お世話になります。
以下の事例において、生命保険金の特別受益の認定可能性について教えてください。
家族構成:父親89才、長女と長男
公正証書遺言:すべての財産を長男に相続させる、遺言あり
財産総額:預金7,000万円、不動産の相続税評価額8,400万円
父親と同居者:長女(勤務歯科医、浪費家、貯金はほどんどない)
→ 父親は、長女へ学費、生活費などをこれまで総額1オク円以上提供
→ 長女の父親への生活支援は、コンビニ弁当の配達ぐらい
→ 現在、長女を別居させる準備中
将来:長女から遺留分侵害額請求される可能性あり
退職金:長男の会社の取締役として、小規模企業共済に加入予定
保険:父親が、長男を受取人として、2,000万円の一時払終身保険を検討中
【質問】
(1)生命保険が特別受益と認定される限界
安全性を考慮し、特別受益と認定されない保険金の金額は、いくらまでなら問題ないでしょうか?
(2)特別受益の認定可能性
父親は、長女への長年の支援を続け、また、長女から父親への貢献はほとんど感じられない状況においても
やはり生命保険の特別受益が認定される可能性はありますでしょうか?
(3)本件の生命保険への当てはめ
以下の参考資料の考え方を考慮すると、保険金2,000万円は、みなし相続財産の非課税額の2倍であるが、
遺産総額(土地は評価額を80%で割り戻した売却時価)の10%程度であり、
遺産総額に占める割合は僅少であるから、特別受益と認定される可能性は低い、と考える。
【参考】
(財)生命保険文化センター
生命保険金と特別受益
http://www.jili.or.jp/research/search/pdf/E_198_1.pdf
本橋総合法律事務所
最判平成16年10月29日の判例紹介
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①~生命保険が特別受益と認定される限界~
ご存知のとおり、裁判所は例外的な場合に限り、
生命保険金を特別受益に準じるものとして取り扱います。
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「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人と
の間に生ずる不公平が・・・到底是認することができない
ほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」
(最高裁平成16年10月29日決定)。
「特段の事情」の有無については、
○保険金の額
○この額の遺産の総額に対する比率のほか、
○同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなど
の保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、
○各相続人の生活実態等の
諸般の事情を総合考慮して判断されます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ですので、もちろん一概に金額の比率だけで判断される
わけではないです。
ただし、
こちらには裁判例自体は掲載しませんが、
これまでの裁判例を分析すると、
概ね以下のような傾向があります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◯相続財産(保険金は含めない):保険金=1:1
→特別受益に準じる
◯相続財産(保険金は含めない):保険金=2:1
→他の要素も考慮して決める(限界事例)
◯相続財産(保険金は含めない):保険金=3:1
→このレベルで特別受益としたものは見当たらない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
別居を前提とすれば、
3:1程度になれば安心かなというところです。
さらに、
>現在、長女を別居させる準備中
ということで、介護等も含めて長男が今後、
担当するということだとさらにリスクは低くなると思います。
なお、
>退職金:長男の会社の取締役として、小規模企業共済に加入予定
ということですが、
相続財産とならない死亡退職金がある場合、
上記特別受益に準じるか否かを検討する裁判例が多いです
(東京地判平成26年5月22日等)。
ということで、死亡退職金があった場合には、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◯相続財産(保険金は含めない):保険金+死亡退職金=1:1
→特別受益に準じる
◯相続財産(保険金は含めない):保険金+死亡退職金=2:1
→他の要素も考慮して決める(限界事例)
◯相続財産(保険金は含めない):保険金+死亡退職金=3:1
→このレベルで特別受益としたものは見当たらない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
とお考えください。
2 ご質問②~長女へのこれまでの支援について~
>父親は、長女への長年の支援を続け、
>また、長女から父親への貢献はほとんど感じられない状況においても
>やはり生命保険の特別受益が認定される可能性はありますでしょうか?
上記の不平等が著しいかという点では、
考慮される事情かと思いますが、このあたりは、
証拠の散逸等が激しく認定しにくいという問題や
その家庭の通常の教育の範囲内と評価できる金額や
扶養義務の範囲内の援助金額は考慮されないということ
があるため、争いになりやすいところです。
保険金の特別受益該当性だけではなく、
そもそもの遺留分の計算等にも影響がでる部分
ですので、
今のうちから金額が明確になる資料などを集めて
おいた方が良いでしょう。
3 ご質問③~2000万円の保険金かどうか~
>以下の参考資料の考え方を考慮すると、保険金2,000万円は、
>みなし相続財産の非課税額の2倍であるが、遺産総額
>(土地は評価額を80%で割り戻した売却時価)の10%程度であり、
>遺産総額に占める割合は僅少であるから、特別受益と認定される可能性は低い、と考える。
そうですね。金額からすると特別受益に準じると
される可能性はおっしゃるとおり、低いかと思います。
よろしくお願い申し上げます。