(前提)
・甲社は株式譲渡制限会社です。
・このたび、役員乙からその後継者である役員丙に甲社株式を贈与します。
(質問)
・株式譲渡承認を行う機関は、
取締役会設置会社においては、取締役会、
取締役会非設置会社においては、株主総会ですが、
譲渡承認機関が取締役会の場合には、役員乙、丙ともに譲渡承認決議に 参加できませんが、
承認機関が株主総会の場合には、役員乙、丙ともに、決議に参加できる
と理解していますが、間違いないでしょうか。
よろしくお願いします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問と回答の結論
>株式譲渡承認を行う機関は、取締役会設置会社においては、取締役会、
>取締役会非設置会社においては、株主総会ですが、
>譲渡承認機関が取締役会の場合には、役員乙、丙ともに譲渡承認決議に
>参加できませんが、
>承認機関が株主総会の場合には、役員乙、丙ともに、決議に参加できる
>と理解していますが、間違いないでしょうか。
はい。ご理解の通りで間違いございません。
2 回答の理由
回答の理由については、
この点について、
私のメールマガジンで配信したものが
ございます(事前に送信予約をしていたのですが、
本日の配信したものです)ので、以下をご参照ください。
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株式譲渡承認機関と特別利害関係人
税理士のための法律メールマガジン
2020 年7月10日(金)
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おはようございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
今回は、非公開会社において、
株式譲渡(贈与含む)を行う場合に
おいては、会社の「承認」が必要となりますが、
承認決定に参加できない者は誰かという点を解説したい
と思います。
以下、のような株式会社を前提に
解説します。
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株主 A B C
取締役 A B C
Aは、Cに対して株式を贈与する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
1 株式譲渡の承認機関
会社法の定めによると、
株式譲渡の承認機関は、
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取締役会がある会社
・・・取締役会
取締役会がない会社
・・・株主総会
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となります(会社法139条)。
なお、実務上は、定款の規定で「代表取締役」
とされているものも散見されますが、
一定のリスクがあることは、過去の当メールマガジン
でも解説した通りですので、今回は割愛し、会社法
通りの場合を前提に解説します。
2 AのCに対する贈与についての承認決議
まず、上記の事例では、取締役が3名(A・B・C )
いますが、取締役会設置会社となっているかは、
人数で決まるものではなく、会社の機関として、
取締役会を設置しているかによりますので、
登記簿や定款の確認が必要となります。
(1)取締役会がある会社の場合
この場合、AのCに対する贈与については、
取締役会で承認するかを決定することとなります。
ただし、AとCは、株式の譲渡人と譲受人という
承認対象となる取引の当事者ですので、
特別利害関係人として、取締役会の議決に加わる
ことはできません(会社法369条2項)。
そして、定足数(過半数の参加)についても、
AとCを除いた人数の過半数で足りる
ことになります。つまりは、Bが単独で、
取締役会で承認するか否かを決定することと
なります。
もし、取締役会の議決にAやCが参加
していた場合には、その取締役会の決議は、原則として
無効となってしまいます。
(2)取締役会がない会社の場合
この場合、株主総会の承認決議が必要と
なります。
こちらの場合については、取締役会とは
別に考える必要があります。
確かに、株式譲渡の当事者である株主Aと株主C
は、上記の通り、特別な利害関係を有しているとはいえるでしょう。
しかし、会社法は、「株主総会」においては、
この特別利害関係人が議決権を行使することを
禁止していません。
議決権の行使を認めた上で、
決議の日から
3ヶ月以内に提起しなければ
ならない株主総会の決議取消しの訴え
という特殊な訴訟において、
「株主総会等の決議について
特別の利害関係を有する者が議決権を
行使したことによって、
著しく不当な決議がされたとき。」
(会社法831条)
に株主総会の取消の理由になるとして、
最終的に裁判所の判断に委ねるという形を
とっています。
ですので、もちろんAとCにも
招集通知を送らなければなりませんし、
両名は、定足数の基礎にも入れて計算
しなくてはなりません。
参加できない前提のご質問を受けることは
ありますが、参加させないことがむしろ、
問題になってしまうということもありえます
ので、ご注意ください。
また、今回のような株式譲渡の事案では、
「株主総会等の決議について
特別の利害関係を有する者が議決権を
行使したことによって、著しく不当な決議が
されたとき。」
という場合にあたるかというと、
そのようなケースは実務上あまり想定できません。
この規定は、決議に参加したことにより
著しく不当な「内容」の決議がなされたこと
を要件としており、
例えば、合併契約の相手が、同時に自社の
大株主で、自社に著しく不利な条件の合併契約
の承認決議をした場合などに問題となりえます。
株主譲渡の場合には、譲渡条件などはあくまでも
会社でなく当事者(AとC)の問題ですし、
そもそも、譲渡対象の株式数や相手方などを超えて
その他の契約条件は、株主総会の承認事項でもないからです。