下記について、ご教示ください。
前提1
子供が15年前に契約者、被保険者、受取人となり生命保険に加入しました。
毎月の保険料はそのときから、父親の預金口座から引き落としています。
長男と父親は贈与契約書を締結しておらず、お互いに贈与とは考えていません。
・契約者 長男
・保険料負担者 父親
・被保険者 長男
・受取人 長男
前提2
父親の相続が発生しました。
質問1
被相続人である父親が負担した保険料は、みなし相続財産になると考えますが、
民法903条の特別受益の対象にはならないと考えてよいでしょうか?
質問2
特別受益の対象とならないとしても、相続財産に占める割合が大きければ、
遺留分の対象になると考えますが、民法1044条の10年で時効となる起算日は、
保険料を負担した日ではなく、父親の相続が発生した日と考えてよいでしょうか?
以上、よろしくお願いします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①~特別受益該当性について
(1)ご質問と回答の結論
>被相続人である父親が負担した保険料は、
>みなし相続財産になると考えますが、
>民法903条の特別受益の対象にはならないと考えてよいでしょうか?
>長男と父親は贈与契約書を締結しておらず、
>お互いに贈与とは考えていません。
結論的には、民法903条の特別受益の対象となる
ものと考えられます。
(2)回答の理由
長男が負う保険料の支払債務を、
契約の当事者ではない父親が弁済すると(民法474条1項)、
第三者弁済となり、弁済者は、
債務者に対して、求償権を有することになります。
そして、今回のケースにおいて、
この求償権については、
特別受益該当性の文脈では、
支払った時点で、
債権放棄があったと認定される可能性が非常に
高いものと思われます。
もちろん、放棄の有無は事実認定に
依存するところですが、
①長期間にわたり被相続人が求償請求をしないまま権利を放置していたこと
②肩代わり後も被相続人が同一の相続人に対してさらなる追加援助を行っていたこと
などの事情から裁判所は放棄の事実を
認定する可能性が非常に高いと思います。
仮に、放棄の事実が認められない場合には、
父親から長男への求償権が相続財産となり、
(預貯金等ではない)純粋な金銭債権ですので、
法定相続分に応じて、当然分割され、
その他の相続人は、支払われた保険料の
法定相続分を長男に請求できると
いうこととなります。
確かに民法903条の文脈における
特別受益には10年の限定がかからず、
この求償権は10年で消滅時効にかかる
ことからすると後者が有利となるケースも
理論的にはあるかとは思います。
なお、名義預金の議論との兼ね合いで
上記の議論に疑問を持たれるかな
とも思いましたが、これについての法的な
意味の違いを説明すると論文になってしまうため、
その点は割愛します。
2 ご質問②~特別受益の期間制限について
>特別受益の対象とならないとしても、相続財産に占める割合が大きければ、
>遺留分の対象になると考えますが、民法1044条の10年で時効となる起算日は、
>保険料を負担した日ではなく、父親の相続が発生した日と考えてよいでしょうか?
ご質問の趣旨としては、
生命保険金が特別受益に準じて扱われるケースの
ご想定なのかと思われますが、
>相続財産に占める割合が大きければ、
>遺留分の対象になると考えます
の議論は、被相続人の「死亡」に起因した
保険金の支払いがあった場合に、
受取人が一定の相続人であったという
ケースの問題であり、今回は問題になりません。
したがって、債権放棄があった時点
(「1」の債権放棄の認定によりますが、
多くの場合は、保険料の負担をした日)となります。
なお、民法1044条は、厳密には「時効」
ではなく、遺留分基礎財産の算入の期間制限となります。
よろしくお願い申し上げます。