お世話になっております。
●●と申します。
初めて質問をさせて頂きます。
宜しくお願い致します。
(前提)
〇 被相続人甲に平成31年4月に相続が開始されました。
〇 相続人は長男、次男、長女の三名です。
〇 遺言により長男、次男に次の内容の遺言が残されていました。
(遺言)
第1条 不動産(土地A、土地B、家屋A)
すべの不動産について、遺言者の長男及び次男に、
各2分の1の割合で相続させる。
第2条 金融資産等
遺言者は、相続開始時に遺言者の有する金融資産その他一切の財産を
長男及び次男に、各2分の1割合で相続させる。
〇 長女は遺言では廃除されていましたが、相談をしている弁護士より
廃除事由には該当しにくいため、長女は相続人となる、そして現在、遺留分の
減殺請求をされている状況です。
〇 長男+次男 VS 長女 となっており、双方とも弁護士に相談をしています。
〇 長男と次男が相談をしている弁護士に少し確認したところ、今回の遺言は
包括遺贈ではなく、相続分の指定と考えているとのこと。
〇 当事務所にて、長男、次男より相続の申告を受任しています。
(質問)
① 遺産分割の方法について
不動産及び金融資産等は各2分の1の割合による遺言となっていますが、
具体的にどの財産を長男、次男とで相続するかが不明であり、長男と次男だけ
による遺産分割協議が必要と考えています。
この場合、すべての財産を2分の1ずつ遺言により相続するのではなく、
例えば、A有価証券は長男、B動産は次男、土地Aは長男、土地Bは次男という感じで、
遺産評価総額が2分の1ずつになる財産分けが、今回の遺言内容で長男及び次男の
2名による遺産分割協議でできると理解していますが、間違っていますでしょうか。
② 未分割状況なのか
仮に、申告期限までに長男、次男の遺産分割協議がまとまらない場合は未分割と
考えているのですが、色々な本などを参照すると、「相続させる」遺言は平成3年の最高裁
により遺産分割方法の指定と考えられ、そうなると指定された相続財産が、被相続人の
死亡と同時に、その指定された相続人のものとなり、遺産分割は不要という説明もあります。
そうなると、今回の遺言では、死亡と同時に2分の1ずつ、全ての財産が確定的に
長男と次男に相続され、未分割状態ではないとも考えてしまいます。
書籍の添付ができませんでしたが、清文社「未分割申告の税実務」税理法人トゥモローズ著の
説明では、「相続させる遺言」の包括割合による遺言の類型は、分割協議後権利移転と
考えられ、分割協議が必要と書かれていあります。
※ ただ、相続人全員の分割協議なのか、今回の長男、次男だけの分割協議なのかは
読みとれませんでした。
もし、未分割状態ではなく、確定的に2分の1ずつ相続しているのであれば、期限内申告において
小規模宅地等の適用を検討する必要があり、一方で、遺留分減殺請求がされているので、
準共有状態となり(長男と次男の遺産分割協議も期限内でまとまらないのであれば)、やはり未分割なのか、
相続分の指定なら遺産分割が必要と理解しているが、一方で遺産分割方法の指定なら分割協議が
必要ないのか、それとも、どちらの考えでも、とりあえずは長男、次男だけの遺産分割協議(だけ)
が必要なのかなど、空回りして理解ができておりません。
基本的なところを理解していないかもしれませんが
宜しくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
ご質問の遺言は、実務上も散見されるもので、
その意味内容について、公証実務の多数説や
各学者の見解、各書籍の著者によって
どのように解するべきかもバラバラとなっている
極めて難しい問題ですので、
最終的には、個別具体的な遺言者の意思解釈
の問題として、裁判所が決定しない限り、
明確な解は出ないですが、整理を解説し、
その後、実務上どうするかを解説します。
1 遺言の意味とご質問の整理
この遺言は、
a全体財産についての相続分の指定
b純粋な遺産分割方法の指定(不動産を1/2ずつ、その他の
財産を1/2ずつの遺産分割をするように義務づけるもの)
c「特定財産についての」相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)
いずれなのかという点で疑義があります。
(1)未分割財産なのか否か
上記のうち、「c」と考えるのであれば、
先生のご指摘のとおり、
>死亡と同時に2分の1ずつ、全ての財産が確定的に
>長男と次男に相続され、未分割状態ではないとも考えてしまいます。
となります。
この共有財産は、遺産分割の対象となる共有財産
ではなく、相続とは離れたものであり、分割を
する場合には、通常の共有物分割によることと
なります。
https://zeirishi-law.com/minpou/kyoyu-houmu#i-4
一方で、「a」と「b」であれば、
相続におけるこの遺言では確定的に財産が
承継されたわけではないため、未分割財産となります。
(2)遺産分割の方法
ア 参加者について
>※ただ、相続人全員の分割協議なのか、今回の長男、次男だけの分割協議なのかは
>読みとれませんでした。
この場合、長女が廃除されていることを前提
とすれば、当然長男と次男だけで分割協議が可能です。
また、「a」、「b」いずれであっても、長女の
指定相続分は「0」とされていると考えられます。
指定相続分を「0」とされた相続人が遺産分割協議の
合意に参加しなければならないか否かについても
実は定説はありません。
ただ、相続分譲渡をした場合には、譲渡をした
相続人が遺産分割手続きから離脱するとされている
こととのバランスで、指定相続分「0」とされた
相続人が参加しない遺産分割協議も有効と
解すべきであるという見解が有力です(潮見ー詳解相続法P261等)。
イ 内容について
>不動産及び金融資産等は各2分の1の割合による遺言となっていますが、
>具体的にどの財産を長男、次男とで相続するかが不明であり、長男と次男だけ
>による遺産分割協議が必要と考えています。
>この場合、すべての財産を2分の1ずつ遺言により相続するのではなく、
>例えば、A有価証券は長男、B動産は次男、土地Aは長男、土地Bは次男という感じで、
>遺産評価総額が2分の1ずつになる財産分けが、今回の遺言内容で長男及び次男の
>2名による遺産分割協議でできると理解していますが、間違っていますでしょうか。
(ア)aと解釈される場合
長男・次男の弁護士の方のご見解は、
>長男と次男が相談をしている弁護士に少し確認したところ、今回の遺言は
>包括遺贈ではなく、相続分の指定と考えているとのこと。
ということで、「a」と考えているのかな?とも思います。
この場合、遺言書上は、第1条(不動産)、第2条(金融資産等)と
分かれているものの、遺言者の意思は、全体財産について
長男・次男に2分の1ずつ分ければ良いということに
なります。
(イ)bと解釈される場合
この場合、あくまでも、
遺産分割方法の指定として、
第1条の不動産を長男・次男で1/2ずつ
第2条の金融資産等を長男・次男で1/2ずつ
遺産分割で分ける義務をAとBが負っている
ということとなります。
なお、これと異なるよう(全財産で1/2に
調整する等)に遺産分割をする場合には、
遺言と異なる遺産分割となりますので、
上記の有力な考え方を前提に指定相続分「0」
の長女が遺産分割に参加しなくても良いと
解したとしても、長女の参加は必要となります。
(3)a、b、cのいずれと考えるのか
上記のとおり、a、b、cのいずれと考えるのかは、
遺言者の意思の解釈の問題となります。
いただいた
遺言の文言のみからはいずれと考えるかを
判断することが難しい上、最終的には
裁判所が判断しなければわからないという
ところでしょう。
ア 実務上よくある類似ケース
実務上よく問題となるケースとしては、
「すべての不動産、預貯金及びその他一切の財産を
長男、次男に各2分の1の割合で相続させる」
というようなものです。
これを
a 全体財産についての相続分の指定
c「特定財産についての」相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)
のいずれと解するのかにつき、公証実務では
cと考えるのが多数説です。
ただ、弁護士等の実務家の多く(私もです)
は、遺言者の意思が指定した割合による
価値に相当する財産を取得させることにある
と解されること、
個々の財産に共有関係が成立したまま、
相続による分配が終了し、通常の共有物分割
による分割が必要とするのは不自然であること
等から、「a」と考える見解が多いところです。
(私もそのように解するべきかと思います。)
イ 今回の特殊性
さらに、今回は、上記のような遺言と
異なり、あえて、第1条と第2条を分けて
記載していることがどのように評価
されるのかが問題かと思います。
遺言者が
全体財産の相続分の指定と考えているので
あれば、通常は「ア」のような遺言で良いところ、
あえて、不動産を分けていることから、
特定の財産に着目する意思があったと
推認される可能性があることから「c」
と考えるということもあるところです。
また、そのような遺言となっている
ため、「a」と「c」ではなく、
遺言により確定的に財産の帰属が
確定されるものではなく、
特定の財産の一定の領域(不動産とその他)で、
1/2ずつ遺産分割で分けるべき義務を
負わせる遺言であるという「b」という
考え方もでてきてしまいます。
2 実務上の対応
大変心苦しいのですが、
上記の通り、このような様々な
捉え方ができてしまう遺言の場合、
最終的にはどの意味を有するかは
裁判等をやってみなければわからないという
側面があります(ですので、作成段階で
疑義のでないように作成すべきという話に
なってしまいます。。)
ただ、税務申告との関係では、
裁判等をすることもできませんので、
複数の可能性があることを依頼者さまに
説明し、どれを前提に申告をするのかを
意思決定してもらう以外方法がありません。
(個人的な経験では、税務署は遺言の
効力について厳密に理解していないので、
あまり問題にならないことが多いと
思いますが)
今回は、長男・次男に弁護士の方が
つかれているということなので、
依頼者様に弁護士さんに、
・どのような遺言の前提で、考えるべきか?
・(遺産分割が必要と考える場合)
遺産分割は誰と誰の間で必要と考えるのか?
をご相談の上、意思決定
してもらうように伝えるという
こととなるかと思います。
もちろん、その意思決定が
絶対に正しいわけではないのですが、
紛争対応をしている弁護士であれば、
遺言にはあらわていない事情の調査なども
している可能性が高いですし、
遺産分割を長男・次男で可能と解する
にしても、長女との紛争との関係も
踏まえた上で、タイミングを考える
必要もあるかと思いますので。
3 遺留分減殺請求による共有との関係
なお、遺留分減殺請求により生じる共有は、
遺産分割の対象となる遺産共有とは
別の意味の共有と解されており、
相続税法55条の未分割なのか否かには
影響を及ぼさないものとされています。
(最高裁平成8年1月26日判決、東京地裁平成25年10月18日判決
名古屋国税不服審判所平成12年6月23日裁決参照)
ですので、申告までに具体的な金額等が
定まらなければ、申告時点ではその点は
考慮せずに申告し、その後確定した段階で、
更正の請求をするという形となるでしょう。
よろしくお願い申し上げます。
お世話になっております。
税理士の●●と申します。
実務的に意見が分かれる難しい問題なんですね。
先生からご回答を頂いた内容について1点だけ
確認をさせてください。
>(ア)aと解釈される場合
>長男・次男の弁護士の方のご見解は、
>>長男と次男が相談をしている弁護士に少し確認したところ、今回の遺言は
>>包括遺贈ではなく、相続分の指定と考えているとのこと。
>ということで、「a」と考えているのかな?とも思います。
>この場合、遺言書上は、第1条(不動産)、第2条(金融資産等)と
>分かれているものの、遺言者の意思は、全体財産について
>長男・次男に2分の1ずつ分ければ良いということに
>なります。
このaと解釈される場合の、「長男、次男に2分の1ずつ分ければ良いということ
になります」という回答の意味は、
bと解釈される場合の回答にありました、長女の指定相続分「0」としても
遺産分割協議が長男、次男、長女の3名で行う必要があるbとは異なり、
aでは、遺産分割協議をするとしても、長男と次男に2分の1ずつ、
全ての財産が共有で分ける遺産分割協議が「必要である」と理解しましたが
間違っていませんでしょうか。
それとも、aの場合はトータルで双方が遺産総額の2分の1ずつになるような
A有価証券は長男、B動産は次男、土地Aは長男、土地Bは次男という感じで
2分の1ずつに「なるように」分ける分割協議ができてしまうのでしょうか。
※ できてしまうのであれば、bとは異なり、長男と次男だけで遺産分割協議が
できてしまうのか…?
ご回答では、aでは、その様な分け方はできない様に理解しましたが、
そうであれば、cと同じ結果になるのかとも考え、少し疑問に感じました。
(先生の回答の自分なりのまとめ)
a → 未分割と考えられる → 長男、次男が不動産、その他の財産をきっちり2分の1ずつ相続する事を指定した遺言のため
→ 長男、次男だけの遺産分割協議により、きっちり2分の1ずつになる遺産分割協議を長男、次男だけで行う
(全財産で1/2に調整する等は長男、次男だけの遺産分割協議ではできない)
b → 未分割と考えられる → 長男、次男が不動産、その他の財産をきっちり2分の1ずつ相続するのであれば、
遺産分割では長女の参加は不要であるが、総額で2分の1ずつになるような遺産分割をするときは、長女の参加が必要となる
c → 未分割ではない → 長男、次男が「確定的」に不動産、その他の財産をきっちり2分の1ずつ相続させることになる遺言となる
→ 遺産分割協議は必要ない
いずれのケースも、相続申告の実務的には、申告期限までに遺産分割協議がすべての相続人でまとまれば
包括遺贈でも特定遺贈でも、本来は3ヶ月以内の放棄の問題がありますが、税務署としては、問題視しないと考えています。
しかし、今回は長女が遺言でゼロの相続分となっており、申告期限に間に合わないため、
未分割か未分割でないかで、小規模宅地の適用に影響が発生してしまいます。
ただ、現時点では、未分割として3年内の分割見込書を提出し、遺留分減殺請求による
3名の遺産分割協議を経て、長男、次男の更正の請求をしようと考えています。
恐れ入りますが、宜しくお願い致します。
追加でのご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>aでは、遺産分割協議をするとしても、長男と次男に2分の1ずつ、
>全ての財産が共有で分ける遺産分割協議が「必要である」と理解しましたが
>間違っていませんでしょうか。
>それとも、aの場合はトータルで双方が遺産総額の2分の1ずつになるような
>A有価証券は長男、B動産は次男、土地Aは長男、土地Bは次男という感じで
>2分の1ずつに「なるように」分ける分割協議ができてしまうのでしょうか。
>※ できてしまうのであれば、bとは異なり、長男と次男だけで遺産分割協議が
> できてしまうのか…?
>ご回答では、aでは、その様な分け方はできない様に理解しましたが、
>そうであれば、cと同じ結果になるのかとも考え、
>少し疑問に感じました。
そもそも未分割の場合は、個別財産をどのように
分けるのか(長男の単独取得とするのか、共有とするのか
を含む)は遺産分割によることとなります。
つまり、先生のご指摘でいうところの
>それとも、aの場合はトータルで双方が遺産総額の2分の1ずつになるような
>A有価証券は長男、B動産は次男、土地Aは長男、土地Bは次男という感じで
>2分の1ずつに「なるように」分ける分割協議ができてしまうのでしょうか。
>※ できてしまうのであれば、bとは異なり、長男と次男だけで遺産分割協議が
> できてしまうのか…?
という趣旨です。
aは、長男と次男の相続分を2分の1ずつと
指定しているだけで、bとは異なり、各財産の
分割方法までは指定していないからです。
むしろ、全財産でこのような分け方ができるのは
aだけです。
遺産分割の参加者についても、
私が回答した有力な見解を前提にするのであれば、
長女が指定相続分0ですので、
長男と次男だけでできてしまうということになります。
なお、
「a」と「b」の違いは、
「a」・・・全体財産から不動産でも金融資産でもトータルで
1/2となるように遺産分割して、個々の財産の帰属を確定できる
(共有にする必要なし、1/2とは持分割合ではなく価値の話です)。
「b」・・・不動産を各々1/2、その他の財産を1/2となるように
遺産分割をして、個別財産の帰属を確定しなければならない(共有
にする必要なし、1/2とは持分割合ではなく価値の話です。)。
以下先生にご整理いただいた
>(先生の回答の自分なりのまとめ)
部分で、異なる点を【】で囲って修正します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
a → 未分割と考えられる → 長男、次男が不動産、その他の財産をきっちり2分の1ずつ相続する事を指定した遺言のため
→ 長男、次男だけの遺産分割協議により、きっちり2分の1ずつになる遺産分割協議を長男、次男だけで行う
(全財産で1/2に調整する等は長男、次男だけの遺産分割協議では【有力な見解に従えばできる】)
b → 未分割と考えられる → 長男、次男が不動産、その他の財産をきっちり2分の1ずつ相続するのであれば、
遺産分割では長女の参加は【有力な見解に従えば】不要であるが、総額で2分の1ずつになるような遺産分割をするときは、長女の参加が必要となる
c → 未分割ではない → 長男、次男が「確定的」に不動産、その他の財産をきっちり2分の1ずつ相続させることになる遺言となる
→ 遺産分割協議は必要ない
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
>しかし、今回は長女が遺言でゼロの相続分となっており、申告期限に間に合わないため、
>未分割か未分割でないかで、小規模宅地の適用に影響が発生してしまいます。
はい。もちろん問題点は理解しています。
個人的な経験を書かせていただいたのは、
そもそも「a」と「c」の法的な違い
から、分割見込書提出後、分割確定後の更正の請求が
認められないとされる可能性が実務上は、
そこまで高くないのではないかなと思い記載したのみです。
蛇足でしたね。すみません。
>ただ、現時点では、未分割として3年内の分割見込書を提出し、遺留分減殺請求による
>3名の遺産分割協議を経て、長男、次男の更正の請求をしようと考えています。
私も個人的には現時点では未分割を前提として
申告することが現実的なのかとは思います。
(もちろん、最後は依頼者さんの判断ですが)
よろしくお願い申し上げます。