会社法

議事録が存在しない株主総会決議の有効性

永吉先生

いつも大変お世話になっております。
表題の件について、ご教示頂ければ幸いです。

代表取締役1名が100%単独株主である会社を想定した場合、
会社法の定めによればいつでも株主総会を招集することができるものと思います。
(招集手続の省略)
第三百条
前条の規定にかかわらず、株主総会は、株主の全員の同意があるときは、
招集の手続を経ることなく開催することができる。(後段省略)

この前提により、代表取締役が意思決定した会社の決定事項は、
株主総会の承認による、正当な機関決定がその都度行われていると考えます。

しかし、株主総会議事録は会社法の定めるところにより作成義務があるところです。
(議事録)
第三百十八条
株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、
議事録を作成しなければならない。

(質問)
株主総会の決議事項について、議事録の作成を失念した場合には、
株主総会決議が行われなかった(適法に意思決定されていない)と評価され、
無効となるのでしょうか。

例えば、役員報酬の総額を株主総会決議しなければならないケースを想定したときに、
議事録が存在しないことを根拠に、「総額の決議はされていない。」と評価されるべきでしょうか。

また、株主構成は現在も変更ありませんので、「株主総会決議が行われたことの確認書」を
これから作成することによって、有効性を補完することは可能でしょうか。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

●●先生

ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問
>代表取締役1名が100%単独株主である会社を想定した場合、

> 株主総会の決議事項について、議事録の作成を失念した場合には、
> 株主総会決議が行われなかった(適法に意思決定されていない)と評価され、
> 無効となるのでしょうか。
> 例えば、役員報酬の総額を株主総会決議しなければならないケースを想定した
> ときに、
> 議事録が存在しないことを根拠に、「総額の決議はされていない。」と評価され
> るべきでしょうか。

2 回答

> 株主総会の決議事項について、議事録の作成を失念した場合には、
> 株主総会決議が行われなかった(適法に意思決定されていない)と評価され、
> 無効となるのでしょうか。

株主総会は、その決議によって効力を生じます。
議事録の作成は決議の効力発生の要件ではありません。

議事録がないことのみをもって、
直ちに株主総会決議がなかったとされることはありません。
また、議事録作成義務違反のペナルティは過料のみです(会社法318条1項)。
(実務上は、過料が課されているケースは見たことはありませんが。)

つまり、複数株主がいるケースでは、
議事録がないことが株主総会がない証拠として
利用されることはありますが、

> 代表取締役1名が100%単独株主である会社を想定した場合、

ということですと、
ご指摘のとおり、株主の全同意があった、または
株主総会があったものと同視するというのが、
判例の考え方ですので、

株主総会があったものとして取り扱っていただいて
問題ありません。

よろしくお願い申し上げます。

永吉先生

いつも大変お世話になっております。
分かりやすい解説をありがとうございました。

「株主の全同意があった、または株主総会があったものと
同視するというのが、判例の考え方」

とありますので、対外的に説明するに当たって引用に適した判例や、
購入した方が良い解説書籍などがありましたらご教示頂ければ幸いです。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

●●先生

ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>「株主の全同意があった、または株主総会があったものと
> 同視するというのが、判例の考え方」

>とありますので、対外的に説明するに当たって引用に適した判例や、
>購入した方が良い解説書籍などがありましたらご教示頂ければ幸いです。

2 回答

判例としては、以下の2つが参考になるかと思われます。
A 最判昭和46年6月24日民集25-4-596
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/929/051929_hanrei.pdf
B 最判昭和60年12月20日民集39-8-1869
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/698/052698_hanrei.pdf

Aの判例は、
「いわゆる一人会社の場合には、その一人の株主が出席すれば
それで株主総会は成立し、招集の手続を要しない」
との判断が下されているものです。
つまりは、一人会社の場合には、招集手続き等の
形式的な手続きが不要であるため、例えば、
自宅の部屋で意思決定しても、
結局それが、株主総会を開いた意思決定となります。
つまり問題となるのは、1人株主の意思決定となります。

Bの判例においては、Aの判例を
「招集権者による株主総会の招集の手続を欠く場合であつても、
株主全員がその開催に同意して出席したいわゆる全員出席総会において、
株主総会の権限に属する事項につき決議をしたときには、
右決議は有効に成立する」
と解釈引用したうえで、
代理人による出席も含め、株主全員が出席した場合でも、
決議が有効な場合がありうると判断したものです。

Bの判例において、Aの判例を上記のように解釈する理由としては、
「株主総会を招集するためには招集権者による
招集の手続を経ることが必要であるとしている趣旨は、
全株主に対し、会議体としての機関である株主総会の開催と
会議の目的たる事項を知らせることによつて、
これに対する出席の機会を与えるとともに
その議事及び議決に参加するための準備の機会を与えることを
目的とするものである」
ことを挙げています。

>購入した方が良い解説書籍など

上記判例で十分かとは思いますが、
これらに関する解説は、会社法の基本書であれば、
必ず記載のある論点といえます。

その意味では、どの書籍を購入していただいても大丈夫かと思います。

オーソドックなところでは、
◯株式会社法(江頭憲治郎著)

◯会社法(神田秀樹著)

◯リーガルクエスト会社法(共著)

あたりでしょうか。

弁護士であればすべて揃えている必要が
あるかとは思いますが、

あくまでも個人的な意見ですが、
江頭本は細かく分厚すぎるのと、
神田本は内容はコンパクトに整理
されていますが、行間を読ませるので、
実は玄人向けかなと思います。

リーガルクエストあたりがちょうど
良いのではないかと思います。

対外的には、江頭先生が税法でいう
ところの金子先生的なポジションですので、
どうしてもということであれば、
1冊江頭本を持っておいても良いかもしれません。

よろしくお願い申し上げます。