当社のお客様で婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与をし、
特別受益の持ち戻しから外すことを検討されている方がいます。
この方から「離婚した場合の財産分与において、この贈与額はどうなるのか?」と
質問されました。
私は贈与しようがしまいが、夫婦で築いた財産「総額」を
結果として半分ずつになるようにするのが、財産分与だと考えていました。
この考え方でいいのでしょうか?
それとも、贈与した分は贈与した分として別に考えるのでしょうか?
もちろん、あくまでも財産分与の話であり、慰謝料は考慮しないものとします。
よろしくお願いします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>当社のお客様で婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与をし、
>特別受益の持ち戻しから外すことを検討されている方がいます。
>この方から「離婚した場合の財産分与において、この贈与額はどうなるのか?」と
>質問されました。
>私は贈与しようがしまいが、夫婦で築いた財産「総額」を
>結果として半分ずつになるようにするのが、財産分与だと考えていました。
>この考え方でいいのでしょうか?
>それとも、贈与した分は贈与した分として別に考えるのでしょうか?
前提として、当該居住用不動産が、
婚姻期間内において夫婦が協力して得た原資により
取得したものであることを前提として回答いたします。
仮に夫婦の一方が相続や又は相続で得た原資等で取得した場合には、
特有財産(夫婦片方の固有の財産)として、
そもそも財産分与の対象になりません。
2 回答
この問題は、この婚姻中の贈与の趣旨の
事実認定と評価として、
その贈与の実質的な趣旨が、「特有財産として」
配偶者に確定的に帰属させるものなのか、
それとも、贈与が夫婦間での潜在的な共有財産性を
失わさせる趣旨のものではないといえるのか
いずれかで結論が異なることとなります。
(大阪高裁平成23年2月14日等)
>当社のお客様で婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与をし、
>特別受益の持ち戻しから外すことを検討されている方がいます。
ということで、素直に考えると、
贈与税の配偶者控除の特例利用による
相続税対策や居住用不動産を少なくとも相続時点
に確実に配偶者へ移転させるようにしようという
趣旨が推認できるので、
贈与者の死後を考慮した上でのものとして、
贈与時から相続発生時までの、夫婦の潜在的な共有財産性を
失わせるものではないと思います。
(つまり、●●先生のご指摘のとおり、財産分与の対象財産になる。)
ただ、
上記の裁判例では、贈与の背景事情を考慮して、
実質的には、妻が夫の不貞を疑い、妻が夫を叱責したところ、
夫が妻の不満を抑えることを目的として、不動産を贈与したとされ
この不動産は、夫が妻との争いを清算するために
妻に確定的に帰属させたとして、妻の特有財産であると判断されています。
結局のところは、個別事案の事実認定と評価の問題となるので、
離婚する場合には、争いの対象にはされるかと思います。
税務署との関係で、
贈与契約書自体にいれるかどうかは別(1枚するか2枚にするか)として、
(一緒でも特に問題はないと思いますが、税務署がその契約書を
見た際に、この趣旨が理解できず、何かしら指摘される可能性は
あるので)
ご心配があるのであれば、
当該贈与対象の財産は、財産分与の対象とするか否かについて、
規定しておくと紛争予防になると思います。
よろしくお願い申し上げます。
質問を追加します。
では、この場合、自宅は夫名義の住宅ローンで購入して完済済とします。
返済原資は当然、夫の役員報酬なのですが、
この給与は残金があれば、財産分与の対象になりますよね。
ということは、役員報酬を原資に住宅ローン完済した結果の自宅を
婚姻期間20年の贈与をした「後」も、
基本的には夫婦で積み上げた共有財産ということでいいですよね?
前回の内容も踏まえ、数字を記載します。
この理解でいいかをご教示ください。
財産が金銭と自宅のみという前提です。
・自宅の離婚時の民法上の時価:8,000億円
・婚姻後、社長が稼いだ役員報酬の残高8,000万円
・既に、婚姻期間20年に贈与実行済(2,000万円)
・この場合、財産分与としての権利は1億6,000万円÷2=8,000万円
・妻は既に2,000万円の贈与を受けているので、
6,000万円分(自宅の夫名義持ち分の時価)を財産分与されればOK
追加でのご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①~総論について
>ということは、役員報酬を原資に住宅ローン完済した結果の自宅を
>婚姻期間20年の贈与をした「後」も、
>基本的には夫婦で積み上げた共有財産ということでいいですよね?
そうですね。ただ、前回の回答のとおり、いざそうなった場合は
争いになる(事実認定と総合評価の問題となる)ため、
契約書等のリスクヘッジはした方が良いとは思います。
2 ご質問②~数字について
>この理解でいいかをご教示ください。
>前回の内容も踏まえ、数字を記載します。
>財産が金銭と自宅のみという前提です。
>・自宅の離婚時の民法上の時価:8,000億円
>・婚姻後、社長が稼いだ役員報酬の残高8,000万円
>・既に、婚姻期間20年に贈与実行済(2,000万円)
>・この場合、財産分与としての権利は1億6,000万円÷2=8,000万円
>・妻は既に2,000万円の贈与を受けているので、
>6,000万円分(自宅の夫名義持ち分の時価)を財産分与されればOK
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>・既に、婚姻期間20年に贈与実行済(2,000万円)」
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こちらについては、金銭でなく、自宅の持分(2000万円分)
の贈与のことを言っているという趣旨(おそらくそうかなと思いました。)
であれば、おっしゃるとおりで大丈夫です。
仮にこの2000万円が金銭だということに
なると、何のために金銭を贈与したのかという
点が、前回の質問への回答のとおり、問題となります。
よろしくお願い申し上げます。