医療法 所得税 法人税

医療法人における生命保険を利用した節税

永吉先生

お世話になります。

●●です。

先日、当所の医療法人の決算届けを大阪府に提出したところ担当者から電話が入り
「この医療法人の特別損失について内容を説明してほしい」との事。

以下箇条書きにて

・今回特別損失として計上した内容

生命保険売却損として、12,880,248円

この保険は、低解約型逓増定期保険で今期予定通り4年間法人が掛けて、被保険者
で理事である息子に解約返戻金相当額で売却

法人の保険積立金と解約返戻金との差額、12,880,248円を生命保険売却損として特
別損失で計上

大手の保険ブローカーからの提案で加入した保険で、担当者に連絡を取ると、全国
でも初めてとの事、当所の他の医療法人もこの保険を利用して節税をしてきたが指摘
は一軒もない

大阪府からは「こんな大きな損失を計上することは問題があるのでは?」と具体的
な法律用語を使用しての指摘ではなかったものの「保険を理事に損失を出してまで売
却する事に至った
経緯を理事長名で2週間以内に提出するように」と求められました。

ブローカーの担当者もその会社の代表者も初めての事なのでと、頭を抱えている状
況です。

節税目的の保険だとストレートに出すのも、利益の配当にあたると指摘されるのも
正直怖いところで、全国の医療法人もかなりの数この保険に加入して節税をしている
と考えると下手な文章を

提出して前例となってしまうのも避けたいと考えています。

何か良いアドバイスは無いでしょうか?

問題が問題だけに個別の相談の方が良ければその心づもりもあります。

宜しくご教示お願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>ブローカーの担当者もその会社の代表者も初めての事なのでと、頭を抱えている状
>況です。
>節税目的の保険だとストレートに出すのも、利益の配当にあたると指摘されるのも
>正直怖いところで、全国の医療法人もかなりの数この保険に加入して節税をしている
>と考えると下手な文章を
>提出して前例となってしまうのも避けたいと考えています。
>何か良いアドバイスは無いでしょうか?

2 回答

税金の問題についての指摘ではないですが、
最近の税務訴訟などでは、銀行の租税回避の目的の
資料などを証拠として、国税の否認を適法とするものも
増えておりますので、抵抗があるというは
おっしゃる通りかと思います。

ただ、この大阪府の指摘ですが、
弊所の医療法人を中心に扱っている弁護士や
その他、この辺りに詳しい方などからも
情報を教えてもらいましたが、

医療法人に関しては、
平成27年の第7次医療法改正(経営の透明性を
確保するための、1000万円以上の特損が生じる
取引等の報告等)の影響から
昨年頃から重点指摘事項となっているようです。
(その是非は別として、1000万円以下になるように
もろもろ、調整するようにしている法人も多いようです。)

理事との利益相反取引は、
理事会の承認があれば可能となっています
(医療法46条の6の4、一般社団法人法84条)し、
利益配当該当性の問題についても、

現状では、
一度の指摘で、その取引が無効となるとか、
法人に不利益処分を課される等はされていないようです。
(今後の注意程度のようです。)

ただ、都道府県知事は、医療法人の「運営が著しく
適正を欠く疑いがあると認めるとき」は、
業務や会計状況に関して報告を求めたり、
検査する権限を有しており(医療法63条)、

虚偽の報告や無回答の場合には、
過料の制裁があります(同法93条)。

また、一応、都道府県知事は、
「その運営が著しく適正を欠くと認めるとき」には、
「必要な措置をとるべき」命令をすることができ、

それに従わない場合には、
設立認可の取消事由(医療法66条第1項)
になり得るため、

取引の経緯の部分の説明を
ごまかし続けることは難しいと思います。

この報告が、今後、どこまで、
税務実務の方に影響が出るのか否かに
ついていうと定かではありませんが、

>提出して前例となってしまうのも避けたいと考えています。

すでに事案としては、他の医療法人でも、
発生して、報告しているものがあるようですので、
この1件が前例になるわけではないように
思います。

よろしくお願い申し上げます。