民法

貸金返還請求を受けた場合の対応について

顧問先からの相談です

事実
①甲社長は平成29年10月会社設立に際し、共同で立ち上げた乙(従業員)より、
資本金分90万 借用書記載(返済期限だけが空欄)の借入410万
合計500万円を受け取った。(個人間でやり取り)

②乙は、平成31年1月に自己都合退職した。その前に株式出資分については
甲が買取り、話は合意されている。

③令和元年6月6日付けで、乙代理人弁護士より甲へ、
500万円全額を一括で返済せよと内容証明が届きました。

質問
この場合の返答についての対応方法を聞かれています。

① 送達日より1か月以内に返答しない場合は法的措置をとるとなっているが
  無視しても大丈夫かなものでしょうか?

② 内容に齟齬(一部は資本金で解決済のはず)があるので、それに対し
  反論し、返済方法についても書面で返答交渉すべきでしょうか?(和解)

③ 電話などで甲が代理人弁護士と話し合うとした場合の注意点は
  どんなことがありますか?

④ 返す意思はありますが、甲としても代理人を立てて進めるべきでしょうか?

⑤ 甲としては、借りたものは返すことにはなりますが、すぐに一括返済は無理なので
  毎月なりに分割して払いたい要望があります。
  借用書には「返済期日までに全額を返済する」となっております。
  ただ返済年月日が空欄です。つまり曖昧にしたままでした。
  その場合でも乙代理人からすぐに一括返済と言われてしまいますか?
  それに対し、対抗するのはそれほど難しくはないでしょうか?

以上、宜しくお願い申しあげます。

1 ご質問①について
(1)ご質問

>① 送達日より1か月以内に返答しない場合は法的措置をとるとなっているが
>  無視しても大丈夫なものでしょうか?

(2)回答

先生側の主張を前提としても、
少なくとも410万円は貸金で、
借用書もあるということでしたら、

相手は証拠も揃っており、
立証に困ることもないでしょう。

このような確実な債権なら、
相手の返済見込みが相当薄い(資力がない)というような
特別な事情がない限り、交渉で相手が応じなければ、
回収のために訴訟を提起してくる可能性が高いです。
(それだけコストをかけても、
回収できる見込みがあるため)

したがって、今回は、このまま無視し続けると、
訴訟を提起される可能性が高いと思います。

ただし、
>送達日より1か月以内に返答しない場合は法的措置をとるとなっている

のは、弁護士が書面を送付する場合、
回答期限を区切るのが一般的なので、
定型的に入れているにすぎないと思われます。

なので、1ヶ月を過ぎたらすぐに
訴訟へ動き出すとは限りません。

ですが、
そう遠くない時期に訴訟を提起してくるでしょうから、
訴訟提起を避けたいということであれば、
できるだけ、回答期限までに回答はした方が
無難ではあります。

期限までに正式な回答が難しい場合は、
期限前に、のちに回答すること自体は伝え、
こちらから回答の目途を伝えておくとよいでしょう。

相手が回答する見込みがあるにもかかわらず、
それを無視していきなり訴訟提起をすることは
あまり考えられません。

2 ご質問②・③について
(1)ご質問

>② 内容に齟齬(一部は資本金で解決済のはず)があるので、それに対し
>  反論し、返済方法についても書面で返答交渉すべきでしょうか?(和解)

>③ 電話などで甲が代理人弁護士と話し合うとした場合の注意点は
>  どんなことがありますか?

(2)回答

>①甲社長は平成29年10月会社設立に際し、共同で立ち上げた乙(従業員)より、
>資本金分90万
>を受け取った。(個人間でやり取り)

>②乙は、平成31年1月に自己都合退職した。その前に株式出資分については
>甲が買取り、話は合意されている。

以上の事情からすると、
甲は、請求された500万円中90万円については、
返還義務を争う旨の主張をすることになるかと思います。

そして、伝える内容としては、概要以下のとおりかと思います。

・90万円の返還義務はなく、返済には応じられないこと
・410万円のみであれば、返済の意思はあること
・410万円についても一括での返済は難しく、分割での返済を希望すること
・返済時期、金額について合意する際、合意書を作成し、410万円以外については、返済義務はないことを確認することが条件であること

特に4つ目は、合意書にいれておかないと
後から、残りの90万円についても請求される危険が
あるため、必須の条項です。

このような合意書が締結できないのであれば、
返済はしない旨を伝えてもよいでしょう。

連絡の方法は、書面、電話のいずれでもよいと思いますが、

電話だと、いろいろと聞かれて、
余計なことを話してしまうリスクもあるので、
まずは書面を送られた方がよいかと思います。
(弁護士の場合はFAX等)

書面であれば、こちらの言いたいことだけを
言うことができ、また、内容も入念に確認した上で
誤りのないものを送ることができるからです。

また、今回の場合、伝える内容も
それほど複雑ではなく、
電話で連絡することもNGではありません。

仮に、電話で連絡する際には、90万円の部分について、
誤ったこと(こちらの認識と違うこと)を
言わないように、またあまり余計なことは
話さないように気をつけてください。

録音などされていて、後に、
こちらの不利な証拠として使用される
可能性もあり得ます。

3 ご質問④について
(1)ご質問

>④ 返す意思はありますが、甲としても代理人を立てて進めるべきでしょうか?

(2)回答

410万円については、返済のスケジュール等を
決めるのみになると思いますので、

自分で対応することが精神的に厳しい等が
なければ、代理人を立てて進めるべきとまでは
言えないと思います。

代理人を立てるべきか否かについては、
残りの90万円の帰趨によるところです。

両者間で、この点について折り合いがつくようであれば
(相手が90万円についてはこちらの主張を認めるなど)、
代理人を入れる必要はありません。

問題は、90万円について折り合いがつかない場合で、
こちらとしても、この点は譲れないということであれば、
こちらも代理人を入れて、法的に争っていくべきかと思います。

とりあえず、交渉段階で、いきなり代理人を立てる
必然性はなく、ご自身で交渉されてよいと思います。

4 ご質問⑤について
(1)ご質問

>⑤ 甲としては、借りたものは返すことにはなりますが、すぐに一括返済は無理なので
>  毎月なりに分割して払いたい要望があります。
>  借用書には「返済期日までに全額を返済する」となっております。
>  ただ返済年月日が空欄です。つまり曖昧にしたままでした。
>  その場合でも乙代理人からすぐに一括返済と言われてしまいますか?
> それに対し、対抗するのはそれほど難しくはないでしょうか?

(2)回答

甲乙間で締結した借用書の返済年月日を空欄とし、
金銭の返還期限を定めていない場合には、
甲乙間の金銭消費貸借契約は、
期限の定めのないものとなります。

民法上、期限の定めのない金銭消費貸借契約は、
返還の催告を受けた場合には、
相当期間経過後に一括での
返済義務が生じます(民法591条1項)。

このため、借用書があることからすると、
甲が返還義務を争わない410万円については、
約1か月後に一括での返済義務が生じることは免れません。

法的には一括での返済義務があるため、
これを分割で返済するとなると、
相手に返済の猶予をもらうという
あくまでお願いベースの交渉になります。

したがって、こちらが、分割での返済につき、
強い立場にあるわけではありません。

ただ、相手が個人であり、
410万円という金額を一括で返済することは
容易ではないため、相手は、分割での
支払いでもよいと考えている可能性は高い
と思います。

返済について約束をとることの方が大事と考えるのが
通常なので、長くない期間の分割であれば
応じるというのが通例かと思います。
(あまり長期の分割だと嫌がられることが多いです)

したがって、分割は認められないと言われても、
どうしても分割でないと支払えないと粘れば、
分割での合意にはたどり着ける
のではないかと思います。

よろしくお願い申し上げます。