相続 遺産分割 民法

自己とその配偶者を債務者とする貸付金の相続

永吉先生

お世話になっております。

(前提)
・父、母、長男(成人)、長女(成人)のうち、父が亡くなり、母、長男、長女(相続人はこの3人のみ)が父の財産を相続する。
・長女と長女の配偶者(X)は、父から借入金(父にとっては、これらの者への貸付金)がある(金銭消費貸借契約書上「借主(長女とX)は、●年●月●日(貸付日)、●円(貸付金額)を、返還をなすことを約して貸主より仮り受けた。」と記載)
・上記の貸付金を長女が全額相続することを予定
・長女とXは離婚調停をしていたが、話がまとまらない状況
・上記の貸付金は、約定通りの返済がされておらず、そのほとんどの返済未了の状況である

(質問)
1.長女が上記の貸付金を相続した場合、長女の返済義務は消滅するが、Xの返済義務は残り、その結果長女がXに対して貸付債権を有している(Xの長女への返還義務のみが残る)という整理でよろしいでしょうか?
2.「Xの長女への返還義務のみが残る」というご回答の場合ですが、長女はXに貸付残額全額(それとも、貸付残高の一部(例えば、1/2?だけ))を請求することできるのでしょうか?(契約書上は、上記のほかは、弁済期間や毎年の返済金額、利率が記載されているのみです。)

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜返済義務の帰属について~

>1.長女が上記の貸付金を相続した場合、長女の返済義務は消滅するが、
>Xの返済義務は残り、その結果長女がXに対して貸付債権を有している
>(Xの長女への返還義務のみが残る)
>という整理でよろしいでしょうか?

>「借主(長女とX)は、●年●月●日(貸付日)、●円(貸付金額)を、
>返還をなすことを約して貸主より仮り受けた。」と記載)

この契約書の記載からは、必ずしも定かではありませんが、
長女とXが連帯して金銭を返還する債務
(各人が父に対して貸付金額全額につき返還義務)を負う
契約であると解釈される可能性が高いです。

そして、遺言等がなければ、
相続が発生したタイミングで、貸付金債権は
法定相続分で相続され、長女が相続した
1/4の債権額については、債権者と債務者が
同一になるため、混同により消滅します。

その後、遺産分割のタイミングで、他の相続人の債権も
娘に帰属することで、残債権も、
混同により消滅することとなります。
(なお、厳密な法律理解では、預金等を除く金銭債権は、法定相続分
で当然承継されますので、遺産分割協議書というタイトル
であっても、債権譲渡による混同となります。)

連帯債務者である長女の債務が混同により消滅したことで、
他の連帯債務者Xの返済義務も同時に消滅します(民法438条)。

そして、長女は、単独で連帯債務全額を支払った場合と
同様に、連帯債務者であったXに対して、
新たに、長女とX間の内部負担割合に応じた求償権を
取得することになるのが、法的な建付けです(民法442条)。

したがって、当初の父が有していた貸付債権が残るわけではなく、
長女のXに対する求償権が発生するということになります。

2 ご質問②〜長女は、結局いくらXに請求できるのか〜

>2.「Xの長女への返還義務のみが残る」というご回答の場合ですが、長女はXに貸付残額全
>額(それとも、貸付残高の一部(例えば、1/2?だけ))を請求することできるのでしょう
>か?

上記のとおり、長女は、Xに対して、
内部負担割合に応じた求償権を取得しますので、
請求できる金額は、
内部負担割合によることになります。

金銭消費貸借契約書や長女とX間の合意において、
この内部負担割合につき事前の取決めが認められる場合には、
それに応じて、求償できる金額が決まることになります。

このような証拠がないケースですと、
事実認定と評価の問題となりますが、

相続人たる父が、長女とXの両名を借主とし、
Xにも返済をさせる意思であったこと、
長女とXが夫婦の関係であったことなどから、
内部負担割合は1:1であり、
2分の1の金額を請求できるという認定に
なる可能性が高いです。

なお、理論上は上記の通りですが、
離婚調停中ということですと、
財産分与の中で、その辺りもまとめて、
合意し、解決するという形になる
可能性も高いかと思います。

よろしくお願い申し上げます。