民法

契約書の損害賠償に関する規定の意味

契約書に「甲又は乙は、相手方が本契約書に違反した場合には、それにより被った損害の賠償を相手方に請求することができる。」といった損賠賠償に関する規定が入っていることがあります。

①当該規定がないと、契約の相手方が契約違反した際に、損害賠償請求ができないのでしょうか?
(たまに、当該規定がない契約書も見かけます)

②①のおいて「損害賠償請求ができる」というご回答の場合ですが、当該規定がある場合とない場合とでの差異は何になるのでしょうか?

よろしくお願いいたします。

1 ご質問①

>契約書に「甲又は乙は、相手方が本契約書に違反した場合には、それにより被った損害の賠
>償を相手方に請求することができる。」といった損賠賠償に関する規定が入っていることが
>あります。
>①当該規定がないと、契約の相手方が契約違反した際に、損害賠償請求ができないのでしょ
>うか?
>(たまに、当該規定がない契約書も見かけます)

民法上、債務不履行(契約違反。415条)や
不法行為(709条)に基づく損害賠償請求の
定めがありますので、契約で損害賠償請求ができる旨を
定めていなくても、これらの規定の基づき、
損害賠償請求をすることが可能です。

2 ご質問②

>②①のおいて「損害賠償請求ができる」というご回答の場合ですが、当該規定がある場合と
>ない場合とでの差異は何になるのでしょうか?

契約書に損害賠償請求の規定を入れる際には、
その意味は、2つに分けられます。

(1)損害賠償請求ができることを確認する意味

民法上の損害賠償と同様の規定を契約書に入れる場合には、
法的な効果は特になく、法律上、当然に請求できることを
確認的に入れているにすぎません。

あえて何の意味があるか、といえば、
契約書に定めて、お互いにそのことを認識することで、
お互いに契約に違反しないように、
抑止力とするということです。
(契約書に書いていないより書いている方が、
損害賠償されないように契約をしっかり守ろうと
いう気持ちになると思います。)

一般的な契約書では、デフォルトで損害賠償請求に関する
規定を入れることが多いですが、
このような趣旨で入れていることが多いと思います。
(ここまで考えずに、ひな形に入っているので、
そのまま入れていることも現実的には多いとは思いますが。)

(2)損害賠償請求ができる要件や損害額等について民法上の原則を修正する意味

民法上、損害賠償請求をすることができるとしても、
契約の中で、損害賠償請求ができる要件や
その損害額などについて、異なる定めをすることも可能です。
(契約自由の原則)

このような意味で、民法の規定を修正する意味を
持つことになる場合があります。

たとえば、以下のようなものがあります。

①故意又は重過失がある場合に限るもの

民法では、「過失」があれば損害賠償請求することが
可能ですが、このような規定を入れておけば、
「重過失」に至らない「軽過失」しかない場合には、
損害賠償請求ができなくなります。

②損害賠償の範囲を限定または拡張する場合

民法上、債務不履行に基づく損害賠償請求の場合には、
弁護士費用の賠償までは請求できないのが
一般的ですが、賠償請求できる損害に
「弁護士費用を含む」などとして、
損害賠償請求を行う際に要した
弁護士費用も損害の範囲に含めるような規定があります。

③損害賠償額の上限を定める規定

損害賠償額の上限は●●円とする、など、
具体的に、損害賠償ができる金額を限定するような規定です。
このような条項は、民法上の損害賠償請求の金額を
限定する意味を持ちます。

なお、損害賠償責任の過度な免責や、
過大な損害賠償額の予定などを定めたとしても、
公序良俗(民法90条)、信義則(民法1条2項)に反する
などとして、その条項が無効とされる場合もありますので、
契約で定めたからといっても、全てそのとおりの
効力が認められるわけではありません。

特に契約の相手が事業者ではなく、消費者である場合には、
消費者契約法により、消費者の損害賠償請求権を
不当に制限する規定は、無効とされることが多いので、
ご注意いただければと思います。

なお、このあたりについては、特典の雛形
の顧問契約書や相続税申告の契約書の「説明書」
にも、詳細な記述がありますので、そちらもご確認ください。

よろしくお願い申し上げます。