お世話になっております。
保険料の贈与と相続時の名義預金の関係について
ご教授ください。
相続人である妻の通帳に年金(契約者、被保険者共に妻)
の解約一時金約4,000万円(平成27年から29年にかけて)の入金
及び現在も受領中の年金(年間180万円)の入金があります。
解約済みの年金の保険料は2007年に一時払いしており、保険料負担者は不明です。
妻は認知症であり、他の相続人の中に当時のことが分かる人は今のところ確認できて
いません。
妻の妹の話では、妻は働いたことがないとのことで、もともと保有の財産についても
現在確認はとれていません。
この場合、解約金及び受領中の年金について当時保険料の贈与があったものとして妻
の財産とすべきか 贈与の事実が確認できないため、名義預金として相続財産にすべきかご教授くださ
い。
よろしくお願い致します。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>相続人である妻の通帳に年金(契約者、被保険者共に妻)
>の解約一時金約4,000万円(平成27年から29年にかけて)の入金
>及び現在も受領中の年金(年間180万円)の入金があります。
>解約済みの年金の保険料は2007年に一時払いしており、保険料負担者は不明です。
>妻は認知症であり、他の相続人の中に当時のことが分かる人は今のところ確認できて
>いません。
>妻の妹の話では、妻は働いたことがないとのことで、もともと保有の財産についても
>現在確認はとれていません。
>この場合、解約金及び受領中の年金について当時保険料の贈与があったものとして妻
>の財産とすべきか、贈与の事実が確認できないため、名義預金として相続財産にすべきかご
>教授ください。
ご質問からは、定かでないところがありますが、
ご趣旨としては、これらは相続税法上の「定期給付契約」
に該当するものということかと思いますので、
その前提で回答します。
2 回答
(1)前提としての税務整理
まず、前提ですが、
今回問題となっている年金については、
①相続開始前に既に解約されて、解約返戻金が支払われたもの
②現状、契約が継続しており、年金受領中のもの
が含まれているかと思います。
②については、仮に被相続人(夫)が支払っていた
という場合には、契約上の地位を財産評価(解約返戻金相当額等
相続税法25条により評価された金額)
がみなし相続財産となるという構成かと思います(相続税法3条4号、5号)。
一方で、①については、契約上の地位自体は相続時に
既になかったもので、税法上みなし贈与(相続税法6条2項)
の対象となるものかと思います。
仮に相続発生前のこの解約一時金約4,000万円が振込まれた
口座自体が名義預金にあたるというようなケースは
別として、
名義預金という認定があり得るのかというと
税法上みなし贈与とされるものを名義財産とする等の関係に
立つため、理論上はそのように考えるのは難しいように思います。
(もちろん、名義財産という論点自体が理論上はよく分からない
ものを、事実認定と評価の問題として解消している?
という側面もある議論であるので絶対というわけではないのでしょうが。
なお、3年以内の贈与が相続税の課税価格となるということは
別の話で、名義財産になるのかというところです。)
なお、保険料自体の贈与という構成も民事上は
あり得るところですが、明確な証拠がない場合には、
相続税法のみなし相続財産等の規定の趣旨に鑑み、
課税実務上はそのような取り扱いがされていない
ことが多いかとは思います(もちろん、構成としては
あり得るものですので、そのように主張したり、
最終的に意思決定すること自体は問題のないように
思います。)
(2)本件のケースの申告について
今回のケースでは、
>保険料負担者は不明です。
>妻は認知症であり、他の相続人の中に当時のことが分かる人は今のところ確認できて
>いません。
ということで、そもそも負担者が誰なのか
が明らかではありません。
>妻の妹の話では、妻は働いたことがないとのことで、もともと保有の財産についても
>現在確認はとれていません。
このような事情から被相続人が負担者である
可能性が高いとも思えますが、例えば、
妻が妻の両親から相続した現預金等から負担した
ということもあり得るところですので、
現実に原資があったのかどうかも確認して
みることはしてみても良いかとは思います。
最終的にですが、税理士の契約上の義務履行
としては、これらの事情を依頼者さまに説明した上で、
加算税等のリスクを説明し、依頼者さまに
意思決定をしてもらうほか、方法がない
というのが法的な回答になります。
今回の事例で気になるのは、妻以外の相続人の
方には、説明の上、意思決定をしていただければ
良いと思いますが、
仮に、妻の申告も行うということであるとすると、
>妻は認知症であり、
ということですと、この説明を受ける能力があるのか
という問題があります。
仮に後見人等が付いてるということであれば、
後見人に説明することで良いと思います。
そもそも論としては、仮に認知症であり、
意思能力がないということですと、
後見人等の選任なしで、税理士の先生に
税務申告の依頼をする契約も無効です。
現実問題として争いのないものを後見人の選任なしに
申告するということはあるかと思いますが、
このような疑義がある相続財産等がある場合には、
後に加算税等が発生した場合で、かつ
この妻に後見人がいるという状態であれば、
この後見人から損害賠償請求をされる(または
相続人からされる)ということも想定
できますので、ご注意下さい。
(3)民事上の整理
民事上、これらの保険料等を相続財産に
含めるかについては、当事者で合意すれば
良いということにはなります(争いがある
場合にはお互いの主張でどちらを採用するか
裁判等に持ち込む等になります)。
ただし、上記のとおり、
>妻は認知症であり、
判断能力がないというケースですと、
合意自体が無効となりますので、
遺産分割等を行う場合には、後見人の
選任等が必要となるでしょう。
よろしくお願い申し上げます。