お世話になります。
●●です。
医師から認知症との診断が下された方に関して、その方の今後の相続(相続対策)を
考えた場合に、補助人や保佐人がついた場合のメリット・デメリットをご教示くださ
い。
後見人がついた場合には法律行為ができなくなるため、対策できる余地はないと理解
しておりますが、補助や補佐の場合には可能なことはあり得るのでしょうか。
例えば贈与や売買、民事信託、遺言作成など、可能な範囲がありましたらご教示くだ
さい。
また、現在、同族会社のオーナー社長(単独で9割の株式を保有)ですが、補助や補
佐の場合、議決権の行使に関してはどのようになるのでしょうか。長男と次男が親の
会社で勤務しています(長男は役員)。
大変申し訳ありませんが、回答を急いでおります。
どうぞ宜しくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜被補佐人・被補助人が可能な行為
>後見人がついた場合には法律行為ができなくなるため、対策できる余地は
>ないと理解しておりますが、補助や補佐の場合には可能なことは
>あり得るのでしょうか。
>例えば贈与や売買、民事信託、遺言作成など、可能な範囲がありましたら
>ご教示ください。
(1)被保佐人について
被保佐人については、民法上、下記の行為を行うにつき、
被保佐人の同意が必要となり、同意がない場合には、
取り消すことが可能になります。(民法13条1項)
==========
・借金の元本の返済を領収したり、不動産を賃貸して利用したりすること。
・お金を借りるなどの借財や、他人の債務の保証をすること。
・不動産や知的財産などの重要な財産を処分したり担保に入れたりすること。
・訴訟行為をすること。
・贈与、和解などをすること。
・相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
・贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
・新築、改築、増築又は大修繕をすること。
・民法602条で定められた期間を越えて賃貸借をすること。
・前各号に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること。
・その他裁判所が審判により保佐人の同意が必要と指定した行為
==========
一方で、これ以外の行為については、保佐人に同意権が
なく、被保佐人が行えることとなります。
贈与については、保佐人の同意が必要となります。
遺言については、民法962条により、明文で、上記民法13条の適用が排除されていますので、意思能力が認められる限りは、単独で遺言することが可能です。
売買や民事信託については、その処分する目的物や内容によりますので、
制限される場合もされない場合もあると思われます。
裁判所の保佐開始の審判の内容次第では、
法定事項以外に制限がかかる可能性もあります。
ただし、そもそも保佐開始の審判があるということは、
裁判所が「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である」
ということを認めた前提になりますので、その他の行為も
意思能力がなく無効と主張される可能性が高いという点も
ありますし、
例えば、贈与など一方的に誰かの利益となる行為となると、
被保佐人が同意すると、善管注意義務違反として損害賠償などの
問題にも発展し得ます。
また、親族の方が保佐人に就任することを望まれるのかと思いますが、
あくまで保佐人等を指定するのは裁判所で、
確実に親族の方が選任されるわけではありません。
また、仮に親族の方が選任された場合でも、
別途第三者が監督人に指定される場合もあり、
この場合、被保佐人の行為に同意することの同意を監督人に求める
必要があります(民法864条)。
なお、保佐人の業務は当然家庭裁判所の監督を受けます。
さらに、後継者などの親族が保佐人となった場合、
保佐人自身への贈与は、利益相反にあたるため同意を与える
ことはできません(臨時保佐人を選任する必要があります)。
(2)被補助人について
被補助人は、補助開始の決定の際に、裁判所が、上記被保佐人の制限事項のうち、
必要な範囲で、補助人の同意を得るべき行為を指定します。
したがって、具体的にどのような行為が可能かは場合によります。
ただ、その指定がなされた行為等については、(1)の被保佐人と同様です。
2 ご質問②〜議決権の行使について〜
>また、現在、同族会社のオーナー社長(単独で9割の株式を保有)ですが、補助や補
>佐の場合、議決権の行使に関してはどのようになるのでしょうか。長男と次男が親の
>会社で勤務しています(長男は役員)。
議決権の行使は、直接的には、
上記制限事項には該当しないので、
基本的には、認知症となられたオーナー社長が
行うこととなります。
ただし、結局のところ、
意思能力つまり判断能力が失われている状態での
議決権行使は無効となるリスクは残ります。
成年後見人の場合、法定の代理権に基づき議決権行使は可能ですが、
保佐人・補助人の場合には、裁判所から別途議決権行使に関する
代理権を付与されないと、代理で議決権行使をすることはできません。
3 全体について
法的には上記のとおりで、
確かに、後見人に比べれば、法的には、
認知症の方が単独で行える行為の幅は広い
ですが、
一般的な贈与などの相続・事業承継対策
などについては、正直、保佐人などがいる
ケースでは自由に行えるかというと
なかなか難しいと思います。
家庭裁判所も、業務報告などを受けますので、
贈与等が散見されると何かしら口をだしてくる
可能性が高いですし、
そういう行為に同意していると、
非違があり、保佐人の変更などとなる可能性も
高いです。
遺言が単独でできる(相続人が意思能力を争わない前提)
という点については、確かにメリットかとは思いますが、
後見人とすると対策ができなくなるので、
保佐人や補助人にするという方法で、
相続・事業承継対策が柔軟に行えるというのは
あまり期待しない方が良いと思います。
よろしくお願い申し上げます。