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遺言の解釈と名義財産

永吉先生

遺言の解釈についてご質問させて頂きます。

被相続人・夫の遺言書には、「遺言者所有の預貯金は~」と
分け方の記載がありました。
なおこの遺言書には、“前各条以外の財産があった場合等”の
よくある記載はありません。
(税務申告は数年前に済んでいます)

その後の税務調査で妻名義の預金が見つかり、相続財産
として修正申告することとなりました。
(ちなみに相続人は、妻と子供2人)

この場合の遺言書にある、「遺言者所有の~」は、
①遺言者であった夫名義の預貯金のみをさすのか、
②実質的な夫の財産の意味で名義財産を含むと考えるのか、
それとも別の解釈となるのでしょうか?

妻はこの妻名義の預金は自分が取得したいと考えていますが、
税務署はこの遺言書の意図を上記②と考えているようです。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

ご質問の前提として、
>その後の税務調査で妻名義の預金が見つかり、相続財産
>として修正申告することとなりました。

とのことですので、名義預金に該当することに争いはない、

>妻はこの妻名義の預金は自分が取得したいと考えていますが、
>税務署はこの遺言書の意図を上記②と考えているようです。
とのことで、
>「遺言者所有の預貯金は~」
の「〜」は、「妻」になっているわけではない
という前提で回答します。

1 遺言の解釈について

つまるところ、
>「遺言者所有の預貯金は~」

という遺言を残した夫の意思として、
「①自己の名義の預貯金を〜」という意思であったのか、
それとも、
「②名義預金も含む預貯金を〜」という意思であったのか
いずれかかという点になります。

その際には、争いになれば、遺言作成時の状況や、
どういう趣旨で、夫が妻名義の預貯金としたのかの
状況も加味して判断せざるを得ず、

最終的には裁判で証拠や事実関係から判断するという
ことになってしまいます。
(なので、遺言書を作る際にこのあたりもケア
しつつ、作る必要があります。)

「所有の」という文言のみからは、
②と考えるのが素直といえば素直ですが、

通常、一般の方が、名義預金について自分のものだと
理解した上で、遺言書を作るとは考えにくい(妻名義の
ものは、別に考える趣旨だったと)とすると、
①とも考えられるものかと思います。

ご質問からは判断しかねますが、
配偶者に対する相続税額の軽減との関係で、
税務署は妻のものではないとしたいという趣旨
なのかもしれません。

2 対税務署の関係

ただ、ここは税務署も確定的に判断することは、
難しいと思いますので、対税務署との関係では、
①を前提に考えても良いように思います。

①を前提とすると
>“前各条以外の財産があった場合等”の
>よくある記載はありません。

ということですので、この名義預金は、
未分割財産となり、共同相続人で遺産分割を
するということになりますので、共同相続人間に
争いがなければ、「妻」が取得する旨の遺産分割
協議書を作成すれば良いと思います。

なお、仮に②と考えると、
理論上は、その他の相続人が取得した預金を贈与したと
なり得ると思いますが、
税務実務上は、遺言と異なる遺産分割について
も、相続の問題として取り扱っていますので、
そのあたりも考慮して、対税務署との関係では、
①と同様に遺産分割協議書を作成すれば良いのではないかと思います。

(もちろん、②と考えると、理論上は疑義があるので、
相続人間で争いがなければ、①を前提にしている
体で、遺産分割をすれば良いと思います。)

3 民事の争いの場合

相続人間で争いがあるということですと、
この点は、どこかで折り合いをつけて和解するか
その他の相続人が請求してきたら、そもそも名義預金
に該当するものではないとして争うか、
上記の遺言の解釈により争うこととなると思います。

この場合、妻が単独での取得を主張するには、
遺言の解釈で争っても、未分割財産となってしまう
ので、
そもそも名義預金ではないという点で争うことと
なるかと思います。

よろしくお願い申し上げます。