相続 遺言 不動産 民法

配偶者居住権設定後の婚族関係の終了や合意解除等について

永吉先生、お世話になります。

4月1日の施行に向け、配偶者居住権を複数のお客様に提案しているのですが、
その中でいくつか質問が出てきたので、教えてください。

・配偶者居住権を相続した配偶者が、
その後、姻族関係の終了届を提出すると、どうなるのか?

条文上、特にこれを排除する規定がないと思いますので、
姻族関係の終了後も配偶者居住権は存続すると考えますが、
この理解でいいでしょうか?

・配偶者居住権を相続した配偶者が認知症になることを想定し、
この場合、自宅を売却し、介護施設に入居するための資金に充てたいと考えたとします。

この事態に備えるため、認知症を停止条件とする配偶者居住権の合意解除
及び対価の一定の計算式を定めることは可能でしょうか?

合意解除後、子供が配偶者のためにその資金を使ってくれる保証はありませんが・・・。

また、停止条件付の合意解除以外に、信託等を使った方法はありますか?

・遺言を書く前提です。

配偶者居住権は建物に係る権利であるため、
建物(一戸建て)に関する内容のみの遺言も可能でしょうか?

この建物が建っている土地その他の財産に関しては、
遺言で何も定めないということです。

この趣旨は配偶者居住権の確保を早めにしておきたいが、
所有権は誰にするかを決めかねているからです。

土地に関しては、配偶者居住権に係る敷地利用権の登記はされないため、
建物に関してのみの遺言も可能なのか?ということです。

以上、3点、よろしくお願いします。

●●先生

ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜姻族関係の終了について〜

>配偶者居住権を相続した配偶者が、
>その後、姻族関係の終了届を提出すると、どうなるのか?
>条文上、特にこれを排除する規定がないと思いますので、
>姻族関係の終了後も配偶者居住権は存続すると考えますが、
>この理解でいいでしょうか?

姻族関係は、生存配偶者の意思表示により終了しますが(民法728条2項)、
これによって相続権等を生存配偶者が
失うわけではないことからすると

ご指摘のとおり、特別に消滅させるには、排除規定が必要だと考えられます。
したがって、ご理解のとおりで問題ございません。

2 ご質問②〜停止条件付き合意解除等について

>配偶者居住権を相続した配偶者が認知症になることを想定し、
>この場合、自宅を売却し、介護施設に入居するための資金に充てたいと考えたとします。
>この事態に備えるため、認知症を停止条件とする配偶者居住権の合意解除
>及び対価の一定の計算式を定めることは可能でしょうか?

はい。正確な表現としては、合意解除というよりも、
合意により権利の消滅に対して対価を設定する約定という
こととなると思いますが、ご想定していることは可能だと
考えられます。

なお、契約書の文言は、実際の組成にあわせて、
効力発生時点が明確になるように等個別の工夫が必要かと思いますが、
スキームとしては、可能と考えていただいて問題ないと思います。

>また、停止条件付の合意解除以外に、信託等を使った方法はありますか?

このあたりについては、私も現在、研究を進めている
ところなのですが、

例えば、配偶者居住権を信託財産とする場合、
配偶者居住権が受託者にうつることとなりますが
法理論上は、譲渡を禁止された改正民法1032条2項に
抵触してしまいますので、そのような信託組成は無効となるでしょう。
(もちろん、最終的に配偶者の保護にかなうとして、裁判所が
例外的に認めるという可能性も0ではないのでしょうが、
法的安定性からするとそのような判断をするとは考え難いです。)

また、生前に遺言等で、被相続人の財産(現金等)の受託者を
子、受益者を配偶者として、配偶者が認知症になったら、
その現金等で買い取る(合意解除の対価という意味で)
ように設定するという方法も考えられますが、
そうであれば、そもそも遺言で、被相続人の財産(現金等)を
配偶者に遺言しておくことや配偶者居住権ではなく所有権を
配偶者に移転することで目的達成できるのではという疑問もあり、
実際に意味があるケースは希少だと思います。

その他、
任意後見を利用して、任意後見人に配偶者居住権の合意による
消滅とその対価の交渉について代理権を与えておく、という方法もあります。

ただ、この方法の場合、建物所有者と任意後見人が
同一人物ですと、利益相反等の規制を受け、特別
代理人の選任が必要となると思いますので、
そのあたりへの配慮が必要ですし、
>合意解除後、子供が配偶者のためにその資金を使ってくれる保証はありませんが・・・。
という点は、特に解消されるわけではないでしょう。

3 ご質問③〜建物に関する内容のみの遺言について

>・遺言を書く前提です。
>配偶者居住権は建物に係る権利であるため、
>建物(一戸建て)に関する内容のみの遺言も可能でしょうか?
>この建物が建っている土地その他の財産に関しては、
>遺言で何も定めないということです。
>この趣旨は配偶者居住権の確保を早めにしておきたいが、
>所有権は誰にするかを決めかねているからです。
>土地に関しては、配偶者居住権に係る敷地利用権の登記はされないため、
>建物に関してのみの遺言も可能なのか?ということです。

>配偶者居住権は建物に係る権利であるため、
>建物(一戸建て)に関する内容のみの遺言も可能でしょうか?

おっしゃるとおり、遺言では、
配偶者居住権を配偶者に遺贈する旨定めておけばよく、
遺言の中で居住建物の所有者を定める必要もありませんし、
土地の所有者を遺言で定める必要もないといえます。

ご質問のご趣旨とはずれるかと思いますが、
敷地の所有者と建物所有者の対抗関係は別の問題であり、
敷地の所有者が建物所有者に対して、建物明渡請求ができる
ようなケースでは、敷地の所有者に配偶者居住権を対抗
することはできませんので、ご注意ください。

よろしくお願い申し上げます。