●●です。
代償分割的遺言という言葉が存在するのかは、不明ですが、
教えてください。
遺言書作成時のにアドバイスを求められています。
不動産、預金などすべての財産を長男とする遺言書を作成しようと
しています。
次男は以前死亡で代襲相続人として次男の子が3人います。
万が一を想定し、遺留分近くのお金を渡すことには同意しているものと
します。
仮に現状の相続試算上で、遺留分を算出し、
長男は、特定の不動産、預金などすべての財産を相続する、
ただし、長男は上記相続に対する負担として、次男の子ABCに
それぞれいくらずつ支払うこととするという文書でいいか教えてください。
細かい話ですが、
上記相続に対する負担としてという文書と上記相続に対する代償としてでは
言葉の意味合いは同じでしょうか?
つまり、負担と代償は同意語でしょうか?
遺留分近くを保全する遺言書として何かほかにアドバイスが
ありましたら教えてください。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>不動産、預金などすべての財産を長男とする遺言書を作成しようと
>しています。
>次男は以前死亡で代襲相続人として次男の子が3人います。
>万が一を想定し、遺留分近くのお金を渡すことには同意しているものと
>します。
>仮に現状の相続試算上で、遺留分を算出し、
>長男は、特定の不動産、預金などすべての財産を相続する、
>ただし、長男は上記相続に対する負担として、次男の子ABCに
>それぞれいくらずつ支払うこととするという文書でいいか教えてください。
>上記相続に対する負担としてという文書と上記相続に対する代償としてでは
>言葉の意味合いは同じでしょうか?
>つまり、負担と代償は同意語でしょうか?
2 回答
こちらは、そもそもの相続法の全体の理解が
必要な難しい問題となり、相続法改正も相まって
発展的な問題も含みますので、少々長文になります。
おそらく、多くの弁護士でも、現状では、
理解していないような問題ですので、
弁護士以外が、しかもメールで
完全に理解することは難しいとも思いましたが、
できる限り、お伝えするように作成しましたので、
ご容赦ください。
(1)特定財産承継遺言により代償分割型が認められるのか。
まず、前提として、特定財産承継遺言以外の遺言による
遺産分割方法の指定(一般型)の場合には、
代償分割方法の指定も認められています。
(この場合、財産は遺言により、長男に直接承継されるわけでは
ありませんが、この内容により、長男とA B Cの相続人が、
同内容の遺産分割合意をする義務を負うこととなります。)
一方で、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)の場合に、
代償分割によることが可能かというのは、結論的に明確になって
いない部分があります。
特定財産承継遺言も、遺産分割方法の指定の一類型に過ぎない
ことから可能と考える立場もある一方で、相続人に特定の債務を
負わせることはできないという前提で、代償債務を負わせる
遺言はできないと考える立場もあります(その場合でも、
合理的意思解釈から負担付特定財産承継遺言と解釈することもあります)。
実務上は、公正証書を作成する際にも、「代償として」という特定財産
承継遺言を認める公証人もいる一方で、「負担として」と
文言を改めなければ認めないという公証人も存在しています。
ただ、負担付特定財産承継遺言と判断された
ところで、あまり影響はないことからこれまで
実益のある議論としてはされてませんでした。
(2)遺留分侵害額請求との関係
一方で、両者の違いがでる可能性があるのが、
遺留分侵害額の計算方法です。
相続法の改正までは、
遺留分の計算方法については、細かく民法で
定められていたわけではなく、判例法理による
ものでしたので、実務上も、上記の「代償として」の
遺言でも、代償として支払った金銭を
遺留分権利者(A、B,C)の遺留分からその金額を差し引くように
扱われるのが一般的だったとは思います。
実際、A、B,Cはその金額を長男から受け取る
わけですので、現状でも問題になっているケースは
ないようには思います(弁護士も現状でも、差し引いているケースが多いと思います)。
ただ、相続法の改正により、遺留分の計算方法
(遺留分からどのような金額を差引いて遺留分侵害額を
出すのか)が法定されました(民法1046条2項)。
遺留分から差し引かれる金額については、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
①遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額
②第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相
続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
とされています。
この中で遺言によって生じた「Aの代償債務」を
含められるような規定になっていません(判例の射程などでの
問題ではなくなった可能性が生じているということです)。
一方で、負担付特定財産承継遺言と評価された場合
財産の評価は、負担付贈与に準じて、特定財産の
価値から負担分を差し引くと解されています(民法1045条第1項準用)。
各人の遺留分侵害額の計算は
以下の算式になります(わかりやすいように相続債務等は入れていません)、
○(遺留分算定基礎財産×1/2(遺留分率)×法定相続分)ー(上記①+上記②)
負担とする(または解する)と、
「遺留分算定基礎財産」について、負担額が差し引かれるのみ
となり、その効果は上記①や上記②で差し引かれるよりも「1/2(遺留分率)×法定相続分」
されてしまうこととなります。
例えば、
相続財産:100(生前贈与等はないものとします)
支払額:20
法定相続分:1/3
とします。
①100(遺留分算定基礎財産)×1/2×1/3ー20=-3.334=遺留分侵害額0
のものが負担とすることにより、
②((100ー20)遺留分算定基礎財産)×1/2×1/3=13.334=遺留分侵害額
となってしまうということです。
一方で、以下の民法1003条は負担付遺贈についてのものですが、
これは、負担付相続させる旨の遺言でも準用されるという判例があります。
(この判例も非常に古いものであり、改正民法との関係でそのまま維持されるか
という問題もあります。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(負担付遺贈の受遺者の免責)
民法第1003条 負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
とされており、②は結果として、
13.333(遺留分侵害額)/80(目的物の価額)=0.1667
20(負担額)×0.1667=3.334の負担義務を免れることになります。
つまり、実額でいうと、
負担として判断されると、
①だと0とされたものが、
13.334-3.334=10
とされる可能性があるということです。
(3) その他
>遺留分近くを保全する遺言書として何かほかにアドバイスが
>ありましたら教えてください。
相続法の改正があり、このような問題も潜在的には
ありますので、
弊社がご依頼いただく場合の対策としては、個別事情によりまちまち
ですが、負担と評価されないように
例えば、将来財産が増えることがないであろう遺言者の方など
で、遺留分相当額程度の預金を分けても生活できる方であれば、
それ用の預金口座を作成(または既存のものを利用し)、
Aに当該預金債権を相続させる等としたりして対応しています。
(その場合、上記の疑義は生じません。)
個別の財産状況などによって個別の対策をするしかないと思われます。
遺言さえこう作っておけば良いという特効薬はあまりなく、
個別事情や依頼者さまの割り切りも含めて、総合的なコンサルティングが
必要になります。生命保険等の遺留分対策も含めてです。
なお、以上の問題は、現在議論されているものでも
なく、今後、問題になる可能性があるというところです。
今後、代償や負担付の特定財産承継遺言の場合には、
上記①及び②に準じて扱うとの判例がでる可能性も
否定できませんので、その点はご容赦ください。
よろしくお願い申し上げます。