは
知ることができたかについても、個別事例を前提に判断
していく他ありません。
(3)不動産の売買
>後見人が不動産の売買は問題ない
こちらについては、仮に被後見人と後見人の売買の
場合には、利益相反行為に該当しますので、こちらでも
後見監督人が行うこととなります。
2 ご質問②〜証券会社での売買について
>・甲が取引をするすべての金融機関との取引
>→ 後見人が証券会社での売買を行うことは難しいでしょうか。
こちらについては、利益相反に該当しませんので、
原則的に有効となります。
厳密には、
>・甲が取引をするすべての金融機関との取引
という記載があるからというよりは、
一般的に任意後見契約に記載があると思われる
>甲(被後見人、以下同様)の有する一切の財産の管理、保全及び処分
という記載によるものになります。
ただし、その運用の仕方自体が後見人として不適格とされ
解任請求されるリスクが、損失がでた場合に損害賠償が別途
問題となる(取引の有効性とは異なる問題)のは、1回目の回答のとおりです。
3 ご質問③〜受取人を後見人とする保険契約について
>・保険契約の締結、変更、解除、保険料の支払、保険金の受領等保険契約に
>関する一切の事項→ 後見人が被後見人が契約者となる保険の契約を新規に
>できるという理解でよろしいでしょうか。
1回目のご質問の上記の部分については、
2回目のご質問の
>下記保険契約は一般的に利益相反取引に当たるものでしょうか。
>保険契約を新規に契約することは可能でしょうか。
>相続発生時に保険金が払われますが、契約時点では保険金支払い事由は
>発生していないため利益相反取引に該当しないという理解でよろしいでしょうか。
ということで、契約者が被後見人、受取人が後見人という
前提でよろしいでしょうか。
この点については、未成年後見人の事案になりますが、
未成年被後見人を契約者、受取人を未成年後見人とする
保険契約の有効性が争われた裁判例があります(東京地裁平成30年3月20日)。
この裁判例は、利益相反行為と上記の権限濫用の法理の2点から
保険契約が有効かが争われています。
(1)利益相反行為の該当性
裁判例は以下の理由で、未成年後見人の利益相反行為を
否定しています(ネット上では公開されていないため、以下該当箇所を引用します)。
なお、被告は保険会社です。
========================
保険金受取人は、その指定がされた時点で、契約者の保険料の負担において利益を受ける
法的地位に立つといえる。
もっとも、死亡保険金請求権は、被保険者の死亡時に初めて発生するものであり、
保険契約者は、保険事故が発生するまでは、保険者に対する意思表示によって、
保険金受取人の変更をすることができる(保険法43条1項、2項)。
したがって、未成年後見人を死亡保険金受取人に指定する生命保険契約が締結されても、
保険事故が発生するまでは死亡保険金受取人が変更される余地があり、
未成年後見人が上記生命保険契約の締結によって直ちに利益を受けることにはならない。
また、上記のとおり定める保険法43条の趣旨は、保険契約者と保険金受取人との間には何らかの属人的関係があるのが通常であるところ、生命保険契約は長期間にわたる継続的なものであることが一般的であるため、上記属人的関係が生命保険契約の継続中に変動するような場合に、当該生命保険契約を維持しつつ、保険金受取人の変更を望む当事者の意思を尊重することにあると解されるが、生命保険契約締結時に未成年である未成年被後見人については、生命保険契約締結から死亡までの間に、未成年後見人の任務が終了するとともに、婚姻や子の出生などによりその親族関係に変化が生じる可能性が特に高いといえる。
そうすると、未成年後見人が、未成年被後見人を契約者として自らを死亡保険金受取人とする生命保険契約を締結し、契約者である未成年被後見人の財産から保険料を負担すること自体が、直ちに利益相反行為に当たり無効であると解するのは相当でない。
そして、未成年後見人による行為が利益相反行為に該当するかどうかは、当該行為自体を外形的・客観的に考察して判定すべきであるが(最高裁判所昭和42年4月18日第三小法廷判決・民集21巻3号671頁参照)、生命保険契約における死亡保険金請求権は、保険契約者の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではなく(最高裁判所平成14年11月5日第一小法廷判決・民集56巻8号2069頁参照)、生命保険契約が、被保険者の死亡という保険事故の発生時に保険給付を受けるというリスクの移転のための取引という性格のみならず、保険契約者が満期保険金や解約返戻金の支払を受けることにより貯蓄の払戻しを受けるという貯蓄的性格をも有する契約であり、その内容も様々なものがあり得ることからすると、未成年後見人が死亡保険金受取人と定められることによって得る利益と保険契約者である未成年被後見人の保険料の負担との関係を一律に決することは困難であり、この点からも、未成年後見人が未成年被後見人を契約者として自らを死亡保険金受取人とする生命保険契約を締結することが一律に利益相反行為に当たると解することは相当でない。
========================
この裁判例の射程をどう読むのかという問題となりますが、
保険金受取人は、その指定がされた時点で、
契約者の保険料の負担において利益を受ける
法的地位に立つといえるとしつつも、
上記の「また」の段落の理由づけは、未成年後見はいずれ終了するものである
ことがかなり強く強調されています。この理由に関しては、
任意後見の場合に同様には解することができないでしょう。
一方で、「そして」の段落については、
未成年後見ではなく、任意後見であったとしても、生命保険契約
一般に当てはまるものとなりますので、この点を強調すれば、
任意後見の場合でも、保険契約の締結が利益相反にならないという
理由となるでしょう。
この判例の評釈などを複数拝見しましたが、
この裁判例を未成年後見人以外の場合にまで拡張して
良いのかという点については、批判的な意見が多いですね。
個人的にもあまりにも、「また」以下で
未成年後見の属性をあまりに強調しているため、この裁判例が
あるから、利益相反には当たらないため、確実に問題ない
というアドバイスまではできません。
なお、評釈には、保険会社としてもこのような後見人との
契約をすべきではないという意見が多数ではありましたので、
そもそも想定されいている契約可能かを保険会社に確認する必要があるでしょう。
(2)権限の濫用について
同一の裁判例では、上記の権限濫用法理による
無効については、以下の理由で否定しています。
==================================
未成年後見人は、未成年被後見人の財産管理に関し善管注意義務を負うものの(民法869条、644条)、未成年被後見人の財産に関し包括的な代理権を有するのであって、
財産に関する法律行為について一定程度の裁量を有していると認めるのが相当である。
そして、保険契約アないしウは、いずれも、契約者が一定期間契約を
継続することで解約返戻金又は満期保険金の支払により利益を得ることができる
という貯蓄性のあるものであり、また、保険契約ウは、災害時や入院時に給付金を
得られる内容のものであって、いずれも、原告の利益となるものと認められる。
被告補助参加人が、原告が成人した後も保険契約アないしウの保険証券及び届出印の管理を続け、後に判断するとおり、保険契約アないしウを後に無断で解約又は契約者変更した事実から、原告の主張するように、被告補助参加人が保険契約アないしウの締結時点で原告の成人後も各保険契約を管理して自ら各保険契約による利益を得るという目的を有していた疑い
が生じ得るものの、解約及び契約者変更がされたのが
各保険契約締結から4年ないし7年後であり、解約や契約者変更に及んだのは各保険契約締結後に生じた被告補助参加人の経済的事情によるものとも考えられるのであって、
上記各事実から、被告補助参加人が、保険契約アないしウの締結時点で、
後に各保険契約の解約等によって自ら利益を得る目的を有していたものと認めることは
できない。そうすると、保険契約アないしウの締結が、
未成年後見人が有する裁量を逸脱したものであるということはできず、
また、被告がそのことを認識することができたともいえない。
よって、保険契約アないしウが未成年後見人の代理権濫用により無効であるとは認められない。
==================================
こちらは、結局のところ、上記のとおり、自ら利益を得る目的による
権限濫用があるかが保険契約内容や状況から判断されていますので、
参考になさってください。
(3)まとめ
長くなりましたが、受取人が後見人の保険契約の場合、
無効とされるリスク等を勘案した上で、意思決定を
していく他ないところです。
4 全体まとめ
繰り返しになりますが、損害賠償や解任等の
問題は、契約の有効性とはまた別の問題になりますので、
1回目の回答をご覧ください。
専門家としては、積極的にお勧めできることでは
ないという点は確かだと思います。
事前対策という場合には、
信託等も含めて、想定している行為ができるように
認知症対策などをする必要があるでしょう。
よろしくお願い申し上げます。
詳細なアドバイスありがとうございます。
損害賠償や解任等の問題は、契約の有効性と別の問題であること理解しました。
後見人の子(成人)または後見人の配偶者に贈与する場合、民法549条
「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、
相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」の「当事者の一方
(被後見人)が~意志を表示」したことになるのでしょうか。
また、意思を表示したことになるとした場合、贈与金額の定めがないことから、
仮に複数回同じ人に贈与を実行すると、「定期贈与」と認定されるリスクはある
のでしょうか。
信託を活用すれば任意後見よりも贈与の有効性及び損賠賠償リスクを下げることが
できるのでしょうか。
追加で申し訳ありませんが、アドバイスの程、お願いします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜代理の場合の意思表示者について
>後見人の子(成人)または後見人の配偶者に贈与する場合、民法549条
>「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、
>相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」の「当事者の一方
>(被後見人)が~意志を表示」したことになるのでしょうか。
贈与契約の条文からの説明とすると、
この場合、意思表示をするのは「後見人」です。
そして、代理権がある者の権限の範囲内の行為は、
原則として、本人に法律行為(贈与の意思表示)の効果が帰属する
ということになります。いわゆる契約の有効要件のうち効果帰属要件と言われるものです。
こちらは代理の効果ということになります(民法99条1項)ので、
贈与の条文から導かれるものではありません。
例外としては、前回回答をした代理権濫用にあたる
という場合などになります。
2 ご質問②〜複数回の贈与について
>また、意思を表示したことになるとした場合、贈与金額の定めがないことから、
>仮に複数回同じ人に贈与を実行すると、「定期贈与」と認定されるリスクはある
>のでしょうか。
すみません。
贈与契約というのは、ある「特定の財産」を無償で譲り渡す合意を
することです。
なので、特定の財産についての合意が必ず必要ですので、
>贈与金額の定めがないことから
という意味がわかっていません。
(金銭の贈与であれば、○○円を贈与するという合意に
なると思いますし、不動産の贈与ということであれば、
不動産を特定した上で、その不動産を贈与するという合意になります。)
贈与契約をするということであれば、その効果が帰属する以上、
税務上の話をすれば、通常の贈与と異なるものではありません。
3 ご質問③〜信託の活用について
>信託を活用すれば任意後見よりも贈与の有効性及び損賠賠償リスクを下げることが
>できるのでしょうか。
そうですね。
後見人も信託の受託者も善管注意義務を負いますが、
基本的に後見制度は、被後見人の保護を目的とするものですので、
被後見人が損をするという取引(贈与等)の場合、法的に問題が生じやすいです。
一方で、信託の場合、財産を所有権等を受託者に移転した上で、
信託契約の目的の範囲で、受託者は一定の裁量を持ちますので、
信託契約の目的を何とするのか等具体的な案件の個別事情に合わせて
適切に契約を組成した上で、その目的に適合するような
贈与をするのであれば、リスクはかなり小さくなります。
認知症対策等は個別事情に応じた様々な制度の使い分けになりますね。
よろしくお願い申し上げます。