●●と申します。
今回は、標記の件でお世話になります。
(質問概略)
・ 法人税並びに消費税確定申告書(以下、「申告書」)における、税務書類作成の
みの税理士の署名押印義務
・ 署名したことによる金融機関等からの損害賠償請求等を受ける可能性の有無
(前提)
・ 業歴は半世紀以上で経理部も存在している法人の、法人税申告書のうちいわゆる
別表のみの作成を新たに依頼されている。
・ 前関与税理士は高齢のため引退、その後は経理部内で法人税ソフトを使い申告し
ていたが、担当している社員が退職のため別表のみ依頼したいとのこと。
・ 現社長からは、先代から(バブル崩壊後と思われる)の諸々の粉飾があり、未だ
解決できず、その部分について私に迷惑をかけられないという認識あり。
・ ちなみに、現社長は2代目で、私と学校の同級生
・ 日々の経理処理は法人で会計ソフトを利用し、税引前当期利益まで作成
・ 勘定科目内訳書と固定資産管理(減価償却計算)、概況説明書も法人で作成
・ 消費税も、会計ソフトから自動的に出力されるため、自社で作成、申告
(お尋ねしたいこと概略)
・ 私は、法人税申告書には署名が必要、消費税申告書は署名できないと考える。
・ この状況では、税務代理権限証書は添付できないと考える。
・ 法人税申告書に、税理士の署名押印があることをもって、第三者から損害賠償請
求を受ける可能性はあるかどうか。
(詳細等補足)
・ 税理士法第33条(署名押印の義務)第②項において、『税理士又は税理士法人が
税務書類の作成をしたときは、当該税務書類の作成に係る税理士は、当該書類に署名
押印しなければならない』とあります。
・ 法人税申告書には、税理士が作成したと考えるので税理士署名が必要と考
えますが、自身で内容を確認せず(簡単な確認はしますが)別表を作成した場合でも
税務書類の作成をしたことになるのでしょうか。
・ 消費税申告書は、会社様からも内容の確認は不要とのことなので、税理士署名は
できないと考えます。
・ 加えて、法人税の別表のみ作成ですが、会社様ご提供の決算書等資料に基づき申
告書を作成する場合に、税理士法に触れるあるいは第三者からの損害賠償請求等のリ
スクが考えられますでしょうか。
つまり、
→ (署名する場合には)税理士として別表を作成する以上は、税理士自身で元帳
等を確認した上で作成することが必要
→ (署名しない場合には)会社が提出した資料を基に作成しても 税理士法上問
題ない
リスクを負わない方法は、全ての申告書に税理士の署名押印をしないことだとは思い
ますが、先生のご見解をお伺いいたしたく、よろしくお願い申し上げます。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①~別表の作成と署名押印義務について
>・ 税理士法第33条(署名押印の義務)第②項において、『税理士又は税理士法人が
>税務書類の作成をしたときは、当該税務書類の作成に係る税理士は、当該書類に署名
>押印しなければならない』とあります。
>・ 法人税申告書には、税理士が作成したと中村は考えるので税理士署名が必要と考
>えますが、自身で内容を確認せず(簡単な確認はしますが)別表を作成した場合でも
>税務書類の作成をしたことになるのでしょうか。
>・ 消費税申告書は、会社様からも内容の確認は不要とのことなので、税理士署名は
>できないと考えます。
そうですね。厳密に解釈するとおっしゃる通りかと思います。
税理士法33条2項は、税理士が国家資格保有者として、
独占業務を行う以上、その責任の所在を明らかにするという
趣旨もありますので、内容を確認していないことを理由に
署名押印義務はないということにはならないものと思います。
(この点、無資格者が作成し、自己の判断で「作成した」と
いえるのかという点とは認定上、異なると思います。)
そもそも、税理士さんでなければ、他人の別表(税務書類)を
作成することは違法となりますので。
2 ご質問②~依頼者様の提供資料による申告書作成
>・ 加えて、法人税の別表のみ作成ですが、会社様ご提供の決算書等資料に基づき申
>告書を作成する場合に、税理士法に触れるあるいは第三者からの損害賠償請求等のリ
>スクが考えられますでしょうか。
>つまり、
>→ (署名する場合には)税理士として別表を作成する以上は、税理士自身で元帳
>等を確認した上で作成することが必要
>→ (署名しない場合には)会社が提出した資料を基に作成しても 税理士法上問
>題ない
(1)税理士法関連
実際に問題になる可能性自体は高くないので、
現実論として行うことを否定するわけではありませんが、
別表を作成する以上は、署名・押印がなければ上記のとおり、
税理士法33条2項違反にはなります。
ですので、
>→ (署名しない場合には)会社が提出した資料を基に作成しても 税理士法上問
>題ない
というのは違うかと思います。
また、
>→ (署名する場合には)税理士として別表を作成する以上は、税理士自身で元帳
>等を確認した上で作成することが必要
これについては、お客様との合意内容次第で、元帳等の確認自体が絶対に
必要というわけではないかと思いますが、
仮に、虚偽の税務書類を作成したこととなれば、税理士法45条違反の懲戒事由に
なり得るものと思います。
この45条2項は、故意のみならず、過失の場合もその対象となる
とされていますので、
>・ 現社長からは、先代から(バブル崩壊後と思われる)の諸々の粉飾があり、未だ
>解決できず、その部分について中村に迷惑をかけられないという認識あり。
という事情を知りつつ、確認をしていないということから
すると、少なくとも過失の認定はされてしまうのではないかと思われます。
なお、法解釈としては上記のとおりですが、
現実論としては、
粉飾事案で税理士が懲戒になる可能性は、
脱税等に比して低いですし、過失のケースで懲戒
されるのも極めて稀です(実際は積極的関与が疑われるが、証拠上の
安全策で、認定落ちさせたというケースでしょう。)
(2)第三者からの損害賠償請求
この部分については、虚偽の申告書作成にどれだけ関与
していたか、税理士がその点をどの程度認識していたか等の
程度問題となりますが、
>・ 現社長からは、先代から(バブル崩壊後と思われる)の諸々の粉飾があり、未だ
>解決できず、その部分について中村に迷惑をかけられないという認識あり。
ということを認識している前提ですと不法行為に該当する可能性も
なくはありませんし、その前提で、署名押印をしていることから
すると、損害賠償を受けるリスクは残り続けます。
現実論だけ考えれば、金融機関は、税理士さんに
損害賠償をするかというとあまり可能性は高くありません。
(一応、金融機関もプロですので、税理士と金融機関のどっちが
悪いのかの水掛け論になることが多いため)
むしろ、借入の保証人等になった方から損害賠償を受けることが
多いかと思います。
(3)まとめ
>リスクを負わない方法は、全ての申告書に税理士の署名押印をしないことだとは思い
>ますが、先生のご見解をお伺いいたしたく、よろしくお願い申し上げます。
上記を前提とすると、税理士法の側面も考えると、
署名押印しないことがリスクを負わない方法というわけでは
ありません。
ただ、友人ということで、
証拠上、先生が別表を作成したこと自体が明らかに
なるリスクが低い(署名・押印がなければそこまで調べられる可能性が低い)
という意味であれば、おっしゃる通りかとは思います。
法的な側面からすると、
唯一のリスクを全く負わない方法というのは、
粉飾の疑いがある会社とは関係を持たないということになりますが、
現実論としては、関係性やその悪質性の程度等も考慮した上での
判断になるかとは思われます。
よろしくお願い申し上げます。