(前提)
・先日、市役所で行われる資産税の無料相談会場に支部から派遣されました。
・「住宅取得等資金の贈与税の非課税特例」についての相談があり、
対象住宅は中古住宅ということで、特例の限度額は700万円であること、
それに基礎控除額110万円を合わせて、810万円まで贈与税をかけずに、
贈与できる旨をお話しし、必ず申告はするように念を押しました。
・相談者が帰ってから、特例対象となる中古住宅にもいろいろな要件が
付されていることを思い出しましたが、後の祭り。その要件について説明を漏らしています。
・決済は今月行われることから、贈与も今月中に行うとのこと。
・偶然、要件をクリアしていれば、幸運なのですが、そうでなければ
120万円の贈与税となります。
・相談者の氏名はわかっており、電話帳を調べて、数件同じ姓の方に、
電話してみたのですが、すべての人が電話帳に電話番号を載せているわけではないので、
相談者に連絡を取ることは不可能でした。
・市役所の税務課においても、氏名は把握していても、住所や電話番号は不明とのことでした。
・市民課で調べてもらえないかと要請しましたが、残念ながら、個人情報のことがあり、
それはできないということでした。
(質問)
・こういう会場での相談については、責任はないと聞いたことはありますが
責任がないからと言って、知らん顔をするのもどうなのか、と思うところです。
・市役所や支部にクレームが入るでしょうし。
・で、こういうケースで税理士賠償保険は対象事故としてくれるのでしょうか。
・事前税務相談業務担保特約には加入しています。
よろしくお願いします。
ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①~市の無料相談会場における税理士の責任~
>こういう会場での相談については、責任はないと聞いたことはありますが
>責任がないからと言って、知らん顔をするのもどうなのか、と思うところです。
>市役所や支部にクレームが入るでしょうし。
理論上は、責任が生じないというわけでは、
ありません。
ただ、市の無料相談会等ですと、
確認できる資料や時間に限界がある上、
相談者とも継続的に接触できる
わけでもありません
(つまり相談者がどれだけ理解している
のかも、通常の税務相談に比べて、把握
できるわけではない)
から、
税理士の注意義務としては、かなり
低いものとなると評価せざるを得ません。
また、相談者の方は、
他の税理士に相談することができた
にもかかわらず、市の無料相談で済ませた
というところもありますので、
現実的に裁判所が税理士の責任を認定するか
と言うと、しないと思われます。
もちろん、故意に誤った情報を伝えた(証拠
がある)場合などは別かとは思いますが、
実務上は、責任が認められる可能性は
著しく低いかと思います。
また、この相談会の情報を個別に
確認したわけではありませんが、
主催が、市または税理士会という
ことですと、 一次的には市または税理士会の行為と
捉えられるものとも 思われます(税理士法の関係では疑義がありますが)。
ですので、税理士の先生が損害賠償責任を負う
ケースというのは非常に稀かと思います。
(実務上はあまり想定できない。)
2 ご質問②~税賠保険の対象事故となるのか~
>・で、こういうケースで税理士賠償保険は対象事故としてくれるのでしょうか。
(1)税理士が負う責任か否か
まず、税賠保険の大前提として、
依頼者に生じた「損害」について、税理士が
法的に責任を負う場合という限定があります
(税理士の法的な損害賠償責任に対する保険ですので)。
今回のケースで、法的に税理士の
先生が責任を負うと評価できなければ、
税賠保険の対象にはなりません。
(上記「1」を前提とすると
ならないかと思います。)
以下では、税理士の先生に責任が生じる
場合と仮定して、
どの損害が保険対象となるのかについて
解説します。
(2)仮に責任があった場合に保険対象になるのか
まず、今回の相談は、過去の課税要件事実
ではなく、将来の課税要件事実に関する
ものですので、本則の税賠保険ではなく、
事前相談特約の適用の有無が問題になります。
>・事前税務相談業務担保特約には加入しています。
ということですので、この点は問題ないでしょう。
ア 本税分
まず、一般論としては、
本税分については、
納税者の行為に対して、
課されるものですので、贈与をした
のが納税者である以上、納税者が
負担すべきものであり、税理士の先生に
責任があるとは言えません。
一方、この時点で、他の方法により
贈与をすれば、本税が安くなる方法
がある(税制選択の問題)というようなケースで
あれば、説明義務違反として、
その差額については、税理士の先生の責任となります。
ただ、この責任を上記のように、
市の無料相談を受けた先生が負担するというのは、
難しいと思います。
したがって、税賠保険の対象とも
ならないでしょう。
なお、贈与税がかかるのであれば、
そもそも贈与をしなかったという
主張については、「ウ」をご覧ください。
イ 附帯税分
こちらについては、免責事項として、
そもそも保険対象外となります。
附帯税が補償されるとすると、安易な
脱税相談につながる恐れがある
(どうせ保険がおりるから過少申告しましょうと
なりやすい)
ため、税賠保険の対象とはなりません。
ウ その他
その他の主張として、
仮に贈与税がかかるのであれば、
そもそも贈与をしなかったという
理由で、本税分が「損害」である
という主張も考えられます。
これは、誰に対して贈与しようと
していたのか等にもよるところですが、
仮に一生、贈与をせず、相続税が課されて
いた可能性もあり、その金額は他の相続財産
等にも依存しますし、
相談者が、本当に贈与税がかかるのであれば、
贈与をしなかったと立証できなくてはなりません。
(少なくとも自分が意図していた贈与という目的を
達成できているわけですので)
また、相談のされ方にも依存しますが、
市の無料相談会などで、税理士の先生が贈与税
が課されないのであれば、贈与しなかったの
であろうと予測できた(因果関係の問題)
かというとこのような会場では難しいと
思われます。
したがって、このような主張をしても、
税理士の責任とならない
可能性が高いので、やはり本税分は、
税賠保険の対象とならないものと思われます。
仮定の上に仮定を重ねての解説となり
わかりにくい部分もあったかと思いますが、
今回のご質問では、
①そもそも先生が責任を負うことがないであろうこと
②仮に責任があったとしても、附帯税部分かと思われますので、
その点については、税賠保険の対象とはならないこと
2点をご確認いただければと思います。
よろしくお願い申し上げます。